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広報・プレスリリース最新情報(2020年(令和2年))

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統合失調症の治療抵抗性の症状に関与する分子・神経回路メカニズムを発見
~ 統合失調症関連遺伝子SETD1A の新たな機能の解明 ~

統合失調症は、幻覚・妄想、社会活動の低下や情報処理能力の低下など多彩な臨床症状を示すことが知られています。近年の大規模な遺伝子解析で、多数の遺伝子が病態に関与することが示唆されています。しかし、それらの遺伝子変異が神経細胞においてどのような機能的な異常を引き起こし、統合失調症の発症にどれだけ影響を及ぼすのかよくわかっていません。

今回、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野の長濱健一郎研究員(研究当時)、上阪直史講師(研究当時)と狩野方伸教授らの研究グループは、ヒトで統合失調症の発症に強く関与することが知られている遺伝子SETD1Aに注目しました。ヒトの統合失調症患者でみられるSETD1Aの変異と同等の変異を持つ新たな遺伝子変異マウスを作製し、その解析によって、Setd1a遺伝子の機能低下が大脳前頭前野の神経回路の働きに障害を起こし、統合失調症と関連する行動異常を起こすことを発見しました。

研究グループは統合失調症患者で発症に強く関連する遺伝子変異を再現したSetd1a変異マウスをゲノム編集技術により作製し、遺伝子発現、神経回路の働き、マウスの行動について、包括的な解析を行いました。その結果、このマウスは統合失調症によく似た(幅広く臨床的特徴を反映している)行動異常を示すことがわかりました。またSetd1a遺伝子の発現低下によって、大脳前頭前野において、神経細胞同士の機能的な結合を反映する興奮性のシナプス伝達が、一部の神経細胞(2/3層の錐体細胞)において低下し、マウスの社会性行動の異常が起こることがわかりました。統合失調症患者は、症状の一部として社会生活の中での会話や行動に障害を持ち、現存の薬物治療にも抵抗性を示すことが多く、治療が難しいことが知られています。本研究の成果は、複数の精神疾患に共通してみられる社会性障害のメカニズム解明に貢献するとともに、統合失調症の治療抵抗性の症状へのシナプス機能を標的とした新規治療法開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2020年9月15日(米国東部夏時間)に「Cell Reports」のオンライン版に掲載されます。

本研究は、科学研究費補助金(課題番号:18H04012、19H05204、19H05253)の助成を受けて行われました。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」の一環として実施されました。

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(2020/9/18)

オートファゴソーム形成の膜変形ダイナミクスの数理モデル

オートファジーにおいて、オートファゴソーム形成は膜の大規模な形態変化を伴う現象です。その変化は極めてユニークで、隔離膜といわれる扁平なディスク状の小胞が、成長とともにカップ状に弯曲し、最後にカップの口が閉じて球状のオートファゴソームが形成されます。多くのオートファジー関連因子はこのオートファゴソーム形成過程に関与しており、隔離膜の形態変化はこれらの因子により制御されていると考えられます。しかし、どのような物理機構により隔離膜の形態変化が制御されているのかは謎のままでした。

東京大学大学院医学系研究科の境祐二助教、水島昇教授らの研究グループは、曲率因子による隔離膜の形態制御の数理モデルを構築し、オートファゴソーム形成における隔離膜の形態変化を解析しました。その結果、隔離膜成長とともに曲率因子の膜上分布が自発的に変化することで、隔離膜の一連の形態変化を理解できることを示しました。この数理モデルは、実際に細胞内で観測されるオートファゴソーム形成時の隔離膜変形を定量的に説明します。さらに、オートファゴソームの大きさは曲率因子量によって制御されていることを予測します。本研究成果は、一見複雑に見えるオートファジーの膜動態が、単純な物理機構に基づく数理モデルによる解析が有効であることを示唆しています。今後、膜動態の計測とそれに基づく数理解析とを組み合わせることで、オートファジー動態の制御機構について統合的な理解が進むことが予想されます。

本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「水島細胞内分解ダイナミクスプロジェクト」(研究総括:水島昇)および科学研究費助成事業 若手研究「数理手法を用いたオートファジー・ダイナミクスの解明」(代表:境祐二)として行われました。

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(2020/9/4)

膵癌で高発現する新規環状RNA の同定とバイオマーカー応用
~ 新しい膵癌診断マーカーの開発をめざして ~

膵癌は、かなり進行した状態で見つかることが多く、死亡者数は年々増加傾向にあり、極めて予後不良な癌とされています。このため、膵癌の早期発見を可能にする、新しいバイオマーカーの開発が強く求められています。その一環として、癌で発現するRNAを、血中で検出することでマーカーとする、いわゆるリキッドバイオプシーの試みがなされてきました。近年、環状RNAと呼ばれる特殊なRNAがさまざまな癌で異常発現することが徐々に明らかとなり、新しいバイオマーカーとして注目されてきました。

東京大学医学部附属病院 消化器内科の清宮崇博 大学院生、大塚基之 講師、小池和彦 教授らの研究グループは、環状RNAに特異的なRNAシークエンス解析を行い、膵癌において高発現する環状RNAを網羅的に探索しました。その結果、既存のデータベースにない新規環状RNAを見出し、その全長配列を同定しました。また、この新規環状RNAは膵癌の進行度に対応して高発現する傾向がみられることから、膵癌進行に関与している可能性が示唆されました。さらに、この新規環状RNAは膵癌組織で高発現するのみならず、膵癌患者およびその前癌病態にある患者の血液からも高頻度に検出されることを確認しました。この結果は、採血による膵癌の早期診断・前癌病態の囲い込みへ応用できる可能性を示唆しています。

