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広報・プレスリリース情報(2015年(平成27年))

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AYA世代に多い白血病の原因を解明
  ~革新的な治療法へ期待~

AYA世代のがんの多くは原因が不明です。 なかでもB細胞性急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia: B-ALL)はAYA世代に最も頻度の高いがんの一種ですが、9割近くが原因不明なままでした。

東京大学大学院医学系研究科の間野博行教授らのグループは、AYA世代のB-ALL白血病細胞を次世代シーケンサーにより網羅的に解析することで、B-ALLの約65%の症例が何らかの融合型がん遺伝子を有することを発見しました。 そのうち、最も多く(約16%)見られたのは全く新しいがん遺伝子DUX4-IGH融合遺伝子で、2番目に多いものはZNF384融合遺伝子、3番目に多いものは新規MEF2D融合遺伝子でした。

DUX4はこれまで発がんとの関わりは知られていなかった遺伝子ですが、AYA世代B-ALLにおいては、DUX4遺伝子の後ろ側が削れた上で免疫グロブリン遺伝子H鎖(以下、IGH)座に挿入されて融合し、大量のDUX4-IGHの融合タンパクが産生されることが新たに明らかになりました。 この融合タンパク質は強力な発がん能を獲得しており、DUX4-IGH融合タンパクをネズミのB細胞で産生させるとネズミは白血病を発症すること、またDUX4-IGHを持っているB-ALL細胞株でDUX4-IGHの発現を低下させると細胞死が誘導されることも確認されました。 さらにDUX4-IGHあるいはZNF384融合型がん遺伝子を有する白血病は予後良好群に属し、MEF2D融合型がん遺伝子陽性の白血病は予後不良群に属することも明らかになりました。

本研究は、これまで発症原因が不明であったAYA世代白血病の多くの症例における原因を解明しただけでなく、その治療法・予後予測マーカーの提案へとつながる新たながん遺伝子を発見した画期的な成果です。 この発見はAYA世代B-ALLに対する新しい分子標的治療法開発や、同疾患の予後予測診断法の速やかな実用化につながることが期待されます。

本研究成果は、「Nature Genetics」3月29日オンライン版に掲載されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 392KB]をご覧下さい。

(2016/3/29)

なぜ私たちは眠るか ~眠りの素は細胞内カルシウム?~

ヒトをはじめとする哺乳類の睡眠時間・覚醒時間は一定に保たれていることが知られていますが、その本質的メカニズムはよくわかっていませんでした。 東京大学(五神真総長)と理化学研究所(理研、松本紘理事長)は、神経細胞のコンピュータシミュレーションと動物実験を組み合わせることで、睡眠・覚醒の制御にカルシウムイオンが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。 さらに、カルシウムイオン・カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)をはじめとするカルシウムイオン依存的な経路の遺伝子をノックアウトすることで、睡眠時間が恒常的に増減する複数種類の遺伝子改変マウス(睡眠障害モデルマウス)の作製に成功しました。 同睡眠障害モデルマウスは、睡眠障害だけでなく睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患や神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)に対する診断法や治療法の開発に繋がることが期待されます。 本研究は、東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 薬理学講座 システムズ薬理学分野の上田泰己 教授(理研 生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)細胞デザインコア長 兼任)、東京大学医学部の多月文哉 学部学生6年生、理研 生命システム研究センターの砂川玄志郎 元研究員(研究当時、現 理研 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト研究員)、東京大学大学院医学系研究科の史蕭逸 博士課程3年生、洲崎悦生 助教(理研 客員研究員 兼務)、理研 生命システム研究センターの幸長弘子 基礎科学特別研究員、ディミトリ・ペリン研究員(研究当時、現 理研 客員研究員)らの共同研究グループの成果です。本研究成果は、『Neuron』 3月17日オンライン版に掲載されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 649KB]をご覧下さい。

(2016/3/18)

胃がん発症における発がん細菌と発がんウイルスの連携

cagA遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリ(cagA陽性ピロリ菌)の胃粘膜慢性感染は胃がん発症の最大のリスク因子となります。 一方、約10%の胃がん症例では、cagA陽性ピロリ菌感染に加えて、エプスタイン・バールウイルス(以下EBウイルス)が胃がん細胞に感染していることが知られています。 しかしながら、ピロリ菌とEBウイルスの共感染が胃がんの発症に及ぼす役割はこれまで全く研究されていませんでした。 ピロリ菌cagA遺伝子から作り出されるCagAタンパク質は胃上皮細胞に侵入後、チロシンリン酸化という修飾を受けることで発がん活性を発揮します。 本研究では、ピロリ菌タンパク質CagAを脱リン酸化する酵素(ホスファターゼ)としてSHP1(タンパク質チロシンホスファターゼ)を同定しました。 SHP1によるチロシン脱リン酸化の結果、CagAタンパク質の発がん活性は中和されたことから、SHP1は胃がんの発症を抑制する分子と考えられます。 これに対し、EBウイルスが感染した胃の細胞内ではSHP1の発現が抑制され、その結果、ピロリ菌CagAタンパク質の発がん活性は、より増強することが明らかになりました。 この成果は、細菌とウイルスが連携してヒトのがん発症を促す仕組みを世界で初めて明らかにしたものです。 本研究は、東京大学大学院医学系研究科 畠山昌則教授、紙谷尚子講師、千葉大学大学院医学系研究科 金田篤志教授、東京大学大学院医学系研究科 深山正久教授、瀬戸泰之教授、の共同研究として行われ、英科学誌「Nature Microbiology(ネイチャー・マイクロバイオロジー)」オンライン版に掲載されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 598KB]をご覧下さい。

(2016/3/15)

2型糖尿病・糖尿病予備群を対象としたスマホアプリによる臨床研究開始

このたび、東京大学と株式会社NTT ドコモとの社会連携講座として設置された、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター健康空間情報学講座の脇嘉代特任准教授、同大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻の相澤清晴教授らは、Apple社ResearchKitを用いたものとしては国内で初めてとなる2型糖尿病・糖尿病予備群を対象にスマホアプリ「GlucoNote(グルコノート)」による臨床研究を開始しました。

健診データに加えて、従来の臨床研究では収集することが難しかった、家庭などで計測した血糖値、血圧、体重、活動量などのデータと、食事や運動、睡眠など生活習慣に関する情報を継続的に収集することによって2型糖尿病患者・糖尿病予備群の健康状態と日常生活の関連性をより多角的に検討することができるようになります。

また、ユーザーにスマホを使った自己管理支援を提供することで、東大COI拠点(自分で守る健康社会 ~Self-Managing Healthy Society COI拠点~)が目指す「自分で守る健康社会」への貢献が期待されます。

PDFリリース文書[PDF:442KB](東大病院HP掲載)

(2016/3/14)

免疫系が骨を治す ~骨折治癒の仕組みを解明~

骨折治療では、折れた骨を元の位置に戻して固定し、安静に保つことで治癒を図ります。 固定期間は数ヶ月に及ぶこともあり、場合によっては日常生活や仕事に大きく支障を来すことがあります。 また、高齢患者の場合、長期間ベッド上で安静にすることが原因で筋力が低下し、寝たきりとなることもあります。 患者の早期の社会復帰や寝たきり防止のためには、治癒期間の短縮が骨折治療における重要な課題となります。 新しい手術法や固定材料の開発といった進歩は見られるものの、今もなお、治癒の遅延例や治癒不良例は少なくありません。

このたび、東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野の小野 岳人 博士研究員(研究当時)と、岡本 一男 助教、高柳 広 教授らの研究グループは、マウス骨折モデルを用いて、骨折治癒における免疫系の役割を検討しました。 その結果、骨折に伴い骨欠損部位でガンマデルタT細胞が増加し、IL-17を産生することを見いだしました。 IL-17は骨折部位に含まれる間葉系幹細胞を増やし、骨芽細胞に成長させることで、骨の形成を促進しました。 IL-17やガンマデルタT細胞を欠損するマウスでは、骨折治癒が遅延していました。 以上により、IL-17を産生するガンマデルタT細胞が骨折治癒を促進するという、免疫系による骨折治癒制御の新たなメカニズムが明らかになりました。 今後、IL-17やガンマデルタT細胞を治療標的とした骨折治療法の開発が期待されます。

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業などの一環で行われました。

本研究成果は、2016年3月11日(米国東部標準時間)に国際科学誌「Nature Communications」にオンライン版で公開されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 421KB]をご覧下さい。

(2016/3/14)

がんに対するDDS(薬物標的治療)の効率を高める新しい腫瘍血管透過経路を発見!

