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東京大学大学院医学系研究科研究科長・医学部長からのご挨拶

医学系研究科長・医学部長 南學正臣

大学院医学系研究科研究科長・医学部長
南學正臣

はじめに

医学は生命現象を明らかにするという学術としての重要性を一方で持ち、他方では人類の福祉に貢献し、疾病の克服を実現するという点で応用科学としても大きな意義を持つ学問です。 本医学系研究科・医学部はその始まりを1858年の神田お玉が池の種痘所まで遡ることができ、160年余に及ぶ歴史を持っています。 これまでにも社会に貢献する多くの人材を輩出し国際的な学術のリーダーを育成してきました。 現在も21世紀の医学と医療を担う人材を養成することを目的として、研究・教育活動を推進しています。

医学と医療の分野は大きな進歩を遂げています。 発症機序が不明であった疾患の理解が進み、難治性の疾患に対してもその治療方法が開発されつつあります。 医学の進歩と医療体制の充実により日本は人生100年時代を迎え、健康寿命を延伸させて生活の質(QOL)の高い人生を過ごすことが重要な課題となっています。 また2020年1月からの新型コロナウィルス感染症の流行とそれに伴う社会の変化は、未知の医学的脅威に対する現在の医学・医療の限界を我々に示しました。 2019年12月に報告された未知の病気の原因が、2020年1月には明らかにされ、またたく間にそのウイルスの遺伝子配列が全世界の科学者に共有され、有効なワクチンが開発されました。 その前例のない迅速な対応は、科学の力、医学の力の素晴らしさと、研究者同士の情報共有と協力の重要性を改めて明らかにしました。 もちろん、全世界での臨床に携わる医療関係者の献身的な活躍については、言うまでもありません。 2023年5月には新型コロナウィルス感染症は「5類感染症」に移行し、いよいよ with corona、post corona に向けての動きが本格化しますが、同時に様々な混乱も予想されます。 このような事例は、医学と医療の分野における基礎的な研究を充実させること、そして研究シーズの速やかな応用研究への展開を実現することの重要性を示しています。 本医学系研究科・医学部の社会的な責任を再確認し、研究・教育活動の一層の充実を目指す所存です。

大学院医学系研究科の活動 - 明日の医学を切り拓く

大学院医学系研究科では最先端の生命科学、医学、健康科学に関連する研究が実施されています。 多様な学術研究、分野横断的な共同研究、国際交流活動を基盤として、将来の国際的リーダーとなる若手研究者を養成し、卓越した研究成果を挙げてきました。 医学博士課程は分子細胞生物学、機能生物学、病因・病理学、生体物理医学、脳神経医学、社会医学、内科学、生殖・発達・加齢医学、外科学の9つの専攻から構成されています。 専門職学位課程としては公共健康医学、博士後期課程および修士課程として健康科学・看護学、国際保健学があります。 さらに他学部を卒業して医学分野での研究を志す学生の教育を目的とした医科学専攻修士課程も設置しています。 毎年 150~200 名の学生が博士となって卒業し、多様な分野や職種で社会に貢献しています。

医学部における教育 - 明日の医療人を養成する

医学部では教育目的・理念として、「生命科学・医学・医療の分野の発展に寄与し、国際的指導者になる人材を育成すること」を掲げています。 そのために「創造的研究を遂行し、臨床においては、その成果に基づいた全人的医療を実践しうる能力」を学生が身に着けることを目指しています。

医学科

医学科では人体の構造と機能、病気の発症機序などを学び、卒業後には医学者・医師として社会に貢献する人材となることを目指します。 前期課程の2年を終えた学生は本郷キャンパスでの4年間の後期課程の教育を「基礎医学」、「臨床医学」、「社会医学」という大枠に沿って受けます。 基礎医学や社会医学の講義は臨床医学を理解するためにも必要ですが、研究者の道を目指す学生にとっては、リサーチマインドの養成という意義もあります。 研究志向の学生はさらにPh.D.-M.D.コース、MD研究者育成プログラム、臨床研究者育成プログラムなどを選ぶことで、自らの興味に沿って医学研究を実践することが可能です。 M2からは臨床系の講義と実習が始まります。 参加型の臨床実習であるクリニカルクラークシップは臨床の教育において重要なプログラムです。 参加するには全国共通の共用試験(CBT)と、診療の態度と技能を評価する試験(OSCE)に合格する必要があり、合格後にStudent doctor認定証が授与され、患者さんの前に出ることができるようになります。

健康総合科学科

健康総合科学科では病気の予防や、社会、環境との関係で疾患を捉え、介護や健康の科学を創造することを学びます。 分子・細胞・臓器レベルでの人間の生物学を学ぶ「環境生命科学」、社会格差や医療倫理など、社会との関係の中で健康課題を分析して疾病予防や健康増進につなげる「公共健康科学」、健康の増進・維持・回復を支援する看護援助を科学し実践する「看護科学」の3専修が設けられ、多様な健康に関連する学問とその社会実装について学ぶことができます。 健康総合科学科には前期課程の科類を横断する形で学生が進学しており、多様な学生が交流することで学際的な研究教育活動が実践されています。

おわりに

東京大学大学院医学系研究科と医学部の学生や教員は、医学・医療界での国際的なリーダーとなり、人類の福祉に貢献することを社会から期待されています。 医学と医療の分野での進歩は決して一朝一夕には起こらず、前人の蓄積した知を継承し、それを次の段階へと発展させる不断の努力が必要です。 その中から、それまでの常識を覆す新しい仮説や技術が生まれ、社会を変革するイノベーションへとつながります。 明日の医学と医療を開拓する人材が本医学系研究科・医学部から輩出すること、さらにこのような人材がnobles oblige の精神を忘れず、人類の福祉に大きく貢献してくれることを願っています。

(2023年4月)