本研究成果は、日本時間9月3日にJournal of Human Genetics(オンライン版)にて発表されました。

※詳細は東大病院HP掲載の リリース文書[PDF]をご覧ください。

(2020/9/3)

新型コロナの外出自粛の呼びかけ
知事、専門家より「現場の医師」のメッセージで効果大

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、世界各国でロックダウンが実施され、日本でも4月~5月の緊急事態宣言下で、不要不急の外出の自粛が呼びかけられました。しかし、要請を無視した外出行動は日本を含む各国で問題となりました。

緊急事態宣言下では、メディアを通じ、外出自粛要請に関する多くのニュースが発信されました。それらのニュースは、「知事」、「感染症対策の専門家」、「コロナ病棟で働く医師」、「コロナに感染した患者」、「海外の感染爆発地域の住民」等の談話を掲載し、外出自粛を呼びかけました。それでは、誰によるどのような呼びかけが、外出自粛をうながす効果が高いのでしょうか?

東京大学大学院医学系研究科 医療コミュニケーション学分野 奥原剛 准教授らは、緊急事態宣言下の2020年5月9日~11日に、日本全国の成人1,980人を対象に、ランダム化比較研究を実施しました。研究参加者を①「知事」、②「感染症対策の専門家」、③「コロナ病棟で働く医師」、④「コロナに感染した患者」、⑤「海外の感染爆発地域の住民」による外出自粛の呼びかけを読むグループにランダムに割り付け、外出を自粛しようという気持ちの強さを回答してもらい、①~⑤のグループ間で比較しました。

その結果、医療崩壊の危機を訴える現場の医師によるメッセージが、外出自粛をうながす効果が最も高いことがわかりました。外出自粛をうながすというと、知事や専門家によるメッセージが思い浮かぶかもしれませんが、現場の医師のメッセージが最も効果的だったのです。

今後、感染爆発が懸念され再び外出自粛が要請される場合に、医療崩壊の危機を訴える現場の医師によるメッセージを積極的に発信することの重要性が示唆されました。メディアと公衆衛生に従事する皆様におかれましては、メディアの情報を通じ人々のより適切な行動変容を支援するために、本研究成果をご活用いただけますと幸いです。

本研究成果は国際学術誌「Patient Education and Counseling」(オンライン出版日:2020年8月21日)に掲載されました。

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(2020/9/2)

慢性心不全患者で認められる突然死の原因を解明

高齢化社会が進む中、慢性心不全の患者数は増加し続けています。若年者を含む重症心不全の患者さんにおいて、現時点で最善とされる内科的治療を行っても、致死的な不整脈による突然死を免れられないことが大きな問題となっています。この度、東京大学医学部附属病院 循環器内科の山口敏弘特任助教および野村征太郎特任助教、小室一成教授、現東邦大学医学部医学科 生理学講座の内藤篤彦教授、現エール大学医療学校 神経科学部の住田智一助教らのグループは、これまで明らかになっていなかった心臓ドパミン受容体の役割に着目し、同受容体が心不全時の致死的な不整脈の発症に寄与していることを世界で初めて明らかにしました。今回の研究成果により、重症心不全の患者さんの突然死を抑制する新たな治療法の開発に、大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、日本時間8月31日に英国科学雑誌Nature Communicationsにて発表されました。

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(2020/9/1)

線維芽細胞が自己免疫を防ぐ
~ T細胞を「教育」する新たなしくみを発見 ~

免疫系は、私たちが健康に生きるために不可欠な生体システムです。免疫細胞のなかでもT細胞は、微生物やがん細胞などを認識して攻撃する一方、自分自身の成分を攻撃しない性質をもち、免疫系の中心的な役割を担っています。このようなT細胞の性質は、T細胞が胸腺で「教育」を受けることで成立します。特に、胸腺の髄質では、上皮細胞と呼ばれる細胞が自己成分を作り出し、それに反応するT細胞を取り除く作用をもつことが知られています。

胸腺の髄質には、それ以外の細胞も多数存在しており、線維芽細胞はその代表例です。線維芽細胞は従来、動物体内に広く存在し、体を構成する個性のない細胞と思われてきました。しかし近年、線維芽細胞は臓器ごとに異なる性質をもち、様々な生命現象に重要な役割を担うことが注目されています。

東京大学医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学分野の新田 剛 准教授と高柳 広 教授らの研究グループは、マウスを用いて、胸腺の髄質に存在するユニークな線維芽細胞を単離する方法を開発し、それらの遺伝子発現などの特徴を明らかにしました。さらに、髄質の線維芽細胞が自己タンパク質(自己抗原)を作り出し、それに反応するT細胞を取り除き、自己免疫を抑える機能をもつことがわかりました。本研究成果は、免疫系の基本原理の理解を深め、自己免疫疾患の原因解明や治療法開発につながると期待されます。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(15H05703, 16H05202, 17H05788, 19H03485, 19H04802)や、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「組織修復型免疫細胞の解明とその制御による疾患治療の開発」(研究開発代表者:高柳 広)などの支援を受けて行われました。

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(2020/8/25)

所属病院外において新型コロナウイルス感染症の救援活動を行った医療従事者の心的外傷後ストレス症状に関する調査

これまでの研究から病院内におけるCOVID-19等の新興感染症に対応した医療従事者のメンタルヘルスの問題が報告されていますが、所属病院外においてCOVID-19等の新興感染症に対応した医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの悪化の関連要因は明らかにされていませんでした。