がん組織の血管は正常組織の血管と比べて構造が未熟で、透過性の高い「静的な穴(static pore)」がたくさんあります。 東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・聴覚音声外科の松本有助教、山岨達也教授、東京大学大学院工学系研究科・医学系研究科の片岡一則教授(ナノ医療イノベーションセンター・センター長兼任)らの研究チームは、生きたマウスに腫瘍を生着させ、薬がどのようにがん細胞に到達するのかを詳細に観察しました。 がん血管のところどころでstatic poreより大きい「動的な隙間(dynamic vent)」が短時間だけ開き、そこから薬が血管の外へ勢い良く「噴出(eruption)」するという現象を発見しました。 今後の研究によって、特に治療が難しいがんの治療効率を高める新しい薬剤送達法の開発に繋がるものと期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Nanotechnology」に2月15日(火)(英国時間)に掲載されました。

なお、本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」および戦略的創造研究推進事業(CREST)、ならびに、内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援(FIRST)プログラム、日本学術振興会・科学研究費補助金などの支援によって行われました。

PDFリリース文書[PDF:540KB](東大病院HP掲載)

(2016/2/16)

細胞内タンパク質輸送の異常が記憶・学習等の脳高次機能に障害を与える分子メカニズムを発見 ~精神疾患の新しい薬の開発に期待~

大阪大学大学院薬学研究科の中澤敬信特任准教授、東京大学大学院医学系研究科の狩野方伸教授、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授のグループは、細胞内タンパク質輸送を介したシナプス機能調節のメカニズムを発見し、細胞内のタンパク質輸送の異常が記憶・学習等の脳高次機能に障害を与えることを新たに見いだしました。 この発見は、脳機能の分子メカニズムの研究を行っている中澤特任准教授、狩野教授と、精神疾患に関する橋本准教授の研究の共同の成果として見いだされたものです。

精神疾患の発症の原因は未だ不明な点がほとんどであり、新たな治療薬の開発が緊急の課題である現状において、精神疾患と関連する脳高次機能異常の分子メカニズムを見いだしたことは、精神医学領域や基礎医学/薬学領域において極めて注目される成果です。 今後、統合失調症等の精神疾患の新規創薬研究に発展することが期待されます。

なお、本研究成果は、国際的な学術雑誌「Nature Communications」の電子版に2月3日(水)(英国時間10時、日本時間19時)に掲載されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 1.40MB]をご覧下さい。

(2016/2/4)

治療用転写因子のメッセンジャーRNA(mRNA)送達による変形性関節症治療
  ~mRNA が変形性関節症治療の核酸医薬に~

胎児期に形成される軟骨の多くは、成長期まで骨格の成長を調節するほか、関節軟骨として、生涯にわたってわたしたちが運動する際に重要な役割を果たします。 さまざまな原因によって、関節軟骨が変性や傷害を受けると、変形性関節症を引き起こします。 変形性関節症患者は、膝関節だけで国内に2,530 万人以上いると推測されます。 高齢化社会を迎えた現在、変形性関節症は高齢者の生活の質(QOL)を低下させ、健康寿命を脅かす代表的な疾患ですが、根治療法は開発されていません。

東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻のハイラト アニ(Hailati Aini)特任研究員、大庭伸介特任准教授、鄭雄一教授(医学系兼担)と医学系研究科附属疾患生命工学センターの位髙啓史特任准教授、片岡一則教授らの研究グループは、治療用転写因子のmRNAを関節内へ送達することで変形性関節症の進行を抑制できることを、動物モデルを用いて世界で初めて示しました。

本研究成果は、転写因子mRNA を、治療に必要な遺伝子の転写を特異的に調節する新しい核酸医薬として提唱し、運動器変性疾患治療における有効性を示唆するものです。 運動器領域をはじめとした各種変性疾患に対する病態修飾療法や組織再生療法への応用が期待されます。 本研究の内容は、2016年1月5日に英国科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン版で発表されました。

※詳細はPDFこちらをご覧下さい。

(2016/2/3)

2型糖尿病に関わる新たな遺伝子領域を発見
  ~新たな治療薬開発の一助に~

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター腎・代謝・内分泌疾患研究チームの前田士郎チームリーダー(琉球大学医学研究科教授)、今村美菜子客員研究員(琉球大学医学研究科准教授)と東京大学大学院医学系研究科/東京大学医学部附属病院の門脇孝教授らの共同研究チームは、日本人4万人以上を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、日本人の2型糖尿病の発症に関わる7つの疾患感受性遺伝子領域を新たに同定しました。 また、疾患感受性遺伝子領域内の遺伝子と、2型糖尿病治療薬のターゲット遺伝子とのつながりを調べることで、新規治療薬候補を同定しました。

2型糖尿病は、生活習慣などの環境要因とともに遺伝要因が発症に関与することが知られています。 これまでに国内外の研究グループによって精力的にGWASが実施され、2型糖尿病の発症に関与する疾患感受性遺伝子領域が数多く報告されています。 しかし、日本人における遺伝要因を解明するためには、日本人を対象としたGWASを行う必要があります。

共同研究チームは日本人集団のみを用いた2型糖尿病GWASとしては最大規模となる約4万人のゲノムの一塩基多型(SNP)を網羅的に解析し、別の日本人集団約1万3千人のゲノムを用いた検証解析を経て、疾患感受性との関連が認められる7つの遺伝子領域を同定しました。 また、約22万人の外国人のゲノムを用いて関連を検証した結果、日本人集団で同定された7領域のうち5領域で、外国人においても疾患感受性との関連が再現されました。 さらに、今回同定した7領域と既知の疾患感受性遺伝子領域内の遺伝子について多様な生物学的データベースとの網羅的な照合を行い、疾患感受性遺伝子と創薬データベース上のターゲット遺伝子とのつながりを調べたところ、既存の2型糖尿病治療薬に加えて、その他の病気の治療薬として開発されている薬の中にも2型糖尿病の疾患感受性遺伝子領域をターゲットとしているものが複数存在することがわかりました。 これらの薬は2型糖尿病治療に適応できる可能性があり、新たな治療薬開発の一助となることが期待できます。

本研究は、文部科学省が推進するオーダーメイド医療の実現プログラムの支援のもと行われました。 成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(1月28日付:日本時間1月28日)に掲載されました。

※詳細は理化学研究所 プレスリリース(研究成果2016)をご覧下さい。

(2016/2/2)

自殺未遂者への救急医療における精神科医療の充実を
  ~自殺未遂等の過量服薬による入院患者への精神科介入が、再入院の減少と関連~

自殺未遂者が自殺を完遂する可能性は、自殺未遂者以外の者と比較して、著しく高いといわれています。 したがって、自殺者を減らす対策の1つとして、自殺未遂者に対する精神科医療が重要と考えられます。 2008年度の診療報酬改定においても、自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ目的で、「救命救急入院料 精神疾患診断治療初回加算」が新設されています。 ところが、自殺未遂で受診した患者に対する精神科医療の有効性について、これまで確固たる根拠は示されていませんでした。 そこで本研究は、自殺未遂者に対する救急医療における精神科医療の有効性を検証することにしました。

入院を要する自殺未遂の手段の多くは過量服薬です。 そのため本研究は、救命救急センターに入院した過量服薬患者に対する精神科医の診察が、再入院の減少と関連しているかを調べました。 大規模入院患者データベースを用いて、患者情報・治療内容・病院情報等を分析した結果、救命救急センターに入院した過量服薬の患者への精神科医の診察が、再入院率の低さと関連していることが示されました。 本研究の結果は、「自殺未遂者に対する救急医療における精神科医療の充実の必要性」という示唆を、今後の精神保健医療政策や自殺予防政策に与えるものと考えます。

本研究は、東京大学大学院医学系研究科ユースメンタルヘルス講座 金原明子特任助教、公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学 康永秀生教授、脳神経医学専攻精神医学分野 笠井清登教授らの研究グループによるもので、これらの成果は日本時間2015年11月9日にBritish Journal of Psychiatry Open に掲載されました。 なお、本研究は、厚生労働科学研究費補助金(政策科学推進研究事業 指定研究班)の支援を受けて行われました。

PDFリリース文書[PDF:140KB](東大病院HP掲載)

(2016/2/2)

AIM投与による急性腎不全治療につながる革新的成果

腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄する重要な器官である。 腎臓の機能が低下すると、血液中に老廃物が溜まり、身体の色々な臓器の働きに支障をきたす。 出血による腎臓の虚血、細菌感染、薬剤など色々な原因により腎臓が障害され、急速に腎機能が低下する状況を急性腎不全という。 急性腎不全は自然に改善する場合もあるが、致死率も高い。 また、急性腎不全を発症した患者は慢性化するリスクが著しく高まり、慢性腎不全となり将来的に透析を受けなくてはならなくなる場合も多い。 これまで多くの研究がなされてきたが、急性腎不全に対して確実な治療法の確立は果たされていなかった。

東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授らの研究グループは、自ら発見したタンパク質AIMが、直接腎臓に働きかけ急性腎不全を治癒させることを明らかにした。 急性腎不全が生じると、腎臓の中の尿の通り道(尿細管という)に “ゴミ”(細胞の死骸)が詰まり、そのことが腎機能の低下を招く引き金となることが知られている。 AIMは通常血液中に存在するが、腎臓の機能が低下すると尿中に移行しゴミに付着する。 そして付着したAIMが目印となって、周囲の細胞が一斉にゴミを掃除し、迅速に詰まりが解消され、その結果、腎機能は速やかに改善することが明らかとなった。 さらに本研究グループは、AIMを持たないマウスが急性腎不全になると、詰まったゴミは掃除されることなく、腎臓の機能は著しく悪化し続け多くが死んでしまい、またAIMを正常に持っているマウスでも、重症の急性腎不全を起こすと、体内に持っているAIMの量では十分にゴミが掃除されず、腎臓内の詰まりが解消されないまま、やはり多くが死んでしまうことを明らかにした。 そしていずれの場合でも、AIMを静脈注射することで、尿細管の詰まりは劇的に解消され、腎機能が速やかに改善し致死率は著しく低下することを見出した(注:致死率は60~100 %であったものが、AIM投与により0 %となった)。

すなわち、血中のAIM量が不十分である場合(もともと血中濃度が低い場合や、重度の腎不全が生じた場合)には、AIMを投与することで急性腎不全を速やかに改善させ、慢性化する危険を回避することが可能であると考えられる。 腎機能低下時の血中AIMの尿中への移行およびゴミへの付着は、ヒト急性腎不全患者でも同様に観察されるため、マウスだけでなくヒト急性腎不全患者においても、AIMによる治療は有効であると考えられる。

