広報・プレスリリース最新情報
変形性膝関節症の病型を規定する滑膜線維芽細胞集団を同定
東京大学医学部附属病院整形外科・脊椎外科の宮原潤也助教、田中栄教授、齋藤琢准教授らのグループは、変形性膝関節症に「滑膜炎と疼痛が強い病型」と「滑膜線維化が強く疼痛が軽い病型」の2つの病型があることを見出し、後者の滑膜組織に特徴的な細胞集団として、血管周囲に多く存在するCD34hiCD70hi線維芽細胞を同定しました。さらに、CD70というタンパク質を強制的に発現させた線維芽細胞がT細胞の増殖を促進すること、抗CD70抗体の投与が滑膜組織中の制御性T細胞の減少と樹状細胞・マクロファージのIL1β産生の増加を介して、滑膜炎の増悪と軟骨組織の異化の進行を来すことを細胞培養、組織培養の実験系で証明しました。変形性膝関節症の滑膜炎を制御する新規線維芽細胞集団を同定した本研究は、滑膜をターゲットとした変形性膝関節症の新たな治療法の開発に繋がる成果と考えられます。
本研究成果は、日本時間2025年1月24日に米国科学誌JCI insight(オンライン版)にて発表されました。
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(2025/1/24)
心電図、胸部X線、BNPを統合した肺高血圧症診断支援AIモデルを開発
~ 12万件以上の症例を用いた深層学習技術で診断精度を大幅向上 ~
東京大学医学部附属病院循環器内科の研究チーム(岸川理紗特任臨床医、小寺聡特任講師(病院)、武田憲彦教授)は、肺高血圧症(PH)の早期診断を支援するため、深層学習を用いたマルチモダリティAIモデルを開発しました。このモデルは、心電図(ECG)、胸部X線(CXR)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の3つの検査データを統合し、それぞれの特徴を抽出・解析し、統合された予測値を基にPHを診断します。研究には7施設から収集した約12万件以上のデータが活用され、モデルの外部検証では受信者動作特性曲線下面積(AUC)が0.872と高い性能を示しました。また、循環器専門医による評価では、AIモデルを使用した場合の正答率が65.0%から74.0%に向上し、統計的に有意な改善が確認されました(P < 0.01)。本研究の新規性は、複数のモダリティを統合し、深層学習を活用することで、PHの早期診断を可能にした点にあります。この成果により、患者の予後改善や医療現場での診療効率向上が期待されます。
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(2025/1/16)
東京大学と公益社団法人日本看護協会による社会連携講座「ナーシングデータサイエンス講座」を開設
2025年1月、国立大学法人東京大学(本部:東京都文京区、総長:藤井輝夫、以下「東京大学」)大学院医学系研究科(研究科長:南學正臣)と公益社団法人日本看護協会(会長:高橋弘枝)は、2025年1月1日に社会連携講座「ナーシングデータサイエンス講座」を開設しました。本講座では、日本看護協会の支援のもと、看護における科学的根拠に基づく政策形成(Evidence Based Policy Making,EBPM)の推進に寄与する研究に恒常的に取り組みます。
本講座の活動を通じて、看護の EBPM 推進における課題の解決に向けて、既存のリアルワールドデータを用いた研究を推進するとともに、看護領域に必要なデータセットの獲得・突合および加工・蓄積および分析、並びに看護の質評価をはじめ政策形成に資するデータを収集するための新たなシステムの開発を行います。これらを通してデータベースを活用した看護に関連するエビデンス創出に取り組み、看護におけるEBPMを推進するとともに、ナーシングデータサイエンスの人材育成に努めてまいります。
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(2025/1/10)
内在性ヘルペスウイルス6Bは自己免疫疾患のリスク因子である
~ ウイルスと免疫疾患やCOVID-19の関連を解析 ~
大阪大学大学院医学系研究科の佐々暢亜助教(遺伝統計学/耳鼻咽喉科・頭頸部外科学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム 客員研究員/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 客員研究員)、岡田随象教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、理化学研究所生命医科学研究センター免疫器官形成研究チームのニコラス・パリッシュ客員主管研究員、小嶋将平基礎科学特別研究員、小出りえ研究員らの共同研究グループは、SLEなど5つの自己免疫疾患およびCOVID-19と、内在性HHV-6およびアネロウイルス感染の関連を調べました。
その結果、内在性HHV-6BがSLEの発症や疾患の活性化に大きな影響を及ぼすことを発見しました。また、内在性HHV-6B陽性SLE患者では、特有の免疫応答が引き起こされることを明らかにしました。
本研究成果によって内在性ウイルスやウイルス感染と免疫関連疾患との関連の理解が進み、将来的に、発症予防や層別化医療へ貢献することが期待されます。
この成果は、2025年1月3日19時(日本時間)に米国科学雑誌Nature Geneticsにオンライン掲載されました。
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(2025/1/9)
多機能キメラ核酸によるデングウイルス増殖抑制
~ 将来の感染症医薬開発へ幅広い応用の可能性 ~
東京大学医科学研究所RNA医科学社会連携研究部門の高橋理貴特任准教授(開発当時)、株式会社リボミックの中村義一代表取締役社長(東京大学名誉教授)、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻国際生物医科学講座のMOI MENG LING教授、東京大学医科学研究所附属アジア感染症研究拠点の山本瑞生特任講師、早稲田大学理工学術院の浜田道昭教授らによる研究グループは、DENVの増殖を抑制する新たな核酸分子を開発しました。
DENVは大きく分けて4つの種類(DENV1~4の血清型)が存在します。それに対応するワクチン開発も進んでいる一方で、未だ有効な予防薬、治療薬が無いウイルス感染症として知られています。その課題克服のため、本研究グループでは、全血清型のDENVに対して、DENV膜タンパク質に構造相補性で結合するRNAアプタマーと、DENV由来のRNAに塩基配列相補性で分解に導くsiRNAとを個別に開発しました。加えて、それら核酸分子を1分子として結合させることで、DENVに結合し、DENV感染と共に細胞内に侵入することでウイルス由来のRNAを感染した細胞内で分解する多機能核酸分子「キメラ核酸(siRNA-aptamer複合体)」を開発し、その有効性を疑似的な感染評価系および実際のウイルス感染評価系を用いて評価しました。その結果、我々が開発したキメラ核酸はDENVの増殖を強く抑制できることが分かりました。また、複数存在する血清型に対しても有効であることを示唆する結果も得られています。本分子の開発戦略は、DENV以外のウイルスにも適応できるものであり、幅広いウイルス感染症の予防及び治療分子の迅速な開発に新たな選択肢を提供することが期待できます。
本成果は12月25日、国際学術専門誌「Nucleic Acids Research Molecular Medicine」に掲載されました。
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(2024/12/25)
ユビキチン化を標的としたタンパク質の「質」を改善する膵がん治療
~ 膵がんに対する新たな治療戦略となる可能性 ~
東京大学医学部附属病院 光学医療診療部の能登谷元聡 特任臨床医、消化器内科の岸川孝弘 助教、藤城光弘 教授らによる研究グループは、ユビキチンリガーゼのひとつであるWWP1(WW domain containing E3 ubiquitin protein ligase 1)というタンパク質が膵がんにおいて異常に増加しており、WWP1の発現を阻害すると膵がんの増殖を抑制する効果があることを明らかにしました。
研究グループは、がん抑制遺伝子PTENがWWP1によってユビキチン化されるとその機能が抑制されることに着目し、WWP1の発現を阻害すると、がんの増殖を促進するPI3K-AKT経路が抑制されることを明らかにしました。さらにWWP1の阻害に相加効果を示す薬剤がPI3K-AKT経路の阻害薬であることを発見し、WWP1阻害薬との併用が膵がん治療における新たな治療戦略となる可能性を見出しました。がんにおけるユビキチンリガーゼの発現異常がもたらすタンパク質の機能変化についてはWWP1を含めて未解明な点も多く、難治がんである膵がんに対する新しい側面からの治療法の発展に役立つことが期待されます。
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(2024/12/12)
グアニン四重鎖構造を持つRNAがおたふくかぜウイルスのRNA合成の場を提供する
~ おたふくかぜウイルスの封入体形成機構の理解 ~
東京大学大学院医学系研究科の竹田 誠教授と加藤 大志准教授、熊本大学生命資源研究・支援センターの沖 真弥教授、九州大学生体防御医学研究所の大川 恭行教授、国立感染症研究所の鈴木 忠樹部長らによる研究グループは、おたふくかぜウイルスのRNA合成の場である封入体の形成にグアニン四重鎖構造を持つRNAが重要な役割を持つことを明らかにしました。
RNAウイルスであるおたふくかぜウイルスは、細胞に感染すると封入体と呼ばれる膜のない構造体を形成し、そこでウイルスRNAを合成します。封入体は液-液相分離によって形成される液滴と考えられていて、多くのタンパク質や核酸(RNA)が含まれると考えられます。
そこでPhoto-isolation chemistryによって、おたふくかぜウイルスの封入体に取り込まれる宿主RNAを探索した結果、グアニン四重鎖構造を持つRNAが多く含まれることが明らかになりました。このグアニン四重鎖構造を持つRNAは、液滴形成実験によって液滴内部の分子を濃縮することが示され、効率よくウイルスRNA合成を行う上で重要な役割を果たしていると考えられました。本研究の成果は、封入体の形成メカニズムの一端を明らかにしたものであり、RNAウイルスのRNA合成機構の解明につながることが期待されます。