東京大学大学院医学系研究科精神保健学・看護学分野の浅岡紘季大学院生(修士課程2年)、西大輔准教授らは、DMAT事務局およびDPAT事務局と共同で、2019年2月から3月にかけて所属病院外でCOVID-19の救援活動を行った災害派遣医療チーム(DMAT)および災害派遣精神医療チーム(DPAT)に所属する医療従事者を対象とした調査を行いました。調査は救援活動後の3月11日から4月2日に実施され、年齢や性別に加えて、身体的・精神的疲労などの新興感染症に対応する際のストレス、周トラウマ期の精神的苦痛、派遣活動中COVID-19患者との接触など先行研究からPTSD症状と関連があると考えられている要因についてアンケート調査を行いました。その結果、病院外にてCOVID-19の救援活動を行った医療従事者において身体的および精神的疲労と周トラウマ期の精神的苦痛とがPTSD症状と関連することが示されました。加えて、DMAT隊員はDPAT隊員と比較してPTSD症状との強い関連が認められました。

本研究は、所属病院外においてCOVID-19等の新興感染症の救援活動を行った医療従事者のメンタルヘルスの状態と悪化の関連要因を世界で初めて調査した研究です。本研究成果は、新興感染症の救援活動後にPTSD症状が強く現れる危険性が高い救援者の早期発見や、救援活動後のPTSD予防策の構築に寄与することが期待されます。なお、本成果は「Psychiatryand Clinical Neurosciences」(オンライン版:2020年7月21日)に掲載されました。

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(2020/7/22)

オリーブ油の成分が大動脈を守る
~ オレイン酸を動かし大動脈解離を抑える脂質代謝酵素の同定 ~

大動脈解離は、大動脈壁の中膜が突然破断する予後不良の疾患で、突然死の原因となることから、その診断・予防・治療法の開発は解決すべき喫緊の課題です。しかしながら、大動脈解離にはヒトの臨床を反映する簡便な動物モデルが存在しないため、病態の発症機序は殆ど解明されておらず、それ故に外科的処置以外に予防・治療方策は皆無でした。東京大学大学院医学系研究科 村上誠 教授、山梨大学医学部呼吸器循環器内科 久木山清貴 教授らの研究チームは、脂質を代謝する酵素群の生体内機能に関する研究から、血管内皮細胞から分泌される脂質分解酵素が大動脈の健康を維持する脂肪酸(オリーブ油の主成分であるオレイン酸)を作り出し、大動脈解離を防ぐ役割を持つことを発見しました。この成果は、大動脈解離の新規予防・治療法の開発につながると期待されます。

この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:清水孝雄)における研究開発課題「PLA2 メタボロームによる疾患脂質代謝マップの創成とその医療展開に向けての基盤構築」(研究開発代表者:村上誠)、革新的先端研究開発支援事業ステップタイプ(FORCE)、ならびに日本学術振興会科研費(新学術領域研究、基盤研究)の一環として行われました。この研究は、2020年6月1日に米国科学誌『Journal of Biological Chemistry』にオンライン掲載され、特に優れた論文に与えられる“Editors’Picks”に選ばれました。

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(2020/7/8)

集中治療室での治療を必要とした重症新型コロナウイルス感染症に対する ナファモスタットとファビピラビルによる治療

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が全世界的に拡大しており、その対策が急がれています。我が国は緊急事態宣言が本年5月25日に解除され、感染はいったん収束しつつありますが、今後の第二波、第三波の到来に備えて、COVID-19の治療薬の開発が喫緊の課題です。東京大学ではナファモスタットメシル酸塩がウイルスのヒトの細胞への侵入を抑制することで、COVID-19に対する有効性が期待できる治療薬として基礎的研究成果を発表してまいりました。今回、東京大学医学部附属病院ではナファモスタットメシル酸塩をCOVID-19に対する治療薬候補として選択し、ファビピラビルとの併用によって、肺炎を発症し集中治療室(ICU)での治療を必要とした重症のCOVID-19症例に対してコンパッショネート(人道的)使用による治療を行いました。

ナファモスタットメシル酸塩は抗凝固薬や膵炎治療薬として国内で使われてきた薬剤です。ファビピラビルはRNAポリメラーゼを抑制することでSARS-CoV-2のヒトの細胞内での増殖を抑制すると考えられています。ナファモスタットメシル酸塩とファビピラビルはウイルスの増殖過程における作用部位が異なることから、両者を併用することで相加的な効果が期待されます。また、COVID-19の一部の患者では、血管内での病的な血栓の形成が病気の悪化に関与していると考えられ、ナファモスタットメシル酸塩の抗凝固作用が有効であると期待されています。

本研究成果は、2020年7月3日に医学雑誌「Critical Care」のオンライン版にて発表されました。

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(2020/7/6)

喫煙率の社会格差は縮小していない ~格差を考慮した喫煙対策を~

欧米では喫煙の社会格差の統計をもとにその是正のための対策が健康政策として提起・実施されているのに対し、わが国では喫煙率の社会格差に関する統計がなく、格差が縮まっているのか明らかでありませんでした。東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻公衆衛生学分野の田中宏和客員研究員と小林廉毅教授は、オランダ・エラスムス大学医療センターのヨハン・マッケンバッハ(Johan P.Mackenbach)教授と共同研究を行い、喫煙率の社会格差の経年変化を国民生活基礎調査のデータを用いて分析しました。

2016年の教育歴別の喫煙率(25-64歳)は男性の中学卒業者で57.8%、高校卒業者で43.9%、大学以上卒業者で27.8%であり、女性では中学卒業者34.7%、高校卒業者15.9%、大学以上卒業者5.6%でした。2016年の職業階層別の喫煙率(男性、25-64歳)は管理職・専門職で32.5%、非熟練労働者で47.1%でした。管理職・専門職と非熟練労働者を比較すると、男性で2001年に喫煙率の差は11.9%(95%信頼区間:11.0-12.9)、比は1.24(95%信頼区間:1.22-1.26)であったのが、2016年に差は14.6%(95%信頼区間:13.5-15.6)、比は1.45(95%信頼区間:1.41-1.49)と格差は拡大していました。この傾向は女性でも認められ、人口全体の喫煙率は低下しているものの喫煙率の社会格差は縮小していない(わずかに拡大している)ことが明らかになりました。