本研究結果により、これまで確実な治療法のなかった急性腎不全の治療がAIMにより可能になると期待される。 また、急性腎不全治癒後も、定期的にAIMを投与し、腎臓のゴミを掃除することにより、急性腎不全の再発や慢性化のリスクを低下させる可能性が高いと考えられる。 また、AIMは本来人間の血液中に存在しているので安全性の高い治療法となることが期待される。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)の研究開発領域「生体恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」(研究開発総括:永井 良三)の一環で行われた。 なお、本研究開発領域は、本年度4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構より移管されている。

本研究成果は、2016年1月4日(米国東部時間)に「Nature Medicine」オンライン版で公開された。

※詳細はPDFこちら[PDF: 345KB]をご覧下さい。

(2016/1/5)

神経難病が起こる仕組みを解明
  ~多発性硬化症の新しい治療法に道~

免疫系は病原菌やウイルスなどの異物を認識し排除するシステムですが、時には私たちの身体の一部を異物と誤認してしまい、自己組織を攻撃し炎症を引き起こすことがあります。 多発性硬化症は、脳や脊髄といった中枢神経系が免疫系によって攻撃を受ける自己免疫疾患であり、視力障害や運動麻痺などの神経症状が起きます。 患者数が全世界で約250万人に及ぶ難病の神経疾患で、いまだ根治療法が存在しません。

健常状態では、中枢神経組織内に血液中の有害物質が侵入できないように、血液脳関門と呼ばれる特殊なバリア機構が存在するため、免疫細胞は簡単に侵入できません。 しかし、多発性硬化症では、たくさんの炎症性細胞が中枢神経組織に侵入し集積してしまいます。 多発性硬化症で、炎症性細胞が血液脳関門を通り抜けて中枢神経組織に集まる理由は、これまでよく分かっていませんでした。

この度、東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻免疫学分野のMatteo M. Guerrini学術支援職員(研究当時)と岡本一男助教、高柳広教授らの研究グループは、マウスの多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の解析から、病原性T細胞が発現するサイトカインRANKLが、中枢神経組織のアストロサイトを刺激してケモカインを放出させるため、多数の免疫細胞が呼び寄せられ、炎症が起こることを突き止めました。 さらに、RANKLの低分子阻害剤をマウスに経口投与することで、EAEの発症を抑えることができました。 従って、RANKLを阻害する治療アプローチが多発性硬化症に有効であることが分かりました。

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 「高柳オステオネットワークプロジェクト」(研究総括:高柳広)、ならびに日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業などの一環で行われました。

本研究成果は、2015年12月8日(米国東部時間)に米国科学誌「Immunity」のオンライン速報版で公開されました。

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(2015/12/9)

脳で記憶を支える『受容体輸送の脱線防止機構』を解明

東京大学大学院医学系研究科の廣川信隆特任教授、吉川弥生医師、筑波大学医学医療系の武井陽介教授らの研究グループは、脳で記憶を支える『受容体輸送の脱線防止機構』をはじめて明らかにしました。

NMDA型グルタミン酸受容体は、グルタミン酸に結合してはたらく受容体であり、動物の記憶や学習に深くかかわりを持つことが知られています。 脳のなかで記憶がつくられるためには、このNMDA型グルタミン酸受容体があらかじめシナプスに輸送されて集められている必要があります。

本研究グループは、MAP1Aという分子が、シナプスへ輸送される途中のNMDA型グルタミン酸受容体を微小管につなぎ、安定化することでレールからの『脱線』を防ぎ、輸送の効率化と安定性の向上に役立っていることをつきとめました。 MAP1Aを欠いたマウスの神経細胞では、NMDA型グルタミン酸受容体がシナプスヘうまく運ばれず、その結果としてマウスの記憶能力は著しく損なわれていました。

MAP1Aは人間の脳にも存在します。今回の発見は、記憶や学習のような重要な脳の機能がどのように支えられているのか理解するための新しい鍵になるとともに、認知症や統合失調症などNMDA型グルタミン酸受容体機能とかかわりの深い精神神経疾患の治療法の開発への貢献が期待されます。

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(2015/11/26)

血管の形をつくる細胞メカニズムを解明
  ~生き物の形態が2次元・3次元で秩序よくつくられるしくみを実証~

熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学/熊本大学 国際先端医学研究機構の西山功一特任講師/主任研究員、東京大学 大学院医学系研究科 代謝生理化学の栗原裕基教授、杉原圭学部生(現東京大学附属病院臨床研修医)らの研究グループは、血管新生において血管が伸長する際の血管内皮細胞運動を制御するしくみを、生物学と数理モデル・コンピュータシミュレーションを融合させた先端的な研究手法により明らかにしました。

生物は、最小の機能単位である細胞が寄り集まった多細胞体です。 しかし、細胞の集まりが、組織や器官といった秩序ある形態や構造をつくり機能するしくみはほとんど分かっていません。 中でも血管は、体中の全組織に十分な酸素や栄養源を効率よく供給するため、組織や組織の間に入り込み、血管外の環境との相互作用により、巧妙な枝分かれ構造をとっています。 これまでに本研究グループは、新しく血管がつくられる(血管新生)際の細胞の動きに着目し、特に血管内皮細胞の動きをリアルタイムで可視化し、定量的に捉えることを可能にしてきました。

今回さらに、血管の伸長を制御するしくみについて、細胞が自発的に自らを制御して動く過程(自律的過程)と、隣接した細胞から適宜影響を受けて動く過程(協調的過程)がうまく共存することで、全体の動きが巧みに統制されていることを世界に先駆けて実証しました。 興味深いことに、血管内皮細胞が前後したり、お互いに追い抜きあったりという血管新生で見られる複雑な細胞集団の動きを制御している中枢部分は、細胞一つ一つの動き(スピードと方向性)の「確率的な変化」として十分説明できることをコンピュータシミュレーションで実証しました。 対して、血管の伸長に重要な先端細胞の動きは、一つ一つの細胞の確率的な動きのみでは十分説明できず、後続の茎細胞との相互作用により、より厳密に制御されていることも新しく分かってきました。

本研究の成果は、血管の形態形成のみならず、さまざまな組織の形態形成における多細胞運動を支える共通原理として広く普及することが期待されます。

本研究成果は、科学雑誌「Cell Reports」オンライン版で米国時間の2015年11月19日(木)正午【日本時間の11月20日(金)午前2時】に公開されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 749KB]をご覧下さい。

(2015/11/20)

自己免疫疾患を防ぐ遺伝子Fezf2の発見
  ~Fezf2は自己抗原の発現を制御し免疫寛容を成立させる~

関節リウマチなど、免疫系が自分の体を攻撃してしまう病気は自己免疫疾患と呼ばれています。 自己免疫疾患の患者数は、日本国内だけでも数百万人と見積もられています。 この自己免疫疾患の主な原因は、T細胞が自己の成分(自己抗原)を認識することによる過剰な免疫応答であると考えられています。 T細胞は心臓の上部前方に位置する臓器である胸腺において分化・成熟します。 その過程では、抗原を認識するタンパク質であるT細胞抗原受容体がランダムに作られるため、自己抗原に反応するT細胞が必然的に生まれてしまいます。 従って、自分の体を誤って攻撃してしまうことがないよう、そのような自己反応性のT細胞は胸腺内で除去されています。 しかし、どのようなメカニズムで自己抗原をつくり、自己反応性のT細胞を選別しているのかは、よく分かっていませんでした。

この度、東京大学大学院医学系研究科免疫学分野の高場啓之特任研究員と高柳広教授らの研究グループは、胸腺に発現し、自己反応性T細胞の選別に関わる転写因子Fezf2を見いだしました。 Fezf2は胸腺の上皮細胞で、体の至るところで機能している遺伝子を発現させています。 自己抗原が胸腺で作られることにより、それに反応するT細胞を選別し、除去できるのです。 Fezf2を持たない遺伝子改変マウスを調べたところ、自己抗体の産生や自己の組織を破壊するといった自己免疫疾患のような症状が見られました。 この結果は、Fezf2がさまざまな自己免疫疾患の発症を抑えていることを示しています。 今回、解明された免疫寛容が成立するメカニズムは、高等生物の獲得免疫システムの基本原理の理解につながることが期待されます。 また、現状では原因の分かっていない自己免疫疾患の発症機序の解明や新たな治療法の確立に役立つと考えられます。 なお、本研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究「高柳オステオネットワークプロジェクト」(研究総括:高柳広)の一環として行われました。

本成果は国際科学誌「Cell」オンライン版に、2015年11月5日正午(米国東部時間)に掲載されました。

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(2015/11/06)

可塑性を与えることで長期間『強さ』と『靭やかさ』を保つゲルを世界で初めて開発

ゲルとは、高分子の三次元網目構造が溶媒を含んだ柔らかい材料を指します。 伸縮性に富み、液体を保持できるといったユニークな特徴を有していることから、食品や化粧品と言った日用品、コンタクトレンズやオムツなどの医療・衛生用品として幅広く使われています。 しかしながら、ゲルは繰り返し荷重がかかると突発的に壊れてしまう性質を持つため、材料として信頼性が低いという問題がありました。

今回、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 酒井・鄭研究室の酒井崇匡准教授らの研究グループは、水溶媒下で凝集体を作る性質を持つ高分子を導入することでゲルに可塑性を付与し、長期間同じ強度と伸縮性を保つ性能を世界で初めて実現しました。