本研究成果は、日本時間2024年12月7日に米国科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。
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(2024/12/9)
脳自身が生み出す活動と外界からの入力による活動を大脳神経回路が分離する新しいメカニズムを解明
東京大学大学院医学系研究科の大木研一教授(兼:東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)副機構長、兼:Beyond AI 研究推進機構 教授)、同志社大学大学院脳科学研究科の松井鉄平教授(研究当時:東京大学大学院医学系研究科講師)、東京大学大学院医学系研究科の橋本昂之助教、村上知成助教、関西医科大学医学部の上村允人助教(研究当時:東京大学大学院医学系研究科特任助教)らの研究グループは、大脳視覚野が視覚情報と自発活動を分離する新しいメカニズムを発見した。
ヒトをはじめとする生物の脳は外界からの感覚入力が無い場合(例えば何もしていない安静時)でも活発に脳自身が生み出す自発活動を示すことが知られている。自発活動は様々な動物で観察されており、生物の脳の重要な特徴だと考えられている。自発活動が外界からの感覚入力に対する活動と区別できない場合、誤った認識や幻覚につながる可能性もあるが、実際には生物の脳は感覚情報を正確に処理することが出来る。このメカニズムが何なのかは多くの点で未解明である。特に多数の領野が階層的なネットワークを作る哺乳類の大脳皮質視覚野において自発活動がどのように処理されているかは不明であった。そこで本研究では、マウスよりもヒトに近い視覚系を持ち、なおかつ先端技術による神経活動計測が可能な小型霊長類であるマーモセットを用いて、大脳皮質の多数の視覚関連領野で自発活動と視覚応答との関係を詳細に分析した。その結果、大脳皮質視覚野の階層的ネットワークの中で、低次の階層では自発活動と視覚応答のパターンが似ているが、低次の階層から高次の階層にいくほど自発活動のパターンと視覚応答のパターンが徐々に分離していくことが発見された。階層にそって徐々に分離されることから、ネットワークの階層性が自発活動と視覚応答の分離に重要な役割を果たしていることが示唆される。本研究は大脳皮質の新しい情報処理メカニズムを提案するだけでなく、生物の脳が持つ利点を取り込んだ人工知能の開発に寄与する可能性が考えられる。
本研究成果は、2024年12月4日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。
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(2024/12/4)
着床不全が起きる仕組みの一つをマウスを用いて解明
~ 着床過程の解明が示唆する、着床不全の新たな診断・治療戦略の可能性 ~
東京大学医学部附属病院の藍川志津特任研究員、平岡毅大助教(研究当時、現:大阪大学特任助教)、東京大学大学院医学系研究科の大須賀穣教授、廣田泰教授らは、着床期子宮内膜から分泌されるサイトカインであるLeukemia inhibitory factor(LIF)は子宮内膜の上皮と間質で産生され、上皮と間質のそれぞれのLIFが子宮内膜自身に作用し、上皮のLIFが胚接着しやすい環境を整え、間質のLIFがその後の胚生育に働き、着床成立に寄与していることを、マウスモデルの研究で明らかにしました。
不妊症は世界の成人人口の約6人に1人が直面する問題です。少子化が急速に進行している日本では、新生児の10人に1人が体外受精・胚移植を含む生殖補助医療で出生する時代となっています。生殖補助医療の進歩にもかかわらず、良好胚を繰り返し胚移植しても妊娠しない着床不全は不妊治療の最大の課題となっています。本研究成果は、着床不全が起こる仕組みの一つを明らかにしたもので、不妊症の新規診断・治療法の開発につながることが期待されます。
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(2024/11/26)
医薬品の処方選択には患者の重症度、医師患者の信頼関係、アドヒアランスが影響を及ぼす
~ AIとビッグデータによる長期コホート研究 ~
東京大学大学院医学系研究科医療経済政策学講座の田倉智之特任教授(研究当時)らによる研究グループは、ジェネリック医薬品の選択の状況や推移をモニタリングすることで、臨床経済的な長期予後を潜在的に論じられることを明らかにしました。以前の研究開発(ASHROスコア:長期予測モデル)では、AIによる指標などの整理の過程において、ジェネリック医薬品の選択が経済負担のみならず臨床負担の軽減に資することが示唆されていました。そこでこの研究は、機械学習などのAIや大規模なデータベースとともに、最新の医学統計や物理統計なども駆使しつつ、世界で初めてジェネリック医薬品のスイッチ機序の洞察を提供しました。これらの知見は、ジェネリック医薬品の政策的普及が鈍化し始めた場合、医薬品の適切な処方に貢献する可能性があります。したがって、信頼を築きながら重篤な病気を予防することは、臨床上の利益と社会経済的な成果の向上につながる可能性があります。
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(2024/11/25)
憂鬱な月曜日(ブルー・マンデー) 曜日や休日と自殺リスクの関連
東京大学大学院医学系研究科のキム・ユンヒ准教授と橋爪真弘教授らの研究グループは、世界26か国のデータを解析し、曜日や休日により自殺リスクが変動することを明らかにしました。この研究成果は、特定の曜日や休日など自殺リスクが高い時期をメンタルヘルスの専門家が認識することで予防のための支援行動を取りやすくすることが期待されます。本研究の成果は、英国医師会雑誌British Medical Journalに掲載されました。
自殺リスクが曜日や休日によって変動し、世界的に特定の日に自殺リスクが高まることを報告しました。世界26か国740地域のデータ(1971~2019年)を基に、月曜日と元日はリスクが高いことが示され、週末や祝日は地域によって異なることがわかりました。
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(2024/11/22)
細胞外小胞の放出制御因子を網羅的に解析する方法を開発
~ CRISPR gRNAで「バーコード化」した細胞外小胞を活用して ~
東京大学大学院医学系研究科の小嶋良輔准教授、國武厚貴特任研究員(研究当時:東京大学大学院薬学系研究科大学院生)、東京大学大学院薬学系研究科の水野忠快助教、浦野泰照教授(東京大学大学院医学系研究科兼担)らによる研究グループは、小型の細胞外小胞(small Extracellular Vesicles, sEV)の放出を制御する因子を網羅的に解析する新手法、CIBER screening法を開発しました。本研究では、細胞内で遺伝子のノックアウト(KO)に用いるCRIPSR/Cas9システムのガイドRNA(gRNA)を、sEV内に核酸バーコードとして封入する手法を開発し、このバーコード配列を次世代シークエンサーによって一斉解析することで、sEVの放出制御因子の網羅的な探索を実現しました。本手法を用いて、sEVの放出制御因子を多数発見するとともに、これまで不明な点が多かった、異なるsEVの亜集団に特異的な放出制御因子を見出すことにも成功しました。
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(2024/11/20)
新型バイオセンサーの開発プラットフォームを確立
~ さまざまな蛍光寿命バイオセンサーを簡便に設計可能 ~
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター細胞極性統御研究チームの岡田康志チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科教授)、仲崇霞研修生(研究当時)(金沢大学大学院新学術創成研究科ナノ生命科学専攻博士後期課程学生(研究当時))、金沢大学ナノ生命科学研究所の新井敏教授の共同研究チームは、さまざまな蛍光寿命バイオセンサーを生み出すためのプラットフォームを開発しました。
本研究成果は、蛍光寿命が変化する新しいタイプの蛍光バイオセンサーを簡便に作製するプラットフォームとして、広く活用されることが期待されます。
細胞が外界の刺激に反応したり、成熟して新たな機能を獲得したりするとき、細胞内情報伝達に関わる分子や代謝物の濃度が変化します。この変化を蛍光の強さや蛍光色の変化として可視化するツールが、蛍光バイオセンサーです。
今回、共同研究チームは、化学物質の濃度変化を蛍光寿命の変化で捉える「蛍光寿命バイオセンサー」を新たに開発するため、測定したい化学物質と結合すると構造が変化するタンパク質(センサータンパク質)を蛍光タンパク質「mTurquoise2」に挿入する設計手法を確立しました。まずATPとcAMPのそれぞれに対する蛍光寿命バイオセンサーを開発したところ、観察対象の化学物質が存在すると蛍光寿命が変化することが確認され、この現象を利用することで細胞内の濃度変化も観察できました。さらに、クエン酸やグルコースに対する蛍光寿命バイオセンサーも同一の設計により作製でき、さまざまな標的化学物質に応じた最適化も簡単に行えることが実証されました。
本研究は、科学雑誌『Cell Reports Methods』(11月18日付:日本時間11月19日)に掲載されました。
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(2024/11/19)
小児急性リンパ性白血病の標準治療を確立
~ 全国での多施設共同臨床試験を実施 ~
東京大学大学院医学系研究科小児科学の加藤元博教授と、埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科の康勝好科長らが中心となり、日本小児がん研究グループ(JCCG)により実施したALL-B12臨床試験により、これまでの国内外の治療を参考にして改良した治療骨格が、合併症リスクを抑えながら高い生存率を達成できることを示しました。小児のB前駆細胞性の急性リンパ性白血病を対象としたこの臨床試験では、これまでの国内外の臨床試験の結果を参考にして、層別化とそれぞれの治療強度を調整し、5年無イベント生存率85.2%、5年全生存率94.3%と良好な成績を達成しました。全国の1800名以上の患者さんにご協力いただいた大規模な臨床試験により、全国の多数の施設で実施可能な「標準治療」を確立できました。この標準治療を基に、さらなる改善を目指した臨床試験が継続して実施されます。本試験の成果は日本時間11月13日に米国学術雑誌「Journal of Clinical Oncology」に発表されました。