わが国では喫煙率の社会格差是正のための目標値の設定や公衆衛生上の施策がなく、このままでは健康格差が拡大する懸念があります。本研究はわが国において喫煙率の社会格差が縮小していない傾向を明らかにしたとともに、将来の健康格差を予防・縮小するための社会格差を考慮した喫煙対策の重要性を示唆するものです。

本研究は2020年6月27日に「Journal of Epidemiology」(オンライン早期公開版)に掲載されました。

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(2020/7/01)

自己免疫疾患の発症を防ぐ新たなタンパク質を特定
~ クロマチン制御因子Chd4は自己抗原の発現を制御し、自己免疫疾患の発症を防ぐ ~

免疫系は、病原体から我々の身体を守るシステムです。T細胞は免疫系において中心的な役割を担っている細胞集団であり、我々の体内に進入してきた病原体を攻撃します。一方で、T細胞は“自己を攻撃しない”性質も持っており、この性質は免疫寛容と呼ばれています。T細胞は胸腺という臓器でつくられますが、胸腺では、末梢組織で機能している多種多様なタンパク質が自己抗原として異所的に発現しており、これらに強く反応する自己反応性T細胞が予め胸腺内で除去されることにより免疫寛容が維持されています。

東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻免疫学の友藤 嘉彦(医学部医学科;研究当時)、高場 啓之 助教、高柳 広 教授らの研究グループは、胸腺において、末梢組織自己抗原の発現を制御するクロマチン制御因子Chd4を同定しました。研究グループは、胸腺上皮細胞でのみChd4を欠損する遺伝子改変マウスを作成し、胸腺の遺伝子発現パターンやクロマチン構造について検討しました。その結果、Chd4はプロモーター領域、スーパーエンハンサー領域の二領域のクロマチン構造を制御することによって、末梢組織自己抗原の遺伝子発現を制御していました。また、胸腺でChd4を欠損させたマウスは自己免疫疾患を発症しました。以上の結果から、Chd4が末梢組織自己抗原の発現制御を行い、免疫寛容を維持していることがわかりました。

この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「組織修復型免疫細胞の解明とその制御による疾患治療の開発」(研究開発代表者:高柳 広)の一環として行われました。

本研究成果は日本時間6 月30 日にNature Immunology(オンライン版)にて発表されました。

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(2020/6/30)

高齢者高血圧の発症機序を解明~食塩の関与~

高血圧は、心臓病や脳卒中などの致死的な病気の重要な原因となるが、症状がないことからサイレントキラーと呼ばれています。高齢者は高血圧になりやすいことが分かっていましたが、その原因や機序は不明でした。東京大学先端科学技術研究センター臨床エピジェネティクス寄付研究部門の藤田敏郎名誉教授、河原崎和歌子特任助教らの研究グループは、高齢者高血圧の発症メカニズムを解明しました。

研究グループは、加齢と共に、血中の抗加齢因子Klotho蛋白が減少し、そのため高食塩を摂取するとKlothoにより抑制されていた血管の収縮経路が活性化して、血圧が上昇する一連の過程を高齢のマウスを用いて証明しました。また、それを裏付けるため、Klotho蛋白を補充して予め血中レベルを若いマウスと同程度まで回復させておくと、食塩を投与しても血圧が上昇しないことを示しました。

本研究はKlothoの関与する血管収縮経路の阻害薬を投与することにより食塩による血圧上昇を抑制できたことから、高齢者高血圧の新たな治療薬の可能性を提案しています。さらに、高血圧は予防が大切ですが、生活習慣の改善により血中Klothoを正常に維持することが高血圧発症の予防となることを示唆しており、血清Klothoは高血圧発症の予知マーカーとしても期待されます。

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(2020/6/30)

統合失調症や双極性障害の男性患者ではセロトニン関連遺伝子のDNAメチル化状態が変化

熊本大学大学院生命科学研究部分子脳科学講座・文東美紀准教授、岩本和也教授および東京大学医学部附属病院精神神経科・池亀天平助教、笠井清登教授らの研究グループは、国内多施設共同研究により、統合失調症や双極性障害患者の血液では、セロトニントランスポーター遺伝子の特定のゲノム領域が高いメチル化状態を示すことを明らかにしました。また、高いメチル化状態は男性およびセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター領域における低活性型の遺伝子多型を持つ患者で顕著に見られ、脳の扁桃体の体積と逆相関することを見出しました。さらに、人工的にメチル化した遺伝子のゲノム領域では、転写活性がほぼ完全に抑制されることを示しました。

セロトニントランスポーターは、脳神経細胞のシナプス間隙で神経伝達物資セロトニン濃度の調節を行っており、抗うつ薬の主要な標的分子であると考えられています。今回、研究グループは、セロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター領域における遺伝子多型である5-HTTLPRが、エピジェネティックな状態であるDNAメチル化状態と関連し扁桃体の形態変化を通して精神疾患の病態に関係している可能性を明らかにしました。

本成果により、統合失調症や双極性障害の病態に関する理解が進み、エピジェネティックな状態を標的とした治療薬や診断・治療マーカーの開発など、多方面での応用が期待されます。

本研究成果は、2020年6月19日付(日本時間)の国際科学誌「Schizophrenia Bulletin」において公開されました。

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(2020/6/22)