このゲルは、二種類の溶液を混ぜるだけで誰でも簡単に作製することができ、空気中・水中において荷重を繰り返し受けても壊れず、かつ長期間高い強度を維持することができます。 そのため、人工軟骨や人工椎間板など、体の荷重がかかる部位への応用や、人工筋肉・フレキシブルディスプレイなどの繰返し曲げ伸ばしが求められる分野への応用が期待されます。

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(2015/10/15)

肺線維化をもたらす細胞の起源を新規実験法で解明

東京大学大学院医学系研究科の津久井達哉 日本学術振興会特別研究員、上羽悟史 講師、松島綱治 教授らの研究グループは、肺線維化をもたらす細胞の起源を、新規実験法を用いて解明しました。

肺線維症は、慢性的な上皮障害により呼吸機能を担う肺胞の構造が崩れ、Ⅰ型コラーゲンなどの膠原線維に置き換わり修復不可能になることで呼吸機能が損なわる致死性疾患です。 肺移植を除いて根本的な治療法はなく、発症機序を解明することで新規治療法の発見が望まれています。 これまでの研究で病巣部位に集積する活性化線維芽細胞が過剰な膠原線維の沈着をもたらすことが分かっていましたが、活性化線維芽細胞がどの細胞を起源としているかは諸説あり、近年活発な議論の的となっていました。

本研究グループはまず、肺線維症を誘導したマウスに口腔から気道を通じて肺まで細胞を送り込む(経気道的養子移入)ことで、移入した細胞が病巣部位に生着することを見出しました。 この新規実験法を用いて純化した各種細胞を移植したところ、組織常在性線維芽細胞が最も活性化線維芽細胞に分化することができ、膠原線維の沈着をもたらしていることが分かりました。 組織常在性線維芽細胞が活性化線維芽細胞に分化する分子機構を今後明らかにすることで、膠原線維の過剰な沈着を特異的に抑制する新規治療標的の発見につながることが期待されます。

本研究は、東海大学の稲垣豊 教授の協力を得て行いました。

本報告は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)研究領域「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」(研究総括:宮坂昌之)における研究課題「慢性炎症に伴う臓器線維化の分子・細胞基盤(平成27年4月1日に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されたことに伴い、本研究課題はAMEDに承継され、引き続き研究開発の支援が実施されています)」(研究代表者:松島綱治)の研究成果です。

本研究成果は、2015年10月8日(米国東部時間)に米国科学誌「The American Journal of Pathology」のオンライン速報版で公開されました。

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(2015/10/8)

シリカ微細粒子による慢性肺線維症を抑える新しい免疫メカニズムの発見

PM2.5の構成物質の一つである、マイクロメートル以下のサイズのシリカ微細粒子は、水に不溶なため継続的に吸引することにより肺に蓄積し、線維化病巣を形成する慢性肺線維症を引き起こすことが知られています。 それら病巣の拡大による気管支狭窄やガス交換不全などにより、最終的に呼吸困難、死に至ります。 有効な治療法は未だ存在しないため、治療法の早急な開発が望まれています。

肺のマクロファージは、吸入された微細粒子の取り込みなど、肺における微細粒子への免疫応答で重要な免疫細胞の一つです。 その大部分を占める骨髄由来の炎症性マクロファージが、シリカ微細粒子によって引き起こされる慢性肺線維症に対して、どのように関与しているのかは不明でした。

今回、東京大学大学院医学系研究科の松島 綱治教授、七野 成之大学院生、上羽 悟史講師、森川 鉄平講師、金沢大学の橋本 真一教授、東海大学の稲垣 豊教授らの研究グループは、シリカ微細粒子によって起きる線維化病巣の拡大と組織細胞の活性化を、骨髄由来の炎症性マクロファージが抑制していることを発見しました。 骨髄由来の炎症性マクロファージの、末梢組織への浸潤が起こらない遺伝子欠損マウスで解析したところ、シリカ微細粒子によって誘導された線維化病巣がびまん化し、拡大することが分かりました。 びまん化した慢性肺線維症病変は、最も予後不良なヒト慢性肺線維症である、特発性肺線維症の特徴の一つであることから、次に本研究グループはヒトの特発性肺線維症との類似性を、遺伝子レベルで網羅的に検証しました。 その結果、この遺伝子欠損マウスの肺組織細胞での遺伝子発現パターンは、ヒトの特発性肺線維症の発現パターンに、野生型マウスと比べてより近しいことが明らかとなったことから、このマウスでの知見をヒトに応用できる可能性があります。 このシリカ誘導肺線維症の新しい免疫抑制機構の発見は、シリカ微細粒子が引き起こす慢性肺線維症に対する、新たな治療標的の開発に役立つと期待されます。

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「慢性炎症」領域の研究課題「慢性炎症に伴う臓器線維化の分子・細胞基盤(平成27年4月1日に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されたことに伴い、本研究課題はAMEDに承継され、引き続き研究開発の支援が実施されています)」などの支援を受けて行われました。

本研究成果は、2015年10月8日(米国東部時間)に米国科学誌「The American Journal of Pathology」のオンライン速報版で公開されました。

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(2015/10/8)

神経伝達物質やインスリン分泌の新しい可視化法開発:分泌速度の謎を解明

神経伝達物質の放出やホルモンの分泌は、刺激後に細胞内の分泌小胞が細胞膜に融合(開口放出)することにより起きる。 開口放出を起こす蛋白質群(SNARE蛋白質)は、神経シナプスと内分泌細胞で共通なのに、分泌速度は神経シナプスと内分泌細胞で1万倍以上異なる。 この差異は機能の発現に重要だが、その理由は従来不明だった。

東京大学医学系研究科 疾患生命工学センター 構造生理学部門の河西春郎教授と高橋倫子講師らの研究グループは、蛍光寿命画像法を用い、生きた細胞内で蛋白の複合化と局在を計測・可視化する実験系を組み上げた。 そして、神経シナプスとインスリンを分泌する膵島で、SNARE蛋白質の複合化の様子を測定した。 シナプスでは高度に複合化した状態で待機しており、この蛋白質のコンフォメーションの変化のみで神経伝達物質の放出が起きる。 シナプス前終末の活性領域では複合化率が特に高く、蛍光寿命法は活性領域を解像した。 一方、膵島ではSNARE蛋白質はほとんど複合化しておらず、刺激後に初めて開口放出部位で複合化する様子を捉えた。 このように複合化に時間がかかるため、インスリンの開口放出は遅いと考えられた。 本研究はインスリン分泌が細胞内代謝に強く依存することをよく説明するとともに、本研究で用いた革新的技術は、シナプス結合や神経回路の同定に新たな方法を拓くものである。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(平成27年度に文部科学省より移管)、文部科学省の科学研究費、最先端・次世代研究開発プログラム、及び脳科学研究戦略推進プログラムの支援を受けて行ったもので、国際科学誌「Nature Communications(電子版)」に2015年10月6日付オンライン版で発表されました。

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(2015/10/7)

MERS(中東呼吸器症候群)の致死率および死亡リスク要因をリアルタイムで推定する統計学的手法を開発
  ~患者数が少なくても推定可能に~

2015年5-7月、韓国の複数医療機関においてMERSの流行を認めました。 従来、他の感染症で大規模な流行が認められた場合、生存解析などの統計学的手法を用いることで、致死率と死亡リスク要因のリアルタイムでの(流行途中での)推定が実施されてきました。 ただし、従来の手法では分析のために千人超の患者数が必要でした。 韓国のMERS流行では確定患者数が185人と少なく、従来的な手法ではリアルタイム推定が困難でした。

東京大学大学院医学系研究科の西浦准教授らは、患者数が少ない場合でも致死率と死亡リスク要因をリアルタイムで推定する統計学的手法を世界に先駆けて提案し、韓国における185人の患者情報をリアルタイムで分析しました。

その結果、韓国におけるMERSの致死率が全確定患者中で約20%であること、60歳以上で基礎疾患を有する患者の致死率は48.2%と高いことを明らかにしました。 それ以外の者の致死率は15%未満でした。

今後、日本では、高齢者の多い医療施設・介護施設・デイケアなどでMERSの感染が拡大せぬよう流行対策を実施することが極めて重要と考えられました。 また、MERSに限らず、何らかの新興感染症が未来に流行を引き起こしたとき、流行のできるだけ早期から提案した推定モデルを利用して致死率を推定し、死亡リスク要因を特定することが可能になるものと期待されます。

本研究成果は、BMC Medicine(オンライン版:2015年9月30日)に掲載されました。

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(2015/9/30)

3段ロケット方式のエピゲノム指令でがんが悪性化する
  ~第6の遺伝暗号解除で前立腺がんホルモン療法は効かなくなる~

前立腺がんは欧米では男性で最も頻度の高いがんであり、日本でもその発症者、死亡者は急激に増加しており男性の健康上の重要な問題となっています。 男性ホルモンであるアンドロゲンの作用は前立腺がんの発生、進展を担っています。 そのため、アンドロゲンの働きを抑える薬を投与するホルモン療法が広く普及していますが、ホルモン療法に対する抵抗力(耐性)を獲得して治療が効かなくなることが大きな問題です。 東京大学医学部附属病院22世紀医療センター抗加齢医学講座の井上聡特任教授と同病院老年病科の高山賢一助教は、同病院泌尿器科などと共同研究を行い、前立腺がんのホルモン療法耐性に至る新しい仕組みをエピゲノムの観点から世界で初めて明らかにしました。 すなわち、アンドロゲンの作用やホルモン療法の抵抗性の獲得に伴い活性化されるマイクロRNAが、3段階の過程を経て第6の遺伝暗号といわれる「5hmC」をマークするエピゲノム状態を変化させ、がんの悪性化に関わっていることを発見しました。 この成果は、ホルモン療法が効かなくなった難治がんの新たな治療戦略の確立に役立つものと期待されます。 本研究は文部科学省ならびに日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム『ノンコーディングRNAを標的とした革新的がん医療シーズ』」の支援を受けて行われたものであり、2015年9月25日(英国夏時間)に科学雑誌「Nature Communications」オンライン版で発表されました。