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(2024/11/15)
哺乳類の睡眠・覚醒をリン酸化・脱リン酸化酵素群が制御
~ 分子メカニズム解明で「眠気」などの理解深める ~
JST戦略的創造研究推進事業 ERATOにおいて、東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野の上田 泰己 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 合成生物学研究チーム チームリーダー兼任、久留米大学 特別招聘教授兼任)、王 乙萌 博士課程大学院生と曹 思鈺 博士課程大学院生、大出 晃士 講師らは、哺乳類において、プロテインキナーゼA(PKA)と呼ばれるたんぱく質リン酸化酵素が覚醒の促進を、脱リン酸化酵素であるプロテインホスファターゼ1(PP1)とカルシニューリンが睡眠を促進することを発見しました。
近年、脳の神経細胞に存在するさまざまなたんぱく質のリン酸化と呼ばれる化学修飾の状態が、睡眠と覚醒に応じて動的に変動することが観察されてきました。一方で、睡眠と覚醒の制御に関わるリン酸化を促進するたんぱく質リン酸化酵素と、リン酸化修飾を外すたんぱく質脱リン酸化酵素がどのような酵素群なのかは、十分に解明されていませんでした。
本研究グループは、PKAとたんぱく質脱リン酸化酵素に着目し、網羅的な遺伝子ノックアウトマウスの作製や、ウイルスベクターを用いた機能改変型の酵素の発現誘導実験から、PKAの活性化によって睡眠時間と睡眠圧(眠気)の指標が低下すること、PP1およびカルシニューリンの活性化によって逆に睡眠時間と眠気の指標が増加することを発見しました。これらの覚醒および睡眠の促進活性は、PKA、PP1とカルシニューリンが神経細胞間の情報伝達を担うシナプスで働くことが重要であり、さらに睡眠と覚醒の促進が互いに競合的に働くことで、1日の睡眠時間が調節されている可能性が示されました。
本研究により、複数の酵素の働きで睡眠と覚醒のバランスが調整されていることが明らかになり、睡眠時間や眠気をコントロールする方法を分子レベルで考える上で重要な知見となります。
本研究成果は、2024年11月6日(現地時間)発行の英国科学誌「Nature」に掲載されました。
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(2024/11/7)
岩坪威教授が紫綬褒章を受章
本学医学系研究科の岩坪威教授が2024年秋の紫綬褒章を受章されました。心よりお慶び申し上げます。
岩坪教授はこれまでアルツハイマー病を中心に神経病理学の分野において多くの先駆的かつ重要な成果を挙げ、基礎・臨床の両面において世界の研究を先導してこられました。基礎研究においては、アルツハイマー病脳内に早期から蓄積するアミロイドβ分子種としてAβ42を同定し、Aβ産生酵素の分子機構を解明、またパーキンソン病脳内に蓄積する病因分子αシヌクレインを同定し、疾患特異的なリン酸化修飾を発見するなど、まさにマイルストーンと呼ぶべき実績を重ねてきました。また臨床研究面においては、アルツハイマー病早期段階の自然経過を縦断的に計測・記述する本邦の大規模臨床観察研究J-ADNI (Japanese Alzheimer Disease Neuroimaging Initiative) を開始、のちにレカネマブなどの治療薬の治験に不可欠となる基準データの取得を可能とし、公開したほか、アルツハイマー病発症前のプレクリニカル期における変化を解明し、治験の推進に繋げる治験即応コホートJ-TRCを立ち上げて研究を進めています。
これらの様々な研究成果を糾合し、岩坪教授は、エーザイなどが共同開発し2023年に世界初の臨床実用に至ったアルツハイマー病疾患修飾薬レカネマブについて、その治験結果の解析にあたる国際グループの主要メンバーを務め、結果の公表を主導しました。また、その最適使用推進ガイドライン策定や薬事承認の過程においても重要な役割を果たし、保険収載・実用化を導くなど、アルツハイマー病の根本メカニズムを対象とする治療の実現に突破口を開くご活躍をされました。
以上の卓越した業績により、日本神経学会賞(2004)、メットライフ賞(2008)、米国アルツハイマー病協会ヘンリー・ウィズニィエフスキ記念賞(2010)、米国神経学会ポタムキン賞(2012)、高峰記念第一三共賞(2012)、日本医師会医学賞(2021)、持田記念学術賞(2023)、上原賞(2023)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2024)、ヘルシー・ソサエティ賞(2024)など多数の賞を受賞されてきました。
岩坪教授のこの度の紫綬褒章受章は、長年にわたる上記研究や教育・社会貢献活動の功績が高く評価されたものです。受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後の益々のご健勝・ご活躍を祈念いたします。
(大学院医学系研究科・医学部 桑原知樹)
(2024/11/7)
廣川信隆名誉教授が文化勲章を受章
この度、本学名誉教授の廣川信隆先生が文化勲章を受章されました。廣川信隆先生はわが国の分子細胞生物学の発展に多大な貢献を果たされました。先生は1970年代に米国にて先端的な電子顕微鏡法の開発にたずさわられ、大きな研究成果を挙げられました。
帰国後、キネシン分子モーター(KIFs)と総称される新しい細胞内輸送酵素群の研究分野を他に先駆けて切り拓かれ、学問的な基盤を築かれるとともに、多くの後進を育てられました。1990年代初頭にマウスの全KIF遺伝子を同定され、クライオ電子顕微鏡・X線結晶解析等を用いてモーター作動原理解明に挑まれる一方、数十種類のノックアウトマウスを作成し、共焦点レーザ顕微鏡・超解像顕微鏡等を用いてKIFsの機能の集学的解析を完遂されました。先生のご研究により、細胞の骨組みである微小管の上を貨物列車のようにオルガネラ群の行き交うイメージが定着し、動的な細胞の姿に初めて光が当てられました。KIFsの異常が、神経難病、統合失調症、左右逆位など多くの重篤な疾患の遺伝的要因となることを解明され、この分野のパイオニアとして、幅広い生物学を展開されました。
廣川信隆先生は、東京大学医学部をご卒業後、米国ワシントン大学医学部准教授等を経て、1983年本学医学部解剖学教授にご就任、さらに大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻の教授・特任教授、順天堂大学の特任教授を務められています。
廣川信隆先生のご研究は卓越した国際誌に多数掲載され、高く評価されてこられました。1995年に上原賞、1996年に朝日賞、1999年に日本学士院賞・藤原賞など多くの賞を受賞され、2013年には文化功労者として顕彰されています。また2001~07年には日本解剖学会理事長、2003~07年には本学大学院医学系研究科長・医学部長、2012~18年には国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構理事長など国内外の要職を歴任され、2004年からは日本学士院会員として、わが国の基礎科学の発展に大きく貢献されました。
廣川信隆先生の輝かしいご受章を心からお慶び申し上げますとともに、先生のますますのご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。
(大学院医学系研究科・医学部 田中庸介)
(2024/11/7)
結核菌ゲノムの遺伝的多様性の包括的解析と病原性との関連
東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学分野のWittawin Worakitchanon博士課程学生(当時)、藤本明洋教授らは、結核予防会複十字病院の野内英樹博士、国立感染症研究所の宮原麗子博士、国立国際医療研究センターの徳永勝士プロジェクト長、マヒドン大学のPrasit Palittapongarnpim教授、タイ保健省のSurakameth Mahasirimongkol博士らと共同で、結核菌1,960株の全ゲノムシークエンスデータを解析し、挿入・欠失および一塩基多様体(SNV)の包括的解析を行い、病原性や薬剤耐性に関連する新たな遺伝子を検出しました。
結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる世界的に重要な感染症です。しかし、結核菌の遺伝的多様性の包括的解析は行われていませんでした。この研究では、結核菌1,960株の全ゲノムシークエンスデータを解析し、挿入・欠失および一塩基多様体(SNV)の包括的解析を行いました。その結果、機能喪失変異は細菌の生存に必須な遺伝子に有意に少ないことが分かりました。また、集団遺伝学的な解析により、結核菌のゲノムには弱有害変異が多いことが示唆されました。さらに、病原性に関連する多型を探索したところ、eccB2遺伝子の欠失が患者の予後と有意に関連していました。薬剤耐性に関連する23個の新規遺伝子も検出されました。これらの結果、機能変化が結核菌の病原性に関係する遺伝子についての知見が得られました。結核菌の病原性、薬剤耐性のメカニズムの理解が深まり新たな治療標的分子の発見につながると考えられます。
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(2024/10/29)
表面張力が損傷ミトコンドリアのオートファジーを促進する
~ オートファジーアダプターの相分離によるシート状液滴の意義 ~