虚血性心疾患に関わる新たな疾患感受性座位の発見
~ 発症に関わる遺伝要因の人種差の理解に貢献 ~

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チームの伊藤薫チームリーダー、松永紘研修生、ゲノム解析応用研究チームの鎌谷洋一郎客員主管研究員、東京大学大学院医学系研究科循環器内科学の小室一成教授らの共同研究グループは、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)の発症に関わる新たな疾患感受性座位を発見しました。

本研究成果は、虚血性心疾患の発症に影響する生物学的な機序の解明や、遺伝要因の人種差の理解に貢献すると期待できます。

虚血性心疾患の有病率は人種によって異なり、日本人は欧米人に比べて低いことが知られています。この理由として、環境要因だけでなく遺伝要因も発症に関与していることが考えられます。今回、共同研究グループは、約5万人の日本人集団の遺伝情報を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、その結果と約34万人の欧米人集団との人種横断的なメタ解析を行ったところ、虚血性心疾患の発症に関わる3領域の新たな疾患感受性座位を同定しました。さらに、発症に影響する臓器・組織を調べた結果、日本人集団では副腎、欧米人集団では動脈や脂肪組織の影響が大きいことが分かりました。なお、本研究で作成した日本人集団におけるジェノタイプデータは、科学技術振興機構(JST)バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)を通じて公開する予定です。

本研究は、科学雑誌『Circulation: Genomic and Precision Medicine』(6月16日付:日本時間6月17日)の掲載に先立ち、オンライン版(5月29日付)に掲載されました。

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(2020/6/15)

新型コロナウイルス感染症に対する企業内対策の実施状況
~ 企業規模別・業種別での検討と仕事のパフォーマンスへの影響 ~

新型コロナウイルス感染症に対し、各職場で実施される企業対策は感染拡大防止に重要な役割を担っています。しかし、日本における新型コロナウイルス感染症に対する企業内対策の実施状況は明らかになっていませんでした。

東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の佐々木那津大学院生、川上憲人教授らは、日本での新型コロナウイルス感染症拡大の初期に企業内対策の実施状況を明らかにすることを目的に、全国一般労働者1,488人を対象にオンライン調査を実施しました。新型コロナウイルス感染症に関連して社員向けの通知の有無と、23項目の個別対策の実施状況について今回新たに作成した調査票に回答してもらいました。新型コロナウイルス感染症への不安、心理的ストレス反応、仕事のパフォーマンスについても聴取しました。その結果、労働者のうち79.9%は勤務先から新型コロナウイルス感染症に関する社員向けの通知を受け取っていました。手洗いなどの個人予防対策の励行は約8割の企業で実施されていましたが、高齢者や妊婦などハイリスクな労働者への配慮(39.8%)、感染時の補償に関する情報提供(35.3%)、特別な措置が実施される期間に関する情報提供(33.0%)、テレワークや在宅勤務の励行(26.8%)、働く環境(デスクの配置や動線など)の変更(17.2%)の実施率は低いことが明らかになりました。従業員数が50人未満の小規模事業場では対策の実施数が有意に少なく、業種では製造業と比較して小売業・卸売業、運輸業で対策の実施数が有意に少ないことがわかりました。対策の実施数が多いほど、新型コロナウイルス感染症に対する不安は有意に高い傾向がみられましたが、心理的ストレス反応は有意に低く、仕事のパフォーマンスは有意に高いことがわかりました。

本成果は、新型コロナウイルス感染症に対する企業内対策を企業規模別・業種別に検討した初めての研究です。今後は、従業員50人未満の企業や小売業・卸売業、運輸業などの業種においてさらに対策が推進されることが期待されます。なお、本成果は日本産業衛生学会の専門誌「Environmental and Occupational Health Practice」に掲載される予定です。また、感染症への不安・精神健康・パフォーマンスへの影響については日本産業衛生学会の専門誌「Journal of Occupational Health」に掲載される予定です。

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(2020/6/15)

疾患発症に関わる日本人の遺伝的特徴の解明
~ 日本人21万人のゲノム解析により遺伝的変異を検索 ~

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター統計解析研究チーム(研究当時)の鎌谷洋一郎チームリーダー、石垣和慶特別研究員、久保充明副センター長(研究当時)、東京大学の門脇孝名誉教授、山内敏正教授、東京医科歯科大学の稲澤譲治教授らの国際共同研究グループは、バイオバンク・ジャパンのゲノムデータを用いて、東北メディカル・メガバンク計画、JPHC研究、J-MICC研究と共同で日本人約21万人のゲノム解析を行い、27疾患に関わる320の遺伝的変異を同定し、そのうち重要な遺伝的バリアントについて、国立がん研究センターバイオバンク、国立長寿医療研究センターバイオバンクならびにOACIS研究の協力で再現性を確認しました。

本研究成果は、疾患の病態の理解、疾患発症リスクの民族差の理解、個々人の遺伝子情報に基づく個別化医療の発展に貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、42疾患を対象とした東アジアにおける最大規模のゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、320の遺伝的変異を同定しました。そのうち25変異は、欧米での研究では検出されなかった新しい変異であり、虚血性心疾患に関連するATG16L2、肺がんに関連するPOT1、ケロイドに関連するPHLDA3などの遺伝子のタンパク質のアミノ酸配列を変える変異が含まれていました。また、このGWASの解析結果と転写因子の結合部位を統合する解析を実施し、疾患発症に関与する転写因子と疾患の378の組み合わせを同定しました。

本研究は、科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(6月8日付:日本時間6月9日)に掲載されました。

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(2020/6/10)

腸内細菌による食後血糖調節機構の解明
~ マクロファージの食後反応と肥満による破綻から見る新規治療への希望 ~

肥満は種々の合併症を引き起こす2型糖尿病の要因のひとつであり、肥満が引き起こす脂肪組織での慢性炎症は糖尿病の重要な病態であるインスリン抵抗性を促進すると考えられています。炎症は免疫反応の一つですが、最近では短期的な免疫反応が生体の恒常性維持に関与している可能性も示唆されています。