PDFリリース文書[PDF:416KB](東大病院HP掲載)

(2015/9/29)

TGF-βによる小細胞肺がん細胞の細胞死制御の分子メカニズムを解明

肺がんは致死率の高いがんのひとつですが、全肺がんの約15%を占める小細胞肺がんは、特に悪性度の高い神経内分泌腫瘍で、5年生存率が約5%にすぎません。 本疾患の多くの症例に対しては、化学療法や放射線照射などが行われますが、小細胞肺がん細胞はこれらに対する抵抗性を獲得することが多く、治療を行う上での大きな問題になっています。

このような現状において、東京大学大学院医学系研究科 分子病理学分野 江帾正悟特任講師、宮園浩平教授らの研究グループは、小細胞肺がん細胞におけるTGF-βシグナル伝達に着目した研究を行いました。 この結果、TGF-βは小細胞肺がん細胞に細胞死(アポトーシス)を誘導することで、潜在的に腫瘍抑制性に働くサイトカインとして機能していることがわかりました。 ところが、多くの小細胞肺がん細胞では、エピジェネティックなメカニズムによりTGF-βに対する感受性が喪失しており、TGF-βが腫瘍抑制的に機能するメカニズムが破綻していることが判明しました。

今回の研究で、小細胞肺がん細胞の生存に重要な新たな分子メカニズムが解明されました。 この成果に基づいた新たな治療法が創出されることが期待されます。

本研究成果は、Cell Discovery(セル・ディスカバリー)(2015年9月22日オンライン版)に掲載されました。

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(2015/9/28)

末梢神経の発達における新たな仕組みの解明
  ~髄鞘形成におけるカルシウムシグナルの重要性が明らかに~

私達の身体の中で、感覚や運動の情報処理は末梢神経による高速な電気信号の伝達により達成されています。 この高速な情報伝達に重要な役割を果たしているのが、末梢神経の軸索の周りに形成される髄鞘と呼ばれる被覆です。 末梢神経における髄鞘はシュワン細胞と呼ばれる細胞が軸索の周りを何重にも取り巻くことで形成されますが、この過程では多量のエネルギーを必要とすることが知られています。 しかしながら、髄鞘形成を駆動するためのエネルギー産生がシュワン細胞においてどのように制御されているかは不明でした。

今回、東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 細胞分子薬理学分野の飯野正光 教授らの研究グループは、髄鞘形成において、シュワン細胞における細胞内カルシウムイオン濃度の上昇(カルシウムシグナル)が髄鞘形成におけるエネルギー産生において重要な役割を果たしていることを発見しました。 シュワン細胞は、電気活動を行なっている軸索からプリン作動性シグナルを受け取った後に、カルシウムシグナルをミトコンドリアの中へ伝えることでエネルギーの産生を促進し、髄鞘形成を駆動していることが実験結果から明らかになりました。

髄鞘の異常はさまざまな病気との関連が報告されていますが、その原因にはまだ不明な点が多いのが現状です。 今回の知見は、病気のメカニズムの解明や創薬に貢献することが期待されます。本研究成果は、2015年9月10日に米国科学雑誌『Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。

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(2015/9/11)

貯蔵された記憶を可視化・消去する新技術を開発
  ~記憶のメカニズム解明に前進~

大脳皮質の数百億もの神経細胞はシナプスを介して情報をやり取りしており、特にグルタミン酸作動性シナプスの多くは樹状突起スパインという小突起構造上に形成されます。 スパインは記憶・学習に応じて新生・増大し、それに伴いシナプスの伝達効率が変化するので、脳の記憶素子と考えられてきました。 しかし、記憶の獲得時に、実際に使われている多数の記憶素子の分布を同定し、実際の記憶への関与を検証する方法はありませんでした。

今回、東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター構造生理学部門の林(高木)朗子特任講師、河西春郎教授らの研究グループは、学習・記憶獲得に伴いスパインが新生・増大することに注目し、これらのスパインを特異的に標識し、尚且つ、青色光を照射することで標識されたスパインを小さくするプローブ(記憶プローブ)を開発しました。 この記憶プローブを導入したマウスでは、運動学習によって獲得された記憶が、大脳皮質への青色レーザーの照射で特異的に消去されました。 また、各々の神経細胞における記憶に関わるスパインの数を数えたところ、大脳皮質の比較的少数の細胞に密に形成されていることがわかり、記憶を担う大規模回路の存在が示唆されました。 こうして、スパインが真に記憶素子として使われている様子を可視化し、また操作する新技術を世界に先駆けて確立しました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(平成27年度より文科省より移管)、戦略的国際科学技術協力推進事業 日英研究交流「次世代光学顕微法を利用した神経科学・病因解明につながる分子メカニズムへの挑戦」(平成27年度以降JSTからAMEDへ移管)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業および文部科学省・科学研究費の支援を受けて行ったもので、国際科学誌「Nature(電子版)」に2015年9月9日付オンライン版で発表されました。

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(2015/9/10)

オキシトシン経鼻剤連日投与による自閉スペクトラム症中核症状の改善を世界で初めて実証
  ~新しい治療法の確立をめざして~

東京大学医学部附属病院 精神神経科 山末英典准教授らは自閉スペクトラム症と診断がつく20名の成人男性を対象にランダム化二重盲検試験を探索的に行い、オキシトシン経鼻剤の6週間連続投与によって対人相互作用の障害と呼ばれる自閉スペクトラム症の中核症状が改善することを発見しました。 この症状の改善は内側前頭前野という脳領域での安静時機能的結合の改善と相関していました。 今回の連続投与において、1回の投与時の効果と同様に、表情や声色を重視した他者理解の頻度の増加やその際の内側前頭前野の脳活動改善が認められましたが、6週間投与を続けても1回の投与と概ね同等の効果を得ました。

これまでに、実験室内における自閉スペクトラム症の方へのオキシトシン経鼻剤の1回投与による心理検査の成績や脳機能の改善は繰り返し報告されており、同剤が自閉スペクトラム症中核症状に対する初の治療薬となることが期待されていました。 しかし、自閉スペクトラム症中核症状そのものに対するオキシトシン連日投与のランダム化比較試験では、いずれも主要評価項目への有意な効果を見出すことに失敗していました。 本研究では、対人場面でのコミュニケーションが困難という自閉スペクトラム症中核症状そのものに対して改善効果があること、さらにはこの自閉スペクトラム症中核症状そのものの改善が脳機能の改善と相関することを世界で初めて実証しました。

自閉スペクトラム症中核症状の治療薬として、オキシトシン経鼻剤の臨床開発を更に進める根拠となりうるこれらの結果は、日本時間9月4日に英国科学誌Brain(電子版)にて発表されます。 なお、すでに現在、東京大学で先行して行った本臨床試験の結果を114名の新たな参加者で確認するために、東京大学、名古屋大学、金沢大学、福井大学の4大学が連携し、臨床試験Japanese Oxytocin Independent Trial (JOIN-Trial)を行っています。 JOIN-Trial は、日本医療研究開発機構「脳科学研究戦略推進プログラム」の「精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究(課題F):発達障害研究チーム(拠点長:名古屋大学・尾崎紀夫)」(平成27年度に文部科学省より移管)の一環として行なっています。

PDFリリース文書[PDF:1.08MB](東大病院HP掲載)

(2015/9/7)

小児用補助人工心臓Berlin Heart Excor:東京大学における治験成績と承認後について

2011年から、東京大学を主幹施設として大阪大学および国立循環器病研究センターで小児用補助人工心臓Berlin Heart Excorの医師主導治験を行ってきました。 心臓移植を必要とする、あるいはそれと同等の重症の心不全の小児を対象にした治験です。 当初は3例の装着で計画されましたが、日本の医療機器治験として初めてとなる人道的理由による治験症例の繰り入れ延長が認可され、最終的には9例に装着されました。 平均補助期間は250日を越え、全例が生存するという画期的な結果をもって承認されました。 これまで小児において1ヶ月を越える長期にわたる補助が可能な循環補助システムは日本にはなく、長期にわたる安定した補助を行って国内で心臓移植を受けられるようになると期待されます。 また、長期の循環補助を行いながら、薬物や再生医療などを付加することによって患児自身の心機能が回復する症例も期待されます。

PDFリリース文書[PDF:115KB](東大病院HP掲載)

(2015/9/7)