東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授らの研究グループは、品質の低下したミトコンドリアを選択的にオートファジー分解するメカニズムであるマイトファジーに重要な新しい仕組みを解明しました。損傷を受けたミトコンドリアは細胞に障害を与えうるので、そのような不良ミトコンドリアはParkinというユビキチンリガーゼによってユビキチン化され、マイトファジーで分解されます。その過程では、オートファジーアダプタータンパク質がユビキチン化されたミトコンドリア上に集積することが知られます。また、一般にアダプタータンパク質はサイトゾルで相分離を起こして液滴を形成する性質がありますが、マイトファジー誘導時にミトコンドリア上に集積したアダプタータンパク質が液滴を形成するかは不明でした。今回の研究により、損傷したミトコンドリア上に集積したアダプタータンパク質(OPTNやNDP52など)がミトコンドリア表面で相分離を起こし、ミトコンドリアを包むシート状の液滴を形成することが明らかになりました。さらに、この液滴の形成を阻害すると、オートファゴソームのもととなるATG9小胞がミトコンドリアへ局在しなくなり、マイトファジーが起きなくなることが観察されました。このことから、アダプタータンパク質がシート状液滴を形成し、それによる表面張力(濡れ効果)によってATG9小胞やオートファゴソーム膜が係留され、マイトファジーが進行することが示唆されました。本研究成果は、膜構造上に形成するシート状液滴が異なるオルガネラ間の接触を仲介するという新しい概念を提唱するものであり、他の細胞内構造にも当てはまることが期待されます。本研究成果は、10月17日に国際科学誌「The EMBO Journal」オンライン版に掲載されました。
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(2024/10/23)
風邪への抗菌薬処方と関連する診療所の特性
東京大学大学院医学系研究科の宮脇敦士特任講師、同医学部医学科の青山龍平(6年生)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介准教授らによる共同研究チームは、診療所における非細菌性の急性呼吸器感染症(いわゆる風邪)に対する抗菌薬処方率に、院長の年齢・診療所の患者数・診療所の医師数(グループ診療 vs. 単独診療)が関連することを明らかにしました。日本全国の診療所における97万人以上の外来受診データの分析の結果です。世界規模で抗菌薬の過剰使用が問題となる中、日本でも抗菌薬の適切な処方に向けた取り組みが進んでいますが、目標を十分に達成できているとは言えません。本研究は、抗菌薬の処方傾向に診療所間でばらつきがあることを示しており、より的を絞った働きかけが有効である可能性を示唆しています。
本研究成果は、2024年10月21日(米国中部夏時間)に米国医師会(American Medical Association)が発行する医学雑誌「JAMA Network Open」にオンライン掲載されました。
※詳細はこちら[PDF]をご覧下さい。
(2024/10/22)
「受精卵のゲノムから将来を予測するサービス」に対する技術的・倫理的問題点を提言
大阪大学大学院医学系研究科の難波真一 招へい教員(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 助教/理化学研究所生命医科学研究センター 客員研究員)、加藤和人 教授(医の倫理と公共政策学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 教授/理化学研究所生命医科学研究センター チームリーダー)らの研究チームは、近年世界各地で提供されている「受精卵の疾患リスク予測と順位付け」について、その精度と信頼性に疑問が残ることを解明し、問題点を提言しました。
体外授精においては複数の卵子を採卵し、1つの受精卵(胚)を選んで子宮内に戻します。通常は胚の質(グレード)等を参考にして胚を選びますが、胚のゲノムから将来の疾患リスクを予測して胚をスコア化することで胚選択を行うサービスが存在し、すでに世界各地で提供されています。
今回、研究グループはバイオバンクの公開データを用いて検証を行い、サービスの精度を測定しました。その結果、疾患リスク予測のAI(計算手法)を変えることによって胚の順位づけが大きく変わってしまうことを示しました。さらに、同じ計算手法を使っていても、疾患リスク予測を繰り返すだけで胚の順位づけが変わりました。研究チームはこれらの結果から、現在の遺伝的予測スコアは胚選択に用いるには信頼性が低く未成熟であるという問題点を提示しています。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Human Behaviour」に10月14日(月)18時(日本時間)に公開されました。
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(2024/10/15)
指定難病 間質性膀胱炎(ハンナ型)のB細胞異常発生メカニズムを解明
~ 浸潤B細胞のクローン性拡大に関与する因子を同定 ~
信州大学学術研究院医学系 泌尿器科学教室・同医学部附属病院・泌尿器科の秋山佳之教授、金沢大学医薬保健研究域医学系・分子細胞病理学の前田大地教授と堀江真史准教授、東京大学医学部附属病院・泌尿器科・男性科の久米春喜教授、田口慧講師、秋田大学大学院医学系研究科・器官病態学の後藤明輝教授らの研究グループは、原因不明で確立された診断方法や治療法のない指定難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)に関するB細胞抗原受容体免疫ゲノム解析を行い、膀胱組織へ浸潤しているB細胞のクローン性拡大が起きていることを世界で初めて明らかにしました。さらに、RNAシークエンスを用いた遺伝子発現分析との統合解析を行い、このB細胞クローン拡大にはAPRILとBAFFという分子が関与している可能性を明らかにしました。これらの分子はB細胞の成熟、生存、増殖、分化に関わっており、既に全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患の治療標的となっています。この研究成果は、間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態解明と治療法、バイオマーカーの確立につながる可能性があり、医学の発展に寄与することが期待されます。
本研究成果は科学誌「The Journal of Pathology」(オンライン版:米国東部夏時間10月3日)に掲載されました。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/10/9)
COX-1とCOX-2が紡ぐ妊娠初期の分子メカニズム
~ マウスモデルにおける着床過程の解明が示唆する新たな治療戦略の可能性 ~
東京大学医学部附属病院の藍川志津特任研究員、松尾光徳助教、東京大学大学院医学系研究科の大須賀穣教授、廣田泰教授らは、着床期子宮内膜の胚との接触面においてプロスタグランジン(PG)産生の主要酵素であるシクロオキシナーゼ(COX-1・COX-2)が異なるタイミングで働いていること、COX-1は子宮内膜への胚の接着、COX-2は子宮内膜の脱落膜化や子宮内膜への胚の進入に必要であることを、マウスモデルの研究で明らかにしました。着床期子宮内膜でのCOXの役割の違いを示したのは世界初です。
不妊症は世界の成人人口の約6人に1人が直面する問題です。生殖補助医療(体外受精・胚移植)の進歩にもかかわらず、良好胚を繰り返し胚移植しても妊娠しない着床不全は不妊治療の最大の課題となっています。本研究成果は、着床不全が起こる仕組みの一つを明らかにしたもので、難治性不妊症である着床不全の新規診断・治療法の開発につながることが期待されます。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/10/9)
ポリジェニックリスクスコア×機械学習で紐解く生活習慣病の遺伝的リスクと予防効果との関係
大阪大学大学院医学系研究科の内藤龍彦 助教(研究当時/現:マウントサイナイ医科大学/ニューヨークゲノムセンター 博士研究員)、岡田随象 教授(遺伝統計学/理化学研究所生命医科学研究センターシステム遺伝学チーム チームリーダー/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授)、京都大学白眉センターの井上浩輔特定准教授(社会疫学)らの研究グループは、機械学習とポリジェニックリスクスコアを用いて、冠動脈疾患、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症の4つの生活習慣病とその主要なリスク因子である喫煙や肥満との関係が、その疾患のポリジェニックリスクスコアによってどのように変化するかを評価しました。その結果、「冠動脈疾患の遺伝的リスク」と「喫煙の改善による疾患予防効果」、および「2型糖尿病の遺伝的リスク」と「肥満の改善による疾患予防効果」にそれぞれ高い正の相関があることが解明されました。一方、他の生活習慣病とリスク因子の関係においては、遺伝的リスクが高い人たちが必ずしもリスク因子の改善による予防効果が高いわけではなく、遺伝的リスクが低くてもリスク因子の改善による高い予防効果が期待される人たちが多く存在する可能性があることも示されました。
本研究成果は、英国科学誌「Communications Medicine」(オンライン)に、9月20日(金)(日本時間)に公開されました。
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(2024/10/4)
アルツハイマー病に対する新薬実用化に伴う医療提供体制など社会的な課題に関する意識調査
アルツハイマー病に対する疾患修飾薬としてレカネマブ、ドナネマブといった新薬が登場し、2023年12月からレカネマブは国内で臨床実用されています。疾患修飾薬の安全・適正な使用のためには多くの事前検査を行なった上で、投与にあたって各種要件を満たした施設・医師によって投与されることが重要です。しかしそのような条件を満たす施設・医師・また治療枠の数は必ずしも十分ではないなど、疾患修飾薬の治療を安全・適正・継続的に国民に提供していくためにはさまざまな課題が想定されます。
それに対する検討・解決の端緒として今回、東京大学大学院医学系研究科・佐藤謙一郎助教、岩坪威教授らのグループは、厚生労働省の令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金「認知症医療の進展に伴う社会的課題の検討のための研究」(研究代表者:新井哲明)、令和5年度老人保健健康増進等事業「認知症の医療提供体制に関する調査研究事業(委員長:粟田主一)」と協同して、非医療者(約2,000人)、また認知症診療に関わる専門医(約1,500人)を対象に2023年11-12月にアンケート調査を実施し、新薬に対する印象、治療対象者を優先順位付する可能性に対する意向、新薬の副作用に関わるAPOE遺伝子の検査への意向などについて、非医療者と専門医との間での受け止め方の共通点や異なる点を明らかにしました。本研究によって今後のアルツハイマー病新薬治療のより安全・適正・公平な提供への議論が促進されることが期待できます。