今回、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の戸田郷太郎 病院診療医、山内敏正 教授、糖尿病・生活習慣病予防講座 門脇孝 特任教授(研究当時、現 虎ノ門病院 院長)、国立国際医療研究センター研究所の植木浩二郎 糖尿病研究センター長の研究グループは、組織特異的ノックアウトマウスを用いた検討を行い、摂食後の小腸内Lipopolysaccharide (LPS)産生菌の一過性の増加およびインスリン分泌に反応したマクロファージがAkt-mTOR経路の活性化によりインターロイキン10(IL-10)を産生し、IL-10がインスリンと共に肝臓での糖新生遺伝子発現を抑制することを発見しました。肥満したマウスではマクロファージでのインスリンシグナルおよびIL-10産生が減弱しており、アデノウイルスを用いてIL-10を発現させると食後高血糖、高インスリン血症が改善することから、免疫反応の食事摂取に対する生理的な応答を回復もしくは維持することが肥満・糖尿病の治療目標になりうると考えられます。

本研究成果は日本時間2020年5月28日午前0時(米国東部夏時間 2020年5月27日午前11時)にMolecular Cell(オンライン版)にて発表されました。

※詳細は東大病院HP掲載の リリース文書[PDF]をご覧ください。

(2020/5/28)

遺伝性乳がん・卵巣がんのリスクとなるBRCA2遺伝子バリアントの新規機能解析法を開発

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所細胞情報学分野 池上政周任意研修生、高阪真路ユニット長、間野博行分野長らの研究グループは、国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科 田村研治科長、国立大学法人東京大学大学院医学系研究科 田中栄教授、細谷紀子准教授、国立研究開発法人理化学研究所生命医科学研究センター 桃沢幸秀チームリーダーらと共同で、遺伝性乳がん・卵巣がんの原因として知られるがん抑制遺伝子BRCA2遺伝子のバリアントに対するハイスループット機能解析法を開発しました。

本研究グループは、これまでにがん遺伝子に対する革新的なハイスループット機能解析手法(mixed-all-nominated-mutants-in-one method: MANO法)を構築し、EGFRやERBB2といったがん遺伝子の意義不明バリアントの機能解析を行ってきました。この手法を発展させ、BRCA2の機能解析手法であるMANO-BRCA法(MANO-B法)を確立し、186種類の意義不明バリアントを含むこれまでで最大規模の244種類のバリアントについて機能解析を行った結果、新たに37種類の病的バリアントを同定しました。さらに本手法の臨床応用例として、遺伝子検査で新たに発見されたバリアントの病的意義を迅速に判定し、報告するシステムを構築しました。本システムは、適切な治療方針が定まらず不安を抱えていた意義不明バリアント保持者に正しい情報を伝えることができることから、リスク低減手術やPARP阻害薬投与の必要性を判断するためのコンパニオン診断としての活用が期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に5月22日付で掲載されます。

※詳細はPDFこちら[PDF]をご覧下さい。

(2020/5/25)

血小板凝集塊は分類可能!人工知能が発見

東京大学大学院理学系研究科の周雨奇大学院生、合田圭介教授らは東京大学大学院医学系研究科・東京大学医学部附属病院検査部の安本篤史助教(研究当時)、矢冨裕教授と共同で、血液中の血小板凝集塊が分類できることを世界で初めて発見し、それを定量モデル化した手法「インテリジェント血小板凝集塊分類法(intelligent Platelet Aggregate Classifier; iPAC)」の開発に成功しました。iPACは、特殊な顕微鏡を用いて得られた多数の血小板及び血小板凝集塊の画像をもとにした深層学習によって構築された人工知能です。iPACを用いることで、刺激物質(アゴニスト)の種類により血小板凝集塊の形態(形、大きさ、複雑さなど)が微妙に違うことに気づき、血小板凝集塊の形態から活性化を誘導するアゴニストの種類の同定・分類するという画期的な発見をしました。iPACは、血小板凝集のメカニズムを解明するための強力なツールであり、また、流血中の血小板凝集塊の存在は心筋梗塞や脳梗塞の原因となるアテローム血栓症及び最近の新型コロナウイルス感染による血栓症と関連することから、血栓性疾患の画期的な臨床診断法、薬理学、治療法への応用展開が期待されます。

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、日本学術振興会(JSPS)の研究拠点形成事業、ホワイトロック財団の支援を受けて実施されました。本研究成果は、2020年5月12日(英国時間)に「eLife」のオンライン版で公開されました。

※詳細は下記ページをご覧下さい。
東京大学大学院理学系研究科・理学部ホームページ プレスリリース詳細

(2020/5/22)

東アジア人集団の2型糖尿病に関わる新たな遺伝子領域を発見

2型糖尿病は血糖値が上がることでさまざまな臓器を傷害し、脳卒中・心筋梗塞・腎不全・がんなど、糖尿病以外の数多くの疾患の発症や進行につながる重大な疾患です。日本国内で1,000万人、世界中で4億人以上が2型糖尿病であると言われています。2型糖尿病のかかりやすさは、遺伝要因と環境要因の両方によって影響されますが、欧米人集団に比べ東アジア人集団における2型糖尿病の遺伝要因の理解は不十分でした。

東京大学大学院医学系研究科の門脇孝特任教授(研究当時)、山内敏正教授、理化学研究所 生命医科学研究センターの堀越桃子チームリーダーらの研究グループは、東アジアなどの国々の研究機関との研究を共催し(the Asian Genetic Epidemiology Network (AGEN) consortium)、40万人規模の東アジア人集団の遺伝情報を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)の大規模メタ解析を行い、2型糖尿病発症のリスクを高める遺伝子領域を新たに61箇所同定しました。