細胞内の骨格・微小管の伸び縮みを制御し、脳神経回路網形成をコントロールするメカニズムを解明

東京大学医学系研究科の廣川信隆特任教授と小川覚之特任助教らの研究グループは、細胞内の骨格である微小管の重合・脱重合を制御する仕組みを解明した。

私たちの体をつくる各々の細胞には微小管という細胞骨格があり、環境や発生段階の変化に応じてその形や働きを変化させる。 キネシンモーター蛋白KIF2が微小管を脱重合する働きを持ち、脳の神経回路網の形成に基本的役割を持つことはこれまでに知られていた。 しかし、その活性がどのように外界の刺激に応答して制御されているのかは、未知であった。 そこで本研究グループは、神経細胞が外界の刺激に応答した際にKIF2がどのようなシグナルネットワークによってコントロールされているのか調べるため、細胞生物学・分子生物学・生化学などの手法を融合し、さらに質量分析法によって要となる現象を詳細かつ定量的に解析した。 その結果、特異的なキナーゼが微小管を脱重合するタンパク質KIF2の特異的な部位をリン酸化し、アクセルとブレーキのように働くことによって微小管の重合・脱重合(すなわち伸び縮み)を制御することを明らかにした。 この仕組みにより、神経細胞は置かれた状況や外界からの刺激に応じて微小管の伸び縮みを自在にコントロールして適応することができる。

生命の維持や疾患の発症に重要な分子について、その制御機構を詳細に明らかにすることは生命の仕組みの解明のみならず、疾患の発症機序の解明にも貢献する可能性がある。 特に、神経細胞における微小管脱重合の制御機構を明らかにしたことは、脳の神経回路網形成の基本的メカニズムを明らかにし、ひいては神経変性疾患の発症機序の解明や治療薬の開発に役立つことが期待される。

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(2015/9/4)

神経活動に依存したキネシンのリン酸化による「荷積み」機構の解明

東京大学大学院医学系研究科分子構造・動態・病態学寄付講座の廣川信隆特任教授らの研究グループは、神経活動を抑制するとKIF3Aがリン酸化され、KIF3AがN-カドヘリンを「荷積み」することで、N-カドヘリンのシナプスへの輸送が増加することを初めて示しました。

神経細胞内ではさまざまなタンパク質が機能しています。 これらのタンパク質が適切な場所で機能するためには、キネシンによる細胞内輸送が不可欠です。 N-カドヘリンはキネシンの一種KIF3Aによってシナプスへと運ばれてシナプス強度を調節するタンパク質ですが、どのようにその輸送が制御されているかは不明でした。

本研究グループは、KIF3Aのリン酸化部位を新規に同定し、PKAとCaMKIIaというキナーゼによってリン酸化されることを示しました。 次に、KIF3Aのリン酸化によってスパインが巨大化し、逆に非リン酸化によってスパインが収縮するというシナプス強度の変化を示唆する現象を観察しました。 このような差が生じた原因は、リン酸化によってKIF3AがN-カドヘリンを「荷積み」し、シナプスへと輸送しているからであるということを突き止めました。 さらに、神経活動を抑制したときにこのKIF3Aのリン酸化およびそれに伴うN-カドヘンリンの輸送が増加していることを示しました。 以上の結果から、神経活動を抑制するとKIF3Aがリン酸化され、KIF3AがN-カドヘリンを「荷積み」しシナプスへと運ぶことにより、シナプス強度を調節しているというモデルを提唱します。 これは、神経活動依存的なキネシンのリン酸化による「荷積み」を行う制御機構を初めて示したものです。

シナプス強度の調節は記憶の固定において非常に重要な因子の一つであると考えられています。 そのシグナル伝達経路の一端を新たに解明したことから、記憶力の低下を伴う様々な病態、状況の改善法開発への応用が期待されます。

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(2015/9/3)

匂いで摂食や警戒のモチベーションが生じる神経メカニズム
  ~大脳のモチベーション領域を発見~

東京大学大学院医学系研究科の村田航志特任助教(研究当時)、山口正洋講師、森憲作教授(研究当時)らの研究グループは、マウスが学習によって同じ匂いに対して摂食モチベーション行動もしくは忌避モチベーション行動という異なる行動を示すとき、嗅結節では異なる領域が活性化されることを明らかにしました。

美味しいものを食べたときの匂いは記憶され、後日、食べたいというモチベーション(摂食モチベーション)を引き起こします。 ところが同じ匂いでも、危険な目に遭ったときに嗅いだ場合には、後日、避けたいというモチベーション(警戒モチベーション)が生じます。 しかし脳のどの神経回路が、過去の匂いの経験にもとづいて適切なモチベーション反応を引き起こすのかは全く不明でした。

本研究グループは、ある匂いをマウスに嗅がせる際、同時に砂糖報酬を経験させるマウスと、同時に足に痛みを生ずる危険を経験させるマウスを作りました。 後日マウスにその匂いを提示すると、マウスは過去の経験に応じて砂糖を探す行動(摂食モチベーション行動)もしくは警戒する行動(警戒モチベーション行動)を示しました。 このとき嗅結節全体で活性化の様子を最初期遺伝子の発現を指標にして比較したところ、摂食モチベーション行動を示したマウスでは嗅結節の前内側部領域(前内側ドメイン)が、警戒モチベーション行動を示したマウスでは外側部領域(外側ドメイン)が活性化しました。 この結果は、嗅結節の前内側ドメインに、匂いにより摂食モチベーション行動を引き起こす神経回路が備わり、外側ドメインに、匂いにより警戒モチベーション行動を引き起こす回路が存在することを示しています。 この嗅結節モチベーション領域の発見は、嗅覚情報によってモチベーション行動が誘起される神経メカニズムを解明する大きな手がかりとなることが期待されます。

なお、当研究成果は「The Journal of Neuroscience」2015年7月22日版に掲載されました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 424KB]をご覧下さい。

(2015/7/22)

発熱に関わる脂質メディエーター産生の仕組みを発見

感染や炎症の際にみられる発熱は、脳内でプロスタグランジンE2(PGE2)という生理活性脂質が作用することによって起こりますが、発熱時にPGE2が産生されるしくみについて詳しいことはわかっていませんでした。

東京大学大学院医学系研究科の北芳博准教授、清水孝雄特任准教授、狩野方伸教授らの研究グループは、発熱に関わるPGE2が脳内マリファナ様物質として知られる2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の分解により産生されることを発見しました。 本研究の成果により、発熱というよく知られた生命現象の仕組みの理解が深まるともに、今後、さまざまな炎症性疾患を標的とした創薬や疾患メカニズムの解明に貢献することが期待されます。

本成果は、2015年7月21日(日本時間)に米科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。 本研究は、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「生命応答を制御する脂質マシナリー」等による助成を受けて行われたものです。

※詳細はPDFこちら[PDF: 584KB]をご覧下さい。

(2015/7/22)

横紋筋肉腫におけるゲノム・エピゲノム異常の全体図を解明
  ~横紋筋肉腫を4群に分類~

横紋筋肉腫は筋肉になるもとの細胞から発生する悪性腫瘍です。 筋肉、脂肪組織などから発生する小児期の腫瘍(小児軟部腫瘍)の中では最も高頻度に発生します。 手術、放射線や薬物治療などを組み合わせた集学的治療により全体として約70%の治癒が期待できますが、小児では特に成長障害、臓器機能障害、不妊など、治療後に発生する障害(晩期障害)が大きな課題となっています。 従って、分子病態に立脚した治療の最適化は、横紋筋肉腫の患者さんの治癒率改善と重篤な副作用や晩期障害の回避に重要といえます。

東京大学医学部附属病院小児科の滝田順子准教授、同大学院医学系研究科小児科学分野の関正史大学院生らは同先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野の油谷浩幸教授、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授らと共同で、次世代シーケエンサーとアレイ技術を用いて横紋筋肉腫60例のゲノム上にみられる遺伝子異常や構造変化、エピゲノムに見られる異常の全体像を解明しました。 その結果、DNAメチル化のパターンから横紋筋肉腫は4群に分類されることを見出し、それぞれの群に起こりやすい遺伝子異常と病理所見および臨床的特性を明らかにしました。 この成果は、横紋筋肉腫の予後予測、精度の高い分子診断法の開発に貢献し、治療の最適化の実現に役立つものと期待されます。

本研究は、文部科学省「次世代がん研究シーズ戦略育成プログラム」の一環として行われたものであり、その成果は2015年7月3日(英国夏時間)にNature Communications のオンライン版で公開されました。

PDFリリース文書[PDF:1.31MB](東大病院HP掲載)

(2015/7/6)

小さなRNAの暗号解読に成功
  ~右利き・左利きの謎を解明:プレシジョンメディシン時代の核酸医薬へ新たなる一歩~

マイクロRNAと呼ばれる小さなRNAはタンパク質の設計図となる他のRNAを抑制することで、さまざまなタンパク質の産生を調節するというユニークかつ重要な機能をもっています。 また、マイクロRNAのメカニズムの原点となるRNA干渉は、病気に関係する遺伝子を直接的に調節するための核酸医薬における主要アプローチの1つとしても期待されています。 一方で、RNA干渉は2本の対になったRNAが起点となる分子機構ですが、そのどちらのRNAが機能するか(右利き・左利き)については未だ正確なメカニズムが不明であり、このことは核酸医薬においてRNA干渉の作用・副作用を十分に制御できないことを意味します。

東京大学大学院医学系研究科の鈴木洋特任助教(研究当時/現所属:マサチューセッツ工科大学コーク癌総合研究所)、宮園浩平教授らの研究グループは、長く不明であった生体内の遺伝子の制御において重要な役割を持つ小さなRNA(マイクロRNA)の産生、特にRNAの右利き左利きに関する中心的な原理を発見しました。 研究グループは、どちらの1本鎖RNAがマイクロRNAとして機能するかについて、普遍的な原理と対応するメカニズムの解明、さらに、これを予測・制御する数理的モデルの構築に成功しました。 本研究によりRNA干渉の起点となる2本鎖RNAの運命を決定するしくみが明らかになったことで、マイクロRNAの生体における役割のより正確な理解、および、RNA干渉を利用した核酸医薬の合理的開発・最適化が可能になると期待されます。