本研究成果は、2024年10月3日に国際学術誌「Alzheimer’s & Research & Therapy」にオンライン掲載されました。
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(2024/10/3)
我が国独自のナノ粒子性薬剤送達システムを用いた次世代ワクチンの新型コロナウイルスに対する優れたキラーT細胞誘導と感染防御性能を動物モデルで実証
~ 将来の感染症ワクチン開発への幅広い応用の可能性 ~
東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際生物医科学講座のMOI MENG LING教授、京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学の秋吉一成特任教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 腫瘍医学分野の池田裕明教授、愛知県がんセンター(研究所)腫瘍免疫制御TR分野の村岡大輔ユニット長、ユナイテッド・イミュニティ株式会社の原田直純代表取締役会長らによる研究グループは、今回、新型コロナウイルスに対する次世代ワクチンを新たに創製しました。本ワクチンは秋吉教授が発明した多糖ナノ粒子「プルランナノゲル(以下PNG)」を免疫系指向性の薬剤送達システムとして採用し、新型コロナウイルスのスパイク蛋白の断片をワクチン抗原としています。
マウスを用いた新型コロナウイルスの感染試験では、PNGワクチンの事前投与により体内のウイルス量が有意に低下し、ウイルス感染に対して全例が生存しました。これに対しPNGを用いないワクチンでは、3割近くのマウスがウイルス感染で死亡しました。PNGワクチンの優れた感染防御効果は、PNGがリンパ節内の重要な抗原提示細胞であるマクロファージに受容体依存的にワクチン抗原を送達してキラーT細胞に対する抗原提示を促進することで、ウイルス感染に有効に対応できる良質なキラーT細胞を特に誘導するという作用機序に依ります。
以上の成果は、リンパ節内のマクロファージへのワクチン送達により良質なキラーT細胞を積極的に誘導するという新しいワクチン戦略の可能性を示し、またPNGがこれを実現する理想的な薬剤送達システムであることを示しています。我が国独自の本技術は今後、他の病原性ウイルス、特に将来のパンデミックに対する次世代ワクチン技術として応用展開されると期待されます。本技術のmRNAワクチンへの応用研究も鋭意推進されています。
この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業およびワクチン・新規モダリティ研究開発事業の支援を得て行われました。本成果はワクチン学に関する国際学術専門誌「npj Vaccines」に2024年9月18日付で掲載されました。
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(2024/10/1)
シナプスの結びつきの強さが睡眠の量と質を一定に保つ仕組みに関与する
日々の睡眠の量と質を一定に保つ仕組みを調べるため、脳の神経細胞同士の結びつき(シナプス)を増強する分子ツールと、シナプスと脳の活動の関係を予測する数理モデルを開発しました。その結果、前頭葉でシナプスの結びつきが強くなると眠りが始まり、眠るとその結びつきが弱まることが分かりました。
私たちは睡眠不足になると、いつもより長く、そして深い睡眠を取って、全体的な量と質を一定に制御(恒常性を維持)しています。しかし、体がどのように、睡眠時間をモニタリングし、そのような制御をしているのかはよく分かっていませんでした。
これを解明するため、本研究では、神経細胞同士のつながり(シナプス)に着目し、その結合の強さを増強する新たな分子ツール(SYNCit-K)と、シナプス強度と脳の活動の関係性を予測する数理モデル(EINモデル)を開発しました。SYNCit-Kをマウスの前頭葉に適用すると、睡眠が誘導されること、また、シナプス結合の増強を阻害すると、深い睡眠は誘導されないことが分かりました。さらに、増強されたシナプス強度が、その後の睡眠によって元に戻ることが明らかになりました。この結果は、シナプス強度と脳の活動の関係性を予測する数理モデル(EINモデル)の結果と一致しました。このように、前頭葉でシナプス結合が大きくなると睡眠が誘導されるメカニズムが明らかになりました。
シナプス結合の強度が睡眠の恒常性に関与するメカニズムの解明により、睡眠の質を向上させる新たな治療法開発への貢献が期待されます。さらに、SYNCit-KやEINモデルの適用範囲を広げることで、より詳細な脳機能解明や、睡眠の計算論の理解につながると考えられます。
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(2024/9/27)
肥大型心筋症の重症化に関わる遺伝的リスク因子を同定
~ 多様性に富む病態形成の機序解明に網羅的遺伝子解析が有用 ~
東京大学大学院医学系研究科の蛭間貴司(医学博士課程)、同研究科先端循環器医科学講座の井上峻輔特任研究員、野村征太郎特任准教授、小室一成特任教授、同研究科循環器内科学の武田憲彦教授、同大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス&メディシン分野の油谷浩幸シニアリサーチフェロー(東京大学名誉教授)らによる研究グループは、国内多施設の肥大型心筋症患者の遺伝子解析を行い、重症化に関わる新たなリスク因子を同定しました。このことは、これまで病態の中心と考えられてきたサルコメア遺伝子だけでなく、心臓のさまざまな構造や機能に関連する遺伝子を網羅的に解析したことで明らかとなりました。また、肥大型心筋症の多様性に富む病態形成の機序を解明する上で、遺伝的基盤を明らかにすることの重要性が示されました。本研究成果は、肥大型心筋症患者の予後予測に有用であるだけでなく、個別化医療・精密医療の実現につながることが期待されます。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/9/26)
肥満の新しい調節メカニズム
~ 大腸の脂質代謝酵素による腸内細菌叢の変容が全身の代謝を変える ~
東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授、佐藤弘泰助教は、国立研究開発法人医薬基盤研究所(NIBIO)の國澤純副所長、慶應大学薬学部の有田誠教授らとの共同研究により、大腸に発現している脂質代謝酵素であるX型分泌性ホスホリパーゼA2が腸内細菌叢の調節を介して全身の代謝に影響を及ぼすことを世界に先駆けて解明しました。本研究成果は、米国の医学・生物学を扱うセル出版(Cell Press)が発行する学術雑誌『Cell Reports(セルレポーツ)』のオンライン版に2024年9月18日に公開されました。
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(2024/9/25)
糖尿病を遠ざけるキネシン-1分子モーター
~ 血糖調節の新たな細胞内機構 ~
東京大学大学院医学系研究科・順天堂大学大学院医学研究科の研究グループは、糖尿病を予防する新たな分子機構を発見しました。
キネシン-1分子モーターは、血糖恒常性の維持に欠かせないインスリンを産生する膵β細胞に多く発現されています。この膵β細胞においてキネシン-1分子モーターを欠損させたマウスは、血糖上昇時のインスリン分泌能が低下し、高血糖となりました。超解像顕微鏡等を用いた集学的解析により、キネシン-1分子モーターによるインスリン分泌促進機構を世界で初めて解明しました。キネシン-1分子モーターは、小胞体膜上でシャペロン蛋白質の働きを直接制御し、カルシウムチャネル蛋白質を正しく折り畳みます。そしてこのカルシウムチャネルの機能によってインスリン分泌が促進されるという細胞メカニズムを発見した点で新規性があり、この研究成果は今後糖尿病の治療法開発に大きく役立つことが期待されます。
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(2024/9/25)
「コロナ制圧タスクフォース」血漿タンパク質量の個人差に寄与するヒトゲノム配列を大規模に同定
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の脅威に立ち向かうための共同研究グループ「コロナ制圧タスクフォース」では、これまでCOVID-19重症化因子の解明等重要な知見を提示してきました。今回、王青波准教授(東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学/研究当時)、岡田随象教授(大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センターシステム遺伝学チーム)、南宮湖専任講師(慶應義塾大学医学部感染症学教室)を中心とした研究グループは、COVID-19の患者1,405名の検体を用いた血漿中タンパク質の網羅的な解析により、血漿タンパク質量の個人差に寄与するヒトゲノム配列を大規模に同定しました。
本研究では、これまでの先行研究において原因変異として精緻に推定(fine-mapping)され、血漿タンパク質発現を制御する582箇所のヒトゲノム変異を比較し、タンパク質の機能情報を統合的に解析することにより、原因変異においてはミスセンス変異や機能喪失変異である確率が1000倍以上高いことが示されました。また、血液中mRNA発現量との比較や、疾患等の複雑形質との関連の評価、COVID-19重症度との相互作用の解析により、血漿におけるタンパク質発現を決定する多様な要素を明らかにすると共に、mRNA発現のみでは同定できない疾患との関連性が広く存在することが示されました。これらの結果は、ゲノムの個人差による遺伝子発現制御を通じた複雑形質の関連について、より詳細な理解につながると考えられます。
本研究成果は、2024年9月24日(英国時間)に国際科学誌Nature Geneticsオンライン版に掲載されました。コロナ制圧タスクフォースは未来のパンデミックに備える社会の公器として、引き続き活動を続けていきます。
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(2024/9/25)
複雑な細胞小器官の状態を一目で理解する方法を開発
~ 蛍光イメージングと多パラメーター次元削減法を用いたオルガネラランドスケープ解析法 ~