本研究において、2型糖尿病の遺伝要因に筋肉や脂肪といったインスリン感受性に関わる臓器やマイクロRNAが寄与することが示唆されました。また、1つの遺伝子領域にある独立した異なる2つのシグナルが、異なる臓器における、異なる遺伝子の発現調節を介して2型糖尿病発症のリスクを高める可能性が示唆されました。

これらの結果は東アジア人集団における2型糖尿病の遺伝要因の理解を深めるとともに、将来的には糖尿病の病態解明や治療薬開発に応用できる可能性があります。

なお、本研究の2型糖尿病症例数は約8万人であり、世界最大の症例数です。このうち約半数は日本人集団において実施されたGWASが占めており、バイオバンク・ジャパン、東北メディカル・メガバンク機構、多目的コホート研究(JPHC Study)、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)よりご協力をいただきました。

本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のゲノム医療実現推進プラットフォーム事業「先端ゲノム研究開発」(GRIFIN)領域における研究開発課題「糖尿病の遺伝・環境因子の包括的解析から日本発次世代型精密医療を実現するプロジェクト」(研究開発代表者:門脇孝)の一環で行われました。その成果は日本時間 2020年5月7日(ロンドン時間 2020年5月6日)に英国科学雑誌 Natureオンライン版に掲載されました。

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(2020/5/22)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療法の早期確立を目指す
~ 「肺炎を有するCOVID-19 患者に対するファビピラビルとナファモスタットメシル酸塩の併用療法」に関する多施設共同単盲検ランダム化比較試験(特定臨床研究)の開始 ~

東京大学医学部附属病院では、肺炎を発症している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性患者を対象に、ファビピラビル(アビガン®錠200mg)とナファモスタットメシル酸塩(注射用フサン®50)の併用療法の特定臨床研究を開始しました。本試験は東京大学医学部附属病院のほか、多施設共同で実施いたします。

※詳細は東大病院HP掲載の リリース文書[PDF]をご覧ください。

(2020/5/8)

日本人の胃がんリスクとなる遺伝的背景と生活習慣
  ~ 人種横断的大規模胃がんゲノム解析の成果 ~

胃がんは、日本をはじめ東アジアで最も頻度の高い悪性腫瘍です。がんゲノムシーケンスの進歩によって、胃がんのドライバーとなる体細胞ゲノム変異についてはその全体像が明らかになってきました。胃がん発生リスクについてはピロリ菌がよく知られていますが、ヒト側の遺伝的素因やそれらと環境因子との関わりについて、その全体像は明らかになっていませんでした。

今回、東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス部門の鈴木章浩 指導委託大学院生(研究当時)、油谷浩幸 教授および大学院医学系研究科 衛生学分野の加藤洋人 准教授、石川俊平 教授らの研究グループは、人体病理学・病理診断学分野の牛久哲男 教授、深山正久 教授(研究当時)、消化管外科学の瀬戸泰之 教授、横浜市立大学 外科治療学の利野靖 診療教授、肝胆膵消化器病学の中島淳 教授、国立がん研究センターの柴田龍弘 がんゲノミクス分野長らのグループとともに、319人のアジア人、212人の非アジア人を併せた531症例の胃がん患者を対象とした大規模なゲノム解析を行い、体細胞ゲノム変異のパターン、胚細胞バリアント、生活習慣およびそれらの関連性について調べました。その結果、アルコールによって引き起こされるとされる特徴的なゲノム変異のパターン(変異シグネチャ)が見られる症例がアジア人に特異的に認められ、日本人の胃がんに限った解析では、6.6%(16/243)に認められました。それらの胃がん症例は、東アジア人に特有のALDH2遺伝子多型(アルコールの分解が出来ない遺伝子型)を持ち、飲酒および喫煙の両者が重なった時に相乗的に変異の数が増えることを特徴としていました。また胃がんの素因となる胚細胞レアバリアントを探索したところ、624個のがん関連遺伝子のなかでE-カドへリン遺伝子上のバリアント密度が最も高いことが分かりました。これらのレアバリアントを保有する患者の胃がんは大部分がびまん型胃がんであり、びまん型胃がん症例のうち13.3%(14/105)を占めていました。

東アジア地域特有のALDH2遺伝子多型と飲酒・喫煙習慣との組み合わせ、およびE-カドへリンの病的胚細胞バリアントの集合が、日本における胃がんの原因の一部として強く示唆されることが明らかになりました。特にびまん型胃がん症例の21.0%(22/105)は上記のどちらかの寄与があるという結果でした。今回の成果は、胃がんのハイリスク群を遺伝的素因によって絞り込み、生活習慣の改善や対象を絞った効果的なスクリーニングによって予防介入するための重要な知見と考えられます。本研究は、AMEDの次世代がん医療創生研究事業および革新的がん医療実用化研究事業、科学研究補助金の支援を受けて行われました。本研究成果は米科学誌『Science Advances』で2020年5月7日に公開されます。

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(2020/5/8)

体に優しいオメガ3脂肪酸を動かし肥満を抑える新しい脂質代謝酵素の発見

東京大学大学院医学系研究科 村上 誠 教授らは、脂質を代謝する酵素の生理的役割に関する研究から、白色脂肪組織に常在するM2マクロファージから分泌される脂質分解酵素がオメガ3(ω3)脂肪酸を作り出し、脂肪の燃焼を促進して肥満の進行を遅らせることを発見しました。この成果は、肥満や糖尿病などの生活習慣病の新規予防・治療法の開発につながると期待されます。