本成果は国際科学誌Nature Structural & Molecular Biologyに、2015年6月22日午前11時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。 本研究は東京大学大学院医学系研究科とマサチューセッツ工科大学との共同研究により行われました。 なお、本研究は日本学術振興会、文部科学省の科学研究費補助金などの支援を受けて行われました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 3.70MB]をご覧下さい。

(2015/6/23)

高等生物のオートファジーの始動に必要な因子の立体構造を解明

東京大学大学院医学系研究科の水島昇 教授、貝塚剛志 特任研究員のグループは、微生物化学研究所の野田展生 主席研究員、鈴木浩典 博士研究員と共同で、高等生物のオートファジー(細胞内の一部を分解するしくみ)における固有の因子であるAtg101の立体構造をAtg13との複合体状態でX線結晶構造解析法により明らかにしました。 さらに立体構造情報に基づいて、Atg101がオートファジーにおいて担う機能を世界で初めて解明しました。 また、オートファジーの過程でAtg101が別の必須因子Atg13の安定化に寄与するとともに、他のAtg因子群の集積にも関与することを解明しました。

本研究の成果は、哺乳類などの高等生物におけるオートファジーの始動機構を解明する上での基盤的知見であり、オートファジーの始動機構の全容解明に向けた研究が加速することが期待されます。 オートファジーの始動機構が明らかになることで、オートファジーを特異的に制御する薬剤開発にも道が拓けることが期待されます。

本研究は、JSPS科研費および科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の助成を受けて行われたものです。 なお、研究成果は『Nature Structural & Molecular Biology』に掲載されました。

※詳細は、PDF微生物化学研究所 プレスリリースをご覧ください。

(2015/6/4)

放射性抗体による小細胞肺がんの治療法の開発に期待

肺がんは全てのがんで罹患率、死亡率が最も高いがんですが、がんの成長が速く、転移しやすい小細胞肺がんはそのうちの約15%を占めます。 特に、体の他の部分までがんが広がっている段階の進展型小細胞肺がんは、極めて悪性度が高く、いまだに有効な治療法が確立されていません。 このため、進展型小細胞肺がんに有効な治療法の開発が求められています。

東京大学医学部附属病院の百瀬敏光准教授、藤原健太郎特任助教、同大学先端科学技術研究センターの浜窪隆雄教授、児玉龍彦特任教授らの研究グループは、放射性同位元素で標識した「がん細胞にのみ結合する抗体」を開発し、本抗体を、小細胞肺がんを移植したマウスに投与したところ、がん細胞を殺傷し、腫瘤を著明に縮小させる効果があることが明らかにしました。 本抗体は、小細胞肺がんの細胞で高く発現している膜タンパク質ROBO1を認識する抗体(抗ROBO1 抗体)を治療用の放射性同位元素であるイットリウム-90(90Y)で標識することにより作製しました(90Y 標識抗ROBO1 抗体)。 同抗体を投与して、がんに集積させることにより、小細胞肺がんを移植したマウスの体内から放射線治療をする「放射免疫療法」です。 本研究成果は、将来的には進展型小細胞肺がんの根治または余命の改善に貢献することが期待されます。

本研究の成果は、2015年5月28日(日本時間)に米科学誌「PLOS ONE」にて掲載されました。 本研究は、総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラムにより、日本学術振興会を通して助成されたものです。

PDFリリース文書[PDF:190KB](東大病院HP掲載)

(2015/5/28)

片岡一則教授がグーテンベルグ賞を受賞

片岡一則教授(医学系研究科附属疾患生命工学センター及び工学系研究科マテリアル工学専攻/バイオエンジニアリング専攻)が2015年度グーテンベルグ賞を受賞しました。 片岡教授の受賞対象となった研究業績は「薬物・遺伝子を患部に送達する高分子ミセルの創製」です。

グーテンベルグ賞は、ドイツ・マインツ大学のグーテンベルグ研究院があらゆる学術分野を対象として、国際的に顕著な成果を収めた研究者に対して行う表彰です。 今年度は片岡教授(高分子化学)と米国のKwok Pui Lan教授(神学)の2名が同賞を受賞しました。 授賞式は、2015年5月4日にマインツ大学において執り行われ、マインツ大学のGeorg Krauch学長から同賞が片岡教授に授与されました。

グーテンベルグ大学HP
グーテンベルグ賞1: http://www.gfk.uni-mainz.de/eng/671.php
グーテンベルグ賞2: http://www.gfk.uni-mainz.de/eng/1071.php
プレスリリース記事1: http://www.uni-mainz.de/presse/18259_ENG_HTML.php
プレスリリース記事2: http://www.uni-mainz.de/presse/18265_ENG_HTML.php

(2015/5/13)

注意欠如多動性障害の薬物治療効果を予測するための客観的な指標の開発へ

小児の注意欠如多動性障害(ADHD)の薬物治療のひとつとして、塩酸メチルフェニデート(MPH)の内服があり、ADHDを患う約70%の小児ではその症状を改善する効果があるといわれています。 しかし、副作用として食欲低下や睡眠への影響があり、小児の成長に影響をもたらす場合があるといわれているため、効果のない患児の内服はできるだけ減らしたいという考えもあります。 一方、MPH が有効であるにもかかわらず、依存性や副作用を懸念するあまり使用を避けることで、症状の改善が図られないという問題も生じています。 そのため、継続的な内服の前に薬物治療の効果を予測するための客観的な指標があればこれらの課題が解決できる可能性があります。

東京大学大学院医学系研究科こころの発達医学分野の石井礼花助教、金生由紀子准教授、同精神医学分野の笠井清登教授らの研究グループは、安全で簡便な脳機能検査法である光トポグラフィー(NIRS)を用いてADHD患児に対して行ったランダム化比較試験にて、内服前に比べてMPH を1回内服した後の光トポグラフィーの信号が高くなるほど、MPHを1か月継続して内服した後の治療効果が高いという結果を見出しました。 さらに、1年間内服した後のMPHの治療効果についても同様の結果を得ました。 内服前、および1回の内服後の光トポグラフィーの信号変化により、長期的なMPHの効果を予測できる可能性を示しました。

本研究の成果によって、MPHの継続的な内服前に行った光トポグラフィー検査が、ADHDの薬物治療の効果予測に役立つ可能性を示したことにより、今後ADHDの患児や家族に負担をかけない治療の選択ができる可能性が期待されます。

これらの成果は、日本時間5月4日にNeuropsychopharmacology誌にて発表されました。

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(2015/5/7)

全身投与によってリンパ節転移を標的する高分子ミセル型ナノキャリア
  ~QOL向上を実現する革新的な治療法~

リンパ節転移は、既存の治療法では根治が極めて困難である悪性腫瘍のひとつである。 また、リンパ節転移に対して効率よく薬剤を届ける方法はこれまで見出されていない。

今回、東京大学大学院工学系研究科(医学系研究科兼務)の片岡一則教授らの研究グループは、白金制がん剤を内包した高分子ミセル型ナノキャリアの粒径を50nm以下に制御することによって、全身投与にてリンパ節転移を治療できるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発に成功した。 研究では白金制がん剤を内包した粒径30nm、70nmのナノキャリア、臨床的に用いられている粒径80nmのドキシル®(ドキソルビシン内包リポソーム)を比較検討した。 その結果、粒径30nmのナノキャリアのみが有意にリンパ節転移巣内の血管を透過し、さらに転移巣の深部へ浸透することが判明した。 この発見は、リンパ節転移を治療するナノDDSの設計にサイズ制御の要素が重要であることを示した初めての例である。 これらの知見がリンパ節転移に対する保存療法の発展に役立つことが期待される。

なお、当研究成果はACS Nano(オンライン発行2015年4月16日)に掲載されました。

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(2015/5/7)

アルツハイマー脳の病理変化と神経活動の関係を光遺伝学を用いて実証

東京大学大学院医学系研究科の岩坪 威教授、山本 薫大学院生、種井善一大学院生、橋本唯史特任講師、尾藤晴彦教授、スタンフォード大学のKarl Deisseroth教授、ワシントン大学のDavid Holtzman教授らの共同研究グループは、神経活動がアルツハイマー病の脳におけるアミロイド・病理変化を強めることを発見しました。

アルツハイマー病の脳では、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質の断片が溜まってくることが認知症の症状を招く原因と考えられています。 脳の神経細胞はシナプスを介してつながり、電気的な興奮を伝えること(神経活動)により機能を営んでいますが、神経活動とAβの蓄積の関係は十分に分かっていませんでした。 本共同研究グループは、アルツハイマー病モデルマウスの脳における神経活動を最新の実験手法である光遺伝学により制御し、海馬と呼ばれる重要な脳部位に入る神経経路の活動を5ヶ月間にわたって慢性的に高めると、海馬のAβ蓄積が増加することを発見しました。 本研究成果は、アルツハイマー病の原因となるAβの蓄積が、長期間に及ぶ神経活動の亢進によって増大することを初めて示した点で重要です。 アルツハイマー病の予防・治療を進める上で、神経活動をどのように整えるのが有効かについて手がかりが得られることも期待されます。

本研究成果は、2015年4月30日に米国科学雑誌「Cell Reports(セル・リポーツ)」に公開されました。 なお本研究は文部科学省科学研究費補助金 新学術領域「シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成」、「包括脳ネットワーク」などの助成を受けて行われました。

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(2015/5/1)