東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授、本田郁子准教授、栗川義峻特任助教らによる研究グループは、多種類の細胞小器官(オルガネラ)の状態を全体像(ランドスケープ)として一目で理解できる新しい方法「オルガネラランドスケープ解析法」を開発しました。
従来の方法では、細胞内で密集し常に変化しているオルガネラを同時に多種類区別して解析し、その複雑な全体像(ランドスケープ)を定量に理解することは困難でした。本研究では、オルガネラを個別の粒子として分離し、多数の指標で同時に分析した多次元情報を二次元平面に次元圧縮することで、多数のオルガネラのランドスケープを一度に解析できるようになりました。この新しい方法によって、オルガネラの相互関係や分布が直感的に理解できるようになります。例えば、小胞体とミトコンドリアの接触部位の検出や、細胞が物質を取り込む過程(エンドサイトーシス)における関連オルガネラの経時的変化の包括的な可視化が可能となりました。
この方法で細胞内のオルガネラの全体像を可視化することにより、未知のオルガネラの発見や、さまざまな生理的・病理的条件下でのオルガネラの相互作用や分布などの変化の評価などへの応用が期待されます。
本研究は、2024年9月18日(水)午前3時(日本時間)に米国科学誌「PLOS Biology」(オンライン)に掲載されました。
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(2024/9/24)
霊長類大脳新皮質へのウイルス注入手術の自動化に成功
~ 50µmの精密さで血管網の隙間を突く ~
東京大学大学院医学系研究科の野村晋ノ介大学院生(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構客員研究員)、寺田晋一郎助教、松崎政紀教授(理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チーム チームリーダー、東京大学大学院理学系研究科教授 兼担)、同志社大学大学院脳科学研究科 正水芳人教授、東京大学大学院医学系研究科 大木研一教授らによる研究グループは、従来用いられてきた脳へ直接ウイルスを多点注入する手法を自動化するシステム「ARViS(Automated Robotic Virus injection System)」を開発しました。
霊長類の脳において、運動、認知、感覚処理といった高次機能に関する広範な神経活動を捉えることは、ヒトの脳機能を理解する上で極めて重要です。しかし、神経活動を計測するセンサー遺伝子を非ヒト霊長類大脳新皮質の広範囲に導入することは熟練した実験者の多大なる労力を必要とするため、これを効率化、自動化するための技術開発が求められていました。今回開発したシステムは、AIによる画像認識技術を用いて脳表面の血管を検出し、ロボット制御によって注射器を正確に挿入することを可能にしています。マウスでの実証実験では、出血率0.1%、誤差50 µm以下という安全で高精度な介入を実現しました。この技術を霊長類コモンマーモセットに適用し、大脳新皮質7 × 14 mm²の広域にカルシウムセンサーを均一に発現させ、複数の脳領域をまたいだ神経ダイナミクスを計測することに成功しました。ARViSによって、非ヒト霊長類の大脳新皮質広域への遺伝子導入が効率的に行えることが証明され、今後の神経科学研究や医療用ロボット操作の自動化に大きく貢献することが期待されます。
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(2024/9/10)
起立性調節障害の子どもを対象とした「子ども睡眠検診」プロジェクトを開始
~ 起立性調節障害の子どもの睡眠実態調査への協力医療機関を募集 ~
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター合成生物学研究チームの上田泰己チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室教授)、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室の岸哲史特任講師、昭和大学医学部小児科学講座の加藤光広教授、同大学保健管理センターの田中大介教授らは、起立性調節障害の子ども(小中高生)を対象として、ウエアラブルデバイスを用いた睡眠測定を実施し、起立性調節障害の子どもの睡眠状態の把握と、睡眠問題の改善の糸口発見を目指す「子ども睡眠検診」プロジェクト(起立性調節障害の睡眠実態調査)を実施します。この度、9月3日「秋の睡眠の日」に合わせて、プロジェクトにご参加・ご協力をいただける医療機関(医師)の募集を開始します。同時に、プロジェクトの持続的推進への支援企業・団体を募集します。プロジェクト開始に伴い、11月10日(日)にキックオフシンポジウムをオンライン開催します。
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(2024/9/3)
スマートフォンを使ったストレスマネジメントプログラムによって看護師の精神健康が改善
~ 新型コロナウイルス感染症のパンデミック下におけるベトナムおよびタイの病院看護師で効果を確認 ~
東京大学大学院医学系研究科の川上憲人特任教授と、北里大学医学部の渡辺和広講師らによる研究グループは、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(COVID-19パンデミック)において、スマートフォンによる専門家のサポートなしのストレスマネジメントプログラムが病院看護師の精神健康の改善に効果があることをベトナムおよびタイで明らかにしました。
COVID-19パンデミックでは看護師の精神健康が悪化しました。発展途上国では精神保健の専門家が限られているため、専門家からのアドバイスなどのサポートなしで、看護師の精神健康を改善する方法が必要です。本研究では、スマートフォンを用いた、専門家のサポートなしでのストレスマネジメントの自習プログラムによって、COVID-19パンデミック下において看護師の精神健康の改善に効果があったことを世界ではじめて報告しました。
研究成果は今後の感染症パンデミックにおいて看護師の精神健康の保持・増進に役立つと期待されます。
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(2024/9/2)
小児白血病の新しいゲノム解析法
~ 速く柔軟にゲノムの構造を読む ~
国立大学法人東京大学大学院医学系研究科小児医学講座の加登翔太(医学博士課程)、加藤元博教授と国立研究開発法人国立がん研究センター研究所ゲノム解析基盤開発分野白石友一分野長らによる研究グループは、ロングリードシークエンサーの1種であるナノポアシークエンサーを用いたアダプティブサンプリングという新しいゲノム解析手法を応用して、小児白血病の様々なゲノム異常を迅速かつ網羅的に検出できることを示しました。
本研究グループが構築したアダプティブサンプリングの解析パイプラインにより、小児白血病のゲノム異常、特に小児白血病の発生に重要な構造異常やコピー数異常を迅速かつ網羅的に検出できるため、本解析手法を診療に実装することでより迅速かつ有用な小児白血病のゲノム解析を実現できる可能性があります。また、本解析手法は小児白血病以外にも様々な疾患のゲノム解析に応用できると考えられるため、本研究成果がゲノム医療のさらなる進歩に寄与することが期待されます。
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(2024/8/29)
霊長類での感覚運動学習を可能とする大脳皮質運動野の動的活動変化を解明
東京大学大学院医学系研究科細胞分子生理学分野の蝦名鉄平講師と松崎政紀教授(理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チーム チームリーダー、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授兼担)、自然科学研究機構生理学研究所の小林憲太准教授、東京大学大学院医学系研究科統合生理学分野の大木研一教授、理化学研究所脳神経科学研究センター高次脳機能分子解析チームの山森哲雄チームリーダー(研究当時、現 触知覚生理学研究チーム 客員主管研究員)、理化学研究所脳神経科学研究センター触知覚生理学研究チームの村山正宜チームリーダーらによる研究グループは、小型霊長類コモンマーモセットの大脳皮質運動野の神経活動を長期的に高い空間解像度でイメージングする方法を確立することで、新規の感覚運動学習によって高次の運動野である背側運動前野で大きな運動情報表現の変化が生じていること、その一方で低次の運動野である一次運動野での表現は比較的安定に保たれていることを明らかにしました。
本研究の結果は、霊長類脳における感覚運動連合学習のメカニズム解明へつながり、これらの知見を基にした脳型人工知能の開発が期待されます。また、今回確立したイメージング技術によって、疾患モデルマーモセットを対象とした同様の計測を実施することで病態脳における神経ネットワーク変容の理解が進み、神経疾患に対する新たな治療方法の開発が期待できます。
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(2024/8/27)
がんの進展を骨膜が止める
~ がんの進行を抑える新規治療の開発に道 ~
東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座の塚崎 雅之 特任准教授と、免疫学講座の高柳 広 教授らによる研究グループは、がん細胞の骨への近接に対し骨膜の細胞がプロテアーゼ阻害因子Timp1を産生することでコラーゲンの防御壁を形成し、物理的に腫瘍の骨への浸潤を阻害することを見出し、非免疫系の細胞による全く新しい抗がん機構とその重要性を世界で初めて明らかにしました。この研究成果は今後、がんの進行を抑える新しい治療戦略の開発につながることが期待されます。本成果は、2024年8月21日に英国科学誌 Natureに掲載されました。
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(2024/8/22)
暑熱関連死亡リスクにおける湿度の影響の地域差
~ 日本では蒸し暑さが死亡リスクに大きな影響を与える傾向がある ~
東京大学大学院工学系研究科の沖大幹教授と同大学院医学系研究科の橋爪真弘教授、郭強(GUO Qiang、ゴー・チャン)特任研究員らの研究グループは、湿熱環境での健康影響を調査する世界最大規模の研究を実施しました。
