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基礎医学・社会医学系について

基礎医学・社会医学関係の教育は、A1タームより開始され、第3学年には大体終了するが、そのすべての科目の試験に合格しないと第5学年に進級する資格が得られないので、従って臨床実習にも出席できないことになる。

授業を行う順序としては、わが国の多くの医学科では伝統的に解剖学、生理学、生化学などから始まり、順次薬理学、微生物学、病理学、免疫学の講義があり、これと並行して、社会医学系である衛生学、公衆衛生学、法医学などの講義が行われる。まず患者に接し病気の概念を身近に感じた後に基礎医学を学ぶという考え方もあるが、本学では、正常を知る基礎医学の土台があって初めて、疾病を扱う臨床医学の教育が成り立つという考え方に沿っている。学生は進級した後、更には卒業した後も折りにふれて基礎医学の知識を振り返り、その進歩を自ら追いつつ、学問を背景とした医療従事者にならなければならない。最近の医学教育の潮流として、基礎医学の学習においても臨床医学とのつながりが理解されるような工夫がなされている。本学においても統合講義などを含め常に人間のための医学を意識した講義がなされている。

基礎医学・社会医学各科目は講義の他に実習の時間がある。しかし、100名余の学生に対して教員の数、あるいは投入し得る時間も十分とはいえず、また短時間に学生自らがテーマを深める方向性は追うべくもないため、これを補う意味もあり、教養学部第1学年の夏休み前に基礎各講座、医学部と密接な関係にある医科学研究所などの研究室に少人数にわかれて実際の研究活動を体験し、雰囲気にふれる機会「フリークオーター」が設定されている。

さらに、研究活動を深めたい学生に対しては、学部の公式なサポートの下通常のカリキュラムも履修しながら、よりインテンシブに基礎医学研究を体験学習できる機会が設けられている。第3学年より一般カリキュラムと並行して開始する「MD研究者育成プログラム」を平成20年度から、「臨床研究者育成プログラム」を22年度から選択制で開設した。また、通常カリキュラムと平行するのでなく基礎医学研究活動に全面的に取り組みたい学生には、第4学年終了以後に通常カリキュラムを休学または退学し、大学院進学を行うPhD-MDコースも平成13年度から用意されている。さらに、これらの機会以外にも自分から進んで研究室に出入りする学生があり、それも大いに歓迎すべきことである。このような行動を通じて自ら思考し判断する学問的能力を身につけて欲しい。

以下、まず基礎医学系各科目について概説する。

解剖学は、生体の構造を分子から細胞、組織、個体にいたるまで理解することを目的としている。細胞生物学では、遺伝子、分子、細胞、組織、個体を一連のものと理解し、さらに構造、物質、機能を一体として理解できる事を目的とする。このために肉眼解剖学実習、組織学総論各論講義及び顕微鏡実習、細胞生物学講義、脳の解剖及び組織実習を行う。解剖学教室の研究もこの様な分子細胞生物学的視点に立ち、学際的アプローチを駆使して、細胞の形づくり、細胞内物質輸送、及び情報伝達の機構等の研究が行われている。

生理学は、生体の正常な機能をおもな研究対象とし、長い歴史と広い裾野をもつ、基礎医学の「かなめ」となる学問分野である。講義および実習は、統合生理学教室、細胞分子生理学教室および神経生理学教室が中心となり、広範な学問分野をカバーしている。実習では、学問の最新の技法に接することができるよう努めている。医学部においては、人体の生理学を究極の目標とするが、単一細胞から霊長類まで、種々のレベルの研究材料を用いる。わが国の脳科学の中心として脳の高次機能(記憶、認識)、感覚・知覚、運動制御の仕組み、および生命現象の基礎となる細胞内・細胞間の情報伝達メカニズムを研究している。

生化学は、生命現象を物質・分子レベルから研究する学問であり、化学、分子生物学、細胞学等広くカバーしている。医学部の生化学は最終的にはヒトの生理や疾病を対象とした研究を目指している。分子生物学教室は細胞周期を司る遺伝子の解析を進め、細胞増殖、癌、細胞分化などに関連した遺伝生物学を、また細胞情報学教室は細胞情報伝達やホルモンの作用機序をタンパク質と遺伝子の両面から研究している。代謝生理化学教室(旧栄養学講座)は、発生・幹細胞における分子生物学を中心に研究を進めている。3教室と医科学研究所の教員、及び学外非常勤講師よりなる教育スタッフにより、講義がなされている。基礎事項から、最新の成果まで網羅されている。この間、講義によって得られた知識を体験するため8日間の学生実習などがある。前半でタンパク質、核酸、糖質、脂質の基礎的手技を習った後、後半は選択テーマでより詳細な実験を行う。タンパク質化学、細胞周期制御機構の解析、遺伝子クローニングの基礎、受容体発現調節と遺伝子導入、ホルモン情報伝達機構の解析、マウス発生学と発生工学の基礎などのテーマが行なわれている。