この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:清水 孝雄)における研究開発課題「PLA2メタボロームによる疾患脂質代謝マップの創成とその医療展開に向けての基盤構築」(研究開発代表者:村上誠)、革新的先端研究開発支援事業ステップタイプ(FORCE)、ならびに日本学術振興会科研費(新学術領域研究、基盤研究)の一環として行われました。この研究は、2020年5月5日(米国東部時間午前11 時)に米国科学誌『Cell Reports(セル・リポーツ)』にオンライン掲載されました。

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(2020/5/8)

精神保健学分野教授の川上憲人先生が紫綬褒章を受章

精神保健学分野教授の川上憲人先生が紫綬褒章を受章しました。

2020年春の紫綬褒章受賞者19名が発表となり、当学の川上先生が受章されました。川上先生は、永年にわたって公衆衛生学・精神保健学の教育、研究に従事され、地域住民および労働者を対象とした多数の研究に基づき、わが国における心の健康問題の実態解明と対策立案に貢献されたことが評価されました。また、地域と職場における心の健康問題の研究者、実務家の育成にも貢献されました。

特筆すべきこととして、世界精神保健調査日本調査によって地域住民の心の健康の実態解明とその対策立案に大きく貢献されたこと、および労働者の心の健康対策を推進するためのツールを数多く開発し平成27年に国の施策として導入されたストレスチェック制度にも大きく貢献されたことが挙げられます。新型肺炎による公衆衛生の危機に直面するさなか、公衆衛生学研究者・実践家にとって勇気づけられるニュースとなりました。

(2020/5/7)

3次元組織学による全臓器・全身の観察技術を確立
  ~ 組織の物理化学的性質に基づき理想的なプロトコルを設計 ~

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター合成生物学研究チームの上田泰己チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科システムズ薬理学教室教授)、洲崎悦生客員研究員(同准教授)らの共同研究グループは、組織透明化技術と組み合わせて利用できる全臓器・全身スケールの3次元組織染色・観察技術「CUBIC-HistoVIsion(CUBIC-HV)」を確立しました。

本研究成果は、現時点において世界で最も高効率な3次元組織染色手法を提供するもので、臓器・全身スケールでの生体システムの理解や、臨床病理学検査の3次元化による診断確度・客観性の大幅な向上に寄与すると期待できます。

今回、共同研究グループは、経験則による組織染色プロトコル開発の限界を突破するため、生体組織の物理化学的物性を詳細に調べた結果、生体組織(特に透明化処理を行なった組織)が、主にタンパク質によって構成される「電解質ゲル」の一種であることを再発見しました。この物性から組織を模倣できる人工ゲルを選別し、組織3次元染色の必須条件を探索するスクリーニング系を構築しました。さらに収集した必須条件を組み合わせることで、理想的な3次元染色プロトコルをボトムアップにデザインすることに成功しました。開発したCUBIC-HV法(CUBICに基づく3次元組織学・3次元イメージング)は、CUBIC透明化法、高速ライトシート顕微鏡との組み合わせにより、マウスの全脳、マーモセットの半脳、ヒト脳組織ブロック等を均一に染色し、3次元的な全臓器組織観察を可能にしました。

本研究は、オンライン科学雑誌『Nature Communications』(4月27日付:日本時間4月27日)に掲載されます。

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(2020/4/27)

細胞画像のわずかな特徴の違いの見分け方を教えてくれるAIの開発に成功
~ 細胞周期によって変動する特徴量をディープラーニングによって顕微鏡画像から抽出することに成功 ~

東京大学大学院医学系研究科の高尾大輔 助教と東京大学薬学部の長尾幸子 学部生(研究当時)の研究チームは、国立遺伝学研究所の坂本美佳 特任研究員、東京大学大学院薬学系研究科の知念拓実 助教、東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)の岡田康志 主任研究者(東京大学大学院医学系研究科・大学院理学系研究科 教授、理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)チームリーダー)らと共同で、ディープラーニングと定量解析により細胞画像から未知の情報を抽出する技術の開発に成功しました。大量の細胞画像から一つ一つの細胞を自動的に切り出し、ディープラーニングにより細胞周期などを判定するAIツールと、その情報をさらに解析することで、細胞周期によって変動する核の形状やゴルジ体の配置パターンなどを抽出する技術を確立しました。これは、人間の目ではとらえにくいわずかな細胞内の変動をAIが発見し、研究者に教えてくれる技術です。

細胞周期によって細胞内の組成や構造は大きく変わることが予想されますが、実際に何がどのように変動するのかを顕微鏡画像から網羅的かつ定量的に解析するためのアプローチは限られていました。具体的に細胞内の何に着目すればいいのかを知るために、今回、共同研究チームはディープラーニングを使って、細胞周期によって変動するパラメータを画像の中から見つける技術を開発しました。これまで研究者が「なんとなく」「経験的に」とらえていた現象や、そもそも見過ごされていた情報を、AIの手助けにより発掘・定量化しようという試みです。その結果、本研究で開発したAIは、DNAやゴルジ体の染色画像の中から、細胞周期によってわずかに変動する特徴を発見しました。この情報を使って共同研究チームが画像を詳しく解析したところ、核やゴルジ体の面積などの特定のパラメータを測定することで画像から細胞周期を分類できることが分かりました。すなわち「画像のどこに着目すれば目的の情報が得られるのかAIが教えてくれる」という研究サポートツールの開発に成功しました。

本研究で開発したツールは汎用性が高く、他の多くの研究への応用を想定しています。細胞周期以外の判定はもちろん、細胞画像以外の画像データへの応用も可能なため、細胞・発生生物学から医療画像の解析など、基礎から応用まで幅広い分野の研究をサポートする強力なツールとなることが期待されます。本研究の成果は、2020年4月22日に米国細胞生物学会誌Molecular Biology of the Cellに掲載されます。

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(2020/4/27)