本研究では、様々な湿熱指数と、異なる気候条件下における各都市の日々の死亡率との関連を評価しました。この研究成果は、世界各国の熱中症や高温警戒情報の精度向上に役立つことが期待されます。本研究の成果は、PNAS Nexusに掲載されました。
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(2024/8/20)
心電図解析に画期的なAI技術を導入、多施設データで高精度を実現
~ 多施設データを用いたMAE手法でECG解析の精度を大幅向上 ~
東京大学大学院医学系研究科の澤野晋之介(医学博士課程:研究当時)、同大学医学部附属病院循環器内科の小寺聡特任講師(病院)、同大学大学院医学系研究科先端循環器医科学講座の小室一成特任教授と協力機関の研究チームは、心電図(ECG)解析における画期的な人工知能(AI)技術を開発しました。この技術は、最新の自己教師あり学習手法であるマスクドオートエンコーダー(MAE)を採用し、多施設から収集された約23万例のデータを活用して高精度な解析を実現しています。今回の研究では、MAEを用いてマスクされたECGデータを再構築し、ビジョントランスフォーマー(ViT)モデルを事前学習しました。この手法により、限られたECGデータを用いても非常に高い精度で我が国で最も問題になっている心不全の診断に役立つ心機能の低下を検出することが可能となりました。7つの医療機関からのデータを活用した外部検証コホートでは、受信者動作特性曲線下面積(AUC)が0.962という高い性能を示しました。この成果は、医療分野におけるAI技術の実用化に向けた大きな一歩となります。
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(2024/8/14)
脳の異常興奮を引き起こすグリア物質の発見
山梨大学 大学院総合研究部 医学域(医学部薬理学講座及び山梨GLIAセンター)の小泉修一教授及び繁冨英治教授の研究チームは、脳の異常興奮を引き起こすグリア物質を発見しました。本研究は繁冨英治教授と鈴木秀明氏(研究当時、山梨大学医学科学生)を中心として実験を実施しました。また、本研究には九州大学 大学院薬学研究院 津田誠教授、山梨大学 大学院総合研究部 医学域 木内博之教授、慶應義塾大学 医学部 先端医科学研究所 脳科学研究部門 田中謙二教授、東京大学 大学院医学系研究科 尾藤晴彦教授らが協力しました。
さまざまな脳の疾患で、神経細胞が過剰興奮することにより、神経細胞の異常・脱落・変性などが起こることが知られています。これらの変化を引き起こす原因の一つとしてグリア細胞の役割が注目を集めています。この度、脳の異常興奮(神経過興奮)を引き起こすグリア物質として「IGFBP2」を見出しました。
アルツハイマー病、てんかん、脳卒中などのさまざまな脳疾患において、グリア細胞の一種「アストロサイト」は共通してP2Y1受容体を発現上昇させて「疾患関連アストロサイト」となります。しかし、P2Y1受容体を高発現するアストロサイト(疾患関連アストロサイト)がどのようにこれらの脳疾患と関与しているのかについては殆どわかっていませんでした。今回の研究ではP2Y1受容体を強制的に高発現させた人工的な疾患関連アストロサイトを有するマウスを作成し、1) 疾患関連アストロサイトが産生・分泌する新規グリア物質IGFBP2を見出し、2) これにより神経過興奮が起こることを見出しました。更に、実際のてんかんや脳梗塞などの複数の脳疾患モデルにおいて、IGFBP2が疾患関連アストロサイトで高発現していることを見出しました。本研究成果は日本時間2024年8月8日のNature Communications誌(オンライン版)に掲載されました。
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(2024/8/8)
日本における70年間の職業上の身体活動強度の変遷
~ 1960年代から1割以上の平均活動強度の低下が明らかに ~
東京大学大学院医学系研究科の鎌田真光講師らは、日本における70年間(1953~2022年)の職業上の身体活動強度の変遷を明らかにしました。
本研究では、1953年から2022年までの労働力調査データを用い、職業ごとの身体活動強度のデータと組み合わせることで、日本全体で職業上の身体活動強度がどのように変化してきたか分析しました。その結果、過去70年間で、強度の高い職業から低強度・座業中心の職業への転換が進み、身体活動強度の平均値は一貫して低下していることが分かりました。この研究は日本における職業上の身体活動の長期推移を推計した初めての研究成果であり、今後の健康政策や働き方を考える上での基礎資料として役立つことが期待されます。
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(2024/8/8)
1細胞オミクスデータでX染色体不活化からの逃避を定量するソフトウェアを新開発
~ 性差が生じるメカニズムの解明へ ~
大阪大学大学院医学系研究科の友藤嘉彦 招へい教員(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 助教/理化学研究所生命医科学研究センター 客員研究員)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 教授/理化学研究所生命医科学研究センター チームリーダー)らの研究チームは、1細胞RNA-seqデータを用いて、X染色体不活化からの逃避を定量するソフトウェアsingle-cell Level inactivated X chromosome mapping (scLinaX)を開発・実装しました。X染色体不活化からの逃避は遺伝子発現の性差を生じさせる機序の一つであり、疾患や生命現象の性差の原因になっていると考えられています。研究グループはさらに、このソフトウェアを用いて、scLinaXを大規模なscRNA-seqデータセットや1細胞マルチオミクスデータセットに適用することで、X染色体不活化からの逃避がリンパ球において特に強いことを示しました。
scLinaXは、一般的な1細胞オミクスデータに幅広く適用可能なソフトウェアであり、統計解析ソフトウェアR上で使用可能なRパッケージとして公開されています(https://github.com/ytomofuji/scLinaX)。scLinaXは遺伝子発現や形質、疾患の性差の解明に資する基盤的手法となることが期待されます。
本研究成果は、2024年7月31日(水)午前0時(日本時間)に米国科学誌「Cell Genomics」(オンライン)に掲載されました。
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(2024/7/31)
うつの自覚症状と他覚的評価のかい離に関わる脳回路を発見
~ 自覚・他覚の優位性と脳内ネットワークとが関連 ~
東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)の岡田直大特任准教授、同大学大学院医学系研究科精神医学分野/医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授(WPI-IRCN 主任研究者)、同大学医学部附属病院精神神経科の川上慎太郎助教(研究当時)らの研究グループは、気分障害において、うつの自覚症状が優位な群(以下、「自覚優位群」)では他覚的評価が優位な群(以下「他覚優位群」)と比べて、前頭極-楔前部間の機能的接続が大きいことを明らかにしました。本研究では世界で初めて、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging, fMRI)を用いて、うつの自覚症状と他覚的評価のかい離に関わる脳回路を同定しました。先行研究と比較して、空間的解像度の高いfMRIを用いて全脳解析を実施した点において新規性があり、この研究成果は今後、気分障害の診断や治療方針決定の一助となる可能性が期待されます。
なお本研究の成果は、2024年7月25日(木)(英国時間)に、英国科学誌「Cerebral Cortex」に掲載されました。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/7/25)
徹夜後に長く深く眠る仕組みを解明
~ 大脳皮質の抑制性神経が眠気の強弱に応じて睡眠を誘導する ~
JST戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野の上田 泰己 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 合成生物学研究チーム チームリーダー兼任)、昆 一弘 研究員(研究当時、現 Johns Hopkins University 博士研究員)らは、長時間の覚醒後に生じる長く深い睡眠(リバウンド睡眠)に大脳皮質の主要な抑制性神経であるパルブアルブミン(PV)発現神経の活動の適切な調節が重要であることを解明しました。
徹夜などで睡眠不足に陥ると強い眠気を感じ、その後の睡眠は従来よりも長く深くなる経験を誰しもが一度はしたことがあるでしょう。これは脳が覚醒していた履歴を記録し、その履歴に応じて必要な睡眠を補償する仕組み(睡眠恒常性)があることを示しています。しかし、脳内で睡眠恒常性がどのように実現されているのかはよく分かっていませんでした。
本研究グループは、マウスを実験的に睡眠不足にすることで、眠気が高まると大脳皮質のPV発現神経が活性化され、リバウンド睡眠が起きることを明らかにしました。さらに、たんぱく質リン酸化酵素であるCaMKⅡ(カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼⅡ)の活性化が、眠気に応じてPV発現神経を活性化させることでリバウンド睡眠を引き起こすことを解明しました。
本研究により、睡眠科学の大きな謎の1つである睡眠恒常性の分子・神経メカニズムの一端が明らかになりました。この結果から、眠気を定量的に把握しながら適切にコントロールする手法の開発へとつながることが期待されます。
本研究成果は、2024年7月18日(英国時間)発行の英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。
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(2024/7/22)
AIで貧血を予測する
~ 機械・深層学習によるヘモグロビン値推定モデルの構築 ~