人類遺伝学は、国際保健学専攻に属する人類遺伝学教室が担当している。先天異常やいわゆる遺伝病以外に、多くの疾患でその発症に遺伝子の関与があることが分かってきた。このような状況をうけて、疾病の遺伝的背景を臨床遺伝、集団、染色体、遺伝子などのレベルで解析し、診断や将来の治療につなげておくための基礎知識の習得を目標としている。

放射線基礎医学では、放射線のヒト・生物への作用に関し、解明されてきたことを、分子、細胞、組織、個体レベルを通して紹介し、現在の研究や将来への発展の方向にも触れる。前半部は放射線基礎医学という講義の枠の中で行われ、放射線の物理・化学、細胞の傷害と死の生物学、傷害の修復、発癌、遺伝・染色体異常、腫瘍治療の基礎医学(分割照射有効性のメカニズム、免疫、がんの転移)などが講義される。後半部は第4学年に、放射線の医療への応用、主として癌の放射線治療の基礎に関し、実験と論文講読・講義を複合した形で行う。

微生物学では、細菌、ウイルス、真菌等、微生物、そして寄生虫を扱う。病原生物の重要研究課題と微生物遺伝学、加えて寄生虫学を主軸に講義実習が行われる。病院内感染や国際感染症など臨床的に重要な事項及び微生物を研究材料とする領域の分野を取り上げる。

薬理学は、薬物と生体との相互作用を研究する学問であり、したがって生体の薬物に対する働きかけ(薬物の生体内運命)も研究主題の一つであるが、その中心課題はやはり薬物の生体に対する作用の研究であり、薬物治療学及び中毒学の基礎をなすものである。2教室が協力をして行う講義と実習は、実験薬理学の立場に立って薬物の作用機構を生理学、生化学、形態学の基礎知識の上に理解し、確認することを主眼としている。

病理学は、基礎医学であるとともに、現代医学においては病理診断を通じて臨床医学としての役割も増加している。病気とは何か、すなわち病気の発生・進展のメカニズムについて、形態のみならず病態・機能について研究する学問である。病理の知識は臨床医学を学ぶ上での基礎知識として必須のものであると同時に病理診断を通じて臨床医学としての役割を担っている。講義実習は俯瞰的に病態のメカニズムを学ぶ総論と、各臓器や疾患ごとに学ぶ各論に分かれる。また病理学は病理診断を通じ患者の診療に密接に関係しており、第5、6学年においてはC.P.C.(臨床病理総合討議)、臨床実習として病理解剖及び生検・手術症例の診断実習等が行われる。

免疫学は、近年分子生物学的手法の導入により飛躍的な進展を遂げており、リンパ球の分化及び抗原認識機構、サイトカイン等による免疫応答調節機構などの解析を通じ、免疫系を含む生体防御系の解明を目指している。一方では癌、自己免疫、アレルギーなど各種疾患の原因の解明、更にそれらの診断、治療、予防に結びつく可能性を有し、他の研究分野と多くの境界を接する学問である。

続いて社会医学系各科目について概説する。

衛生学は、いかにして基礎研究をとおして人々を疾病から守り、身体的精神的能力を増進させ完全に発揮させることができるかを研究する予防医学および社会医学である。公衆衛生学とは社会医学的色彩をもつ点で共通するが、衛生学では予防医学に関する基礎科学的方法を重視する。講義は1)外因性・内因性ストレスによる生体侵襲機序、それに対する炎症を中心とした生体防御反応―疾病の発症機序解明から予防医学への発展2)感染症の疫学・発症機序、分子環境医学、遺伝子診断、新しいワクチン開発などの社会医学的テーマを中心に行い、実習は少人数制で独創的なテーマを基にして行われる。

法医学は、全死亡の1割以上を占める異常死の死因を公正に決定し、関係者の人権を守る役割を担うが、このことには、臨床医の理解が必須である。また、日常の臨床の中にも、医事紛争に発展しやすい、あるいは誤診・誤判しやすい類型的症例があるが、あまり気付かれていない。法医学では、これらのことを学ぶとともに、過労死、賠償医学、脳死や臓器移植、あるいはインフォームドコンセントを含む生命倫理に関しても、医師として持つべき知識と理解を得ることができる教育を目指している。

公衆衛生学は、後期課程後半に英米のマスターレベルの学習を目標に講義と実習が行われる。第4学年の系統講義では、公衆衛生学の体系的理解と基礎的方法論の習得を目的として、総論、疫学、地域保健、産業保健、環境保健、国際保健、行動医学、医療経済、医療政策・行政などを教授する。行政、地域保健、地域医療については国や自治体の行政官、現場の専門家などが講義を分担する。第5学年の実習は少人数の班に分かれ、チューターの指導のもとで具体的なテーマで実施される。最終学年には、公衆衛生学・保健医療論の総括ならびに臨床医学との統合講義を含む社会医学集中講義が開講される。

統計学及び医療情報学は、病院企画情報運営部及び健康科学・看護学科の専門家及び非常勤講師が分担して検定理論、相関因子分析など統計学の基礎及び衛生統計、診断情報処理、医療情報システムなど医学への応用につき講義を行う。