記憶を正しく思い出すための脳の仕組みを解明
  ~側頭葉の信号が皮質層にまたがる神経回路を活性化~

東京大学 大学院医学系研究科の竹田真己元特任講師らの研究グループは、サルが記憶を思い出している際に、認知機能や記憶の中枢として知られる大脳の側頭葉で、高次領域から送られる信号によって低次領域の皮質層間にまたがる神経回路が活性化されることを明らかにしました。

これまでの研究により、大脳の後方側面に位置する側頭葉では、視覚の長期的な記憶に関わるニューロン群が存在することは知られていました。 しかし、従来はニューロンの活動を一つずつ計測する手法が一般的であったため、記憶を想起している際に側頭葉の複数の領域にまたがるニューロン群がどのような原理で活性化されるかは明らかにされていませんでした。

本研究グループは、複数の記録チャンネルを持つ電極を使用して側頭葉のTE野の皮質層間の信号を記録し、またより高次の領域である36野からの信号も同時に記録することで、サルが視覚の長期記憶を想起している際には、TE野の皮質層間にまたがる神経回路が36野からのトップダウン信号(高次から低次の領域への信号)によって活性化されることが重要であることを明らかにしました。

今回用いた領域間信号と皮質層間信号を同時に記録、解析する手法により、記憶の想起を支える大脳ネットワークの作動原理の解明が進むとともに、視覚的な記憶障害に関わる神経回路の研究が進展すると期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST;平成27年4月1日に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されたことにともない、本課題はAMEDに承継され、引き続き研究開発の支援が実施されます。)の一環として行われ、研究成果は、2015年4月23日(米国東部時間)に米国科学誌「Neuron」のオンライン速報版で公開されました。

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(2015/4/24)

哺乳類と爬虫類-鳥類は、独自に鼓膜を獲得
  ~2億年以上前の進化の痕跡を発生学実験で明らかに~

理化学研究所(理研)倉谷形態進化研究室の倉谷滋主任研究員、武智正樹元研究員、東京大学大学院医学系研究科の栗原裕基教授、北沢太郎元大学院生らの共同研究グループは、マウスとニワトリの胚発生において同じ遺伝子の働きを抑える実験を行い、進化の中で哺乳類系統と爬虫(はちゅう)類-鳥類系統がそれぞれ独自の発生メカニズムにより鼓膜を獲得したことの発生学的証拠を発見しました。

陸上脊椎動物は、空気中の音を聴くために、鼓膜と中耳骨を顎(がく)関節の近くに進化させてきました。 中耳骨は、哺乳類では3個、爬虫類と鳥類では1個あります。 これらの骨は化石にも残ることから、その進化の歴史をたどることができ、哺乳類の祖先で顎とその支持装置を構成していた骨が次第に中耳の骨へと変化していった様子が明らかになっています。 しかし、どのようなきっかけで、哺乳類系統が爬虫類-鳥類系統よりも多くの中耳骨を持つようになったのかは不明でした。 また、鼓膜のような軟組織は化石には残らないため、鼓膜がいつ獲得されたのかは分かっていませんでした。

共同研究グループは、胚発生時に顎の前駆組織を下顎へ分化させる遺伝子の働きを抑える操作を行い、下顎の位置にも上顎の骨が発生するようなマウスとニワトリを作り出しました。 マウスでは遺伝子ノックアウト技術を使い、ニワトリでは発生中の胚に薬剤を投与して得たもので、骨格の形態に対してまったく同じ効果が出ることが確認できました。 しかし、鼓膜に対しては、マウスとニワトリで正反対の影響が見られ、マウスでは鼓膜がなくなり、逆にニワトリでは鼓膜が上下に拡張することが分かりました。 このことは、発生においてマウスの鼓膜は下顎の一部として、これに対しニワトリの鼓膜は上顎の一部として、つまり両動物が別々の発生メカニズムにより鼓膜を作っていることを示しています。

この発生メカニズムの明確な違いは、哺乳類系統と爬虫類-鳥類系統が分かれた後に、鼓膜が両系統で独立に獲得されたことを示唆します。 また、鼓膜の位置の違いが、2系統の動物で異なる数の中耳骨を進化させたきっかけの1つであったと推測されます。

本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(4月22日付け)に掲載されました。

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(2015/4/23)

糖・脂質代謝に重要なアディポネクチン受容体の立体構造を解明
  ~メタボリックシンドローム・糖尿病の治療薬の開発へ前進~

理化学研究所(理研)横山構造生物学研究室の横山茂之上席研究員と、東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授、山内敏正准教授らの共同研究グループは、メタボリックシンドローム(内臓性脂肪症候群)の「鍵」分子であるアディポネクチン受容体の立体構造の解明に成功しました。

細胞膜に存在する膜タンパク質は、細胞外からのシグナル(情報)を細胞内へと伝達する重要な役割を担い、創薬の標的として注目されています。 アディポネクチン受容体(AdipoR1、AdipoR2)は、メタボリックシンドロームの「鍵」分子として注目されている膜タンパク質です。 アディポネクチン受容体は、脂肪細胞から分泌されるホルモンであるアディポネクチンにより活性化され、細胞内において、糖と脂質の代謝を促進し、抗糖尿病、抗メタボリックシンドローム作用を発揮します。 しかし、アディポネクチン受容体は、試料調製の困難さからその立体構造情報が得られていませんでした。

共同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」を用いたX線結晶構造解析により、アディポネクチン受容体の立体構造の解明に成功しました。 その構造から現在までに知られている膜タンパク質の構造とは異なる、新規の構造をしていることが分かりました。 この結果は、アディポネクチン受容体の情報伝達メカニズムの解明につながるだけでなく、メタボリックシンドローム・糖尿病の予防薬や治療薬の開発に有益な情報となることが期待できます。

本研究は、文部科学省ターゲットタンパク研究プログラム、創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業、橋渡し研究加速ネットワークプログラム、科学研究費助成事業などの支援を受けて行われました。 成果は英国の科学雑誌『Nature』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(4月8日付け:日本時間4月9日)に掲載されます。

※詳細は理化学研究所 プレスリリース(研究成果2015)をご覧ください。

(2015/4/14)

抗体が骨を壊す
  ~自己免疫疾患に伴う骨粗しょう症のしくみの一端を解明~

関節リウマチは、自己免疫疾患の中でも最も発症頻度が高い疾患です。 関節リウマチは関節部位に炎症が起こり、骨が壊れる疾患ですが、関節部位の骨の破壊だけでなく全身の骨量が低下する骨粗しょう症も伴います。 関節リウマチだけでなく、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患や、慢性炎症性腸疾患などの炎症性疾患、多発性骨髄腫においても、骨粗しょう症を伴うことが知られています。 しかし、炎症に伴う骨破壊や骨粗しょう症のメカニズムは十分に解明されていないため、これを未然に防ぐことは困難です。

東京大学大学院医学系研究科の高柳広教授と古賀貴子特任助教らの研究グループは、多くの自己免疫疾患や炎症性疾患などに共通して増加する抗原・抗体複合体が、骨を壊す細胞である破骨細胞に直接的に働きかけて骨を減少させることを見いだしました。 自己免疫疾患を自然に発症するマウスの解析や、免疫複合体を局所的または全身に投与したマウスの骨の解析、および関節リウマチの症状を再現した遺伝子改変マウスを用いた遺伝子発現解析などの手法により、免疫複合体が増加し、それを認識する受容体タンパク質(Fcγ受容体)の発現バランスが変化していることが、間接リウマチにおける局所的な骨の破壊だけでなく、全身性の骨粗しょう症の一因となることを明らかにしました。

本研究は、抗体の骨における新しい役割を見いだし、免疫複合体がさまざまな自己免疫疾患や炎症性疾患に伴う骨の破壊と骨粗しょう症を早期発見する有効なバイオマーカーになることが期待されます。

本成果は国際科学誌Nature Communicationsに、2015年3月31日午前5時(米国東部時間)にオンライン版で発表されました。 なお、本研究は独立行政法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「高柳オステオネットワークプロジェクト」の一環として行われました。

※詳細はPDFこちら[PDF: 390KB]をご覧下さい。

(2015/4/14)

2025年の世界の喫煙削減目標は達成可能か?

世界保健機関(WHO)の世界モニタリング枠組に従い、WHO加盟国は2025年までに、たばこ使用を削減する目標を達成することに合意している。 これまで、この削減目標が達成可能であるかどうかを検討した研究はなかった。

今回、東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学の渋谷健司教授、同博士課程ビラノ・バー大学院生、ギルモア・スチュアート助教らは、WHO及び豪州ニューカッスル大学との共同研究により、多くの国で2025年までにたばこ使用の削減目標が達成される見込みは低いとの結果を得た。

研究チームは、たばこ規制に関するWHO包括的情報システムのデータと最新の統計解析モデルを用いて、喫煙率に関して、1990年から2010年までの動向を検証し、2025年までの将来予測を行った。

世界全体では、喫煙率は少しずつ低下しており、2000年から2010年にかけて、男性の喫煙率が125カ国(72%)、女性では156カ国(88%)で減少した。 しかし、アフリカや中東の国々では今後、喫煙率は増加し、2025年時点で喫煙人口は11億人に達し、たばこの使用が世界的に広がるリスクがあると予測された。

2025年までのたばこ使用の削減目標を達成し、たばこ使用を世界的に根絶するためには、即座に効果的かつ持続的な世界的なたばこ規制が必要であると結論付けられた。

※詳細はPDFこちら[PDF: 159KB]をご覧下さい。

(2015/4/14)