- スマートフォンで撮影した眼瞼結膜写真を人工知能(AI)に学習させ、非侵襲的にヘモグロビン値を予測できる機械学習・深層学習モデルを構築しました。
- Grad-CAMという可視化手法を用いることで、深層学習モデルにおいて特に眼瞼結膜の下半分の領域に注目することが、高精度にヘモグロビン値を予測する上で重要であることを明らかにしました。
- さらに精度のよいモデルを構築することで臨床に応用できる可能性があります。スマートフォンで撮影した写真をもとにAIモデルを開発したことから、誰でもどこでも利用可能なアプリに応用できると考えられ、医療アクセスの乏しい地域や、鉄欠乏性貧血をきたしやすい小児・妊婦などでの簡便な貧血スクリーニングへの活用が期待されます。
東京大学(所在地:東京都文京区、総長:藤井輝夫)大学院医学系研究科小児医学講座の加登翔太(医学博士課程)、加藤元博 教授らの研究グループは、エルピクセル株式会社(所在地:東京都千代田区、代表取締役:鎌田富久)の茶木慧太、髙木優介、河合宏紀との共同研究により、スマートフォンで撮影した眼瞼結膜写真からヘモグロビン値(血液の中に含まれるヘモグロビンの濃度)を予測する機械学習・深層学習モデルを構築しました。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/7/19)
新生児のうんち(初回胎便)のタンパク質組成を解明
~ 性別、在胎週数、疾患の有無で異なる ~
東京大学医学部附属病院 小児科 設楽佳彦助教、小児外科 渡辺栄一郎医師(群馬県立小児医療センター 一般外科 部長)、かずさDNA研究所 応用プロテオミクスグループ 川島祐介グループ長、紺野亮特任研究員、千葉大学国際高等研究基幹 吉原正仁准教授らの研究グループは、早産児を含めた新生児が排出する初回胎便に含まれるタンパク質組成を明らかにしました。
これまで、新生児の胎便に含まれるタンパク質組成は知られていませんでしたが、本研究グループの渡辺・川島が独自に構築した便のプロテオーム解析から、初回排泄された胎便中には、少なくとも5,370種類のヒト由来となるタンパク質の一部または全体が含まれていることを世界で初めて確認しました。
胎便中のタンパク質組成においては、性別、在胎週数、先天性の消化管疾患などの先天性疾患の有無、母体状況による違いを認めました。さらに、胎便タンパク質から在胎週数を予測するモデルを構築し解析した結果から、先天性の消化管疾患や心疾患のある新生児は、消化管が未熟であるという可能性が考えられました。本研究で見出された侵襲なく採取できる胎便を用いる方法は、新生児に負担なく新生児の消化管の状態を評価できる新しい手法になることが期待されます。
なお、本研究成果は2024年7月17日(日本時間)、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
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(2024/7/18)
不育症(習慣流産)の発症に関わる遺伝子の発見
~ 生殖免疫学と細胞接着分子の関与が明らかに ~
東京大学大学院医学系研究科遺伝情報学の曽根原究人助教(大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学 招へい教員)、岡田随象教授(大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学 教授、理化学研究所生命医科学研究センターチームリーダー)と、名古屋市立大学大学院医学研究科産科婦人科学の矢野好隆病院助教、杉浦真弓教授らによる研究グループは、臨床的に原因が指摘できない不育症のゲノムワイド関連解析を行い、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域内のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子の遺伝子多型がその発症に関与することを明らかにしました。また、ゲノム上の大規模なコピー数変異(CNV)を解析することで、細胞接着分子であるカドヘリン11(CDH11)遺伝子が発症に関与することを明らかにしました。本研究は不育症に関する過去最大規模のヒトゲノム解析を通じて、その原因不明の病態に生殖免疫学と細胞接着分子が関与することを示したものです。本研究は不育症の詳細な病態機序の解明に繋がり、将来的には同疾患の新しい診断法や治療法の開発に繋がることが期待されます。
本研究成果は国際科学誌「Nature Communications」(オンライン版:英国夏時間7月17日)に掲載されました。
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(2024/7/17)
細胞外の脂質代謝がアレルギーの感受性を決める
東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授、武富芳隆講師は、同大学院薬学系研究科の青木淳賢教授、医学系研究科の小田吉哉特任教授、東京理科大学生命医科学研究所の松島綱治教授、みさと健和病院内科アレルギー科の岡山吉道部長、広島大学大学院統合生命科学研究科の中江進教授、京都薬科大学病態薬科学系の田中智之教授、秋田大学大学院医学系研究科の石井聡教授、および米国サンフォード・バーナム・プレビーズ医学研究所のJerold Chun(ジェロルド・チュン)教授らとの共同研究により、マスト細胞と線維芽細胞の相互作用により放出される細胞外小胞の膜上で起こる脂質代謝が、線維芽細胞との細胞間コミュニケーションを介してマスト細胞の成熟を制御し、アレルギー感受性を決めることを世界に先駆けて解明しました。本研究成果は、米国の医学・生物学を扱うセル出版(Cell Press)が発行する学術雑誌『Immunity(イムニティ)』のオンライン版に2024年7月12日(米国東部時間)に公開されました。
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(2024/7/16)
心不全ワクチンの開発に期待
~ IGFBP7による心筋細胞代謝抑制メカニズムを解明 ~
東京大学大学院医学系研究科 先端循環器医科学講座の加藤愛巳特任助教、野村征太郎特任准教授、小室一成特任教授、先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス&メディシン分野の油谷浩幸シニアリサーチフェロー(東京大学名誉教授)らの研究グループは、心不全モデルマウスを用いて、世界で初めて心不全ワクチンの開発に成功しました。
本研究では、心臓血管内皮細胞が分泌するIGFBP7というタンパクが心筋細胞のミトコンドリア代謝を抑制し、心不全を引き起こしていることを明らかにしました。さらに、IGFBP7に対するワクチンを大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座の中神啓徳寄附講座教授らと共同開発しマウスに投与したところ、心不全モデルマウスの心臓の機能が改善しました。これにより、ワクチンで心不全増悪因子の働きを抑制することで、心不全を治療するというこれまでにない新しい心不全治療法の可能性が示されました。
本研究成果は、日本時間7月12日に米国科学誌「Circulation」に掲載されました。
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(2024/7/12)
思春期にヤングケアラーの状態が長く続くと精神的な不調を抱えやすくなることを確認
東京都医学総合研究所(所在地:東京都世田谷区、理事長:田中啓二)社会健康医学研究センター ダニエル・スタンヨン研究員(現 英国ロンドン大学キングスカレッジ)、西田淳志 センター長、東京大学(所在地:東京都文京区、総長:藤井輝夫)大学院医学系研究科 精神医学分野 笠井清登 教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、安藤俊太郎 准教授らの研究グループは、思春期に長期に渡ってヤングケアラーの状態が続くと、精神的な不調を抱えるリスクが高まることを確認しました。
10歳から16歳の間に、親や祖父母、病気の親戚を長期に渡ってケアしている若者(長期ヤングケアラー)は、ケアをしていない若者に比べて精神的な不調を抱えやすく、特に14歳から16歳の間でヤングケアラー状態が継続していると、自分を傷つける行為(自傷行為)や、死にたくなる気持ち(希死念慮)を持つリスクが高まることも明らかにしました。
本研究成果は、「Journal of Adolescent Health」に日本時間2024年7月10日にオンライン出版されました。
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(2024/7/11)
細胞骨格構成因子の先天性変異がDNAメチル化異常症を引き起こす謎に迫る
~ 多遺伝子座インプリンティング異常症の発症メカニズム解明に光明 ~
東京大学 大学院医学系研究科 国際保健学専攻の鵜木元香准教授と、九州大学 生体防御医学研究所の佐々木裕之名誉教授・特別主幹教授らによる研究グループは、卵子の細胞骨格を構成する蛋白質(SCMC)の変異が、多遺伝子座インプリンティング異常症(MLID)を引き起こす分子メカニズムに迫る重要な発見をしました。
本研究ではDNAに付加されたメチル化修飾の維持に重要なUHRF1蛋白質の卵子における局在を模した細胞を作製する事で、SCMCの1つであるNLRP5が細胞質でも核でもUHRF1蛋白質を安定化する事を世界で初めて見出しました。この研究成果は、細胞質において安定化したUHRF1の一部が核内に移行する可能性を示唆しており、今後SCMC構成蛋白質をコードする遺伝子に変異を持つ女性が子供を希望する場合に、核置換法を用いて、卵子もしくは受精卵の細胞質を正常にする事で、細胞質のUHRF1が核内移行してインプリンティング制御領域(ICR)のメチル化を維持し、健康な子供を授かれる可能性を示唆しています。
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(2024/6/18)
日本人の子どもにおける超加工食品の摂取量と食事の質との関連
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野の篠崎奈々助教、村上健太郎教授、佐々木敏東京大学名誉教授らの研究グループは、3~17歳の日本人1318人から得られた8日間にわたる詳細な食事記録データをもとに、超加工食品の摂取量を調査し、食事の質との関連を調べました。
食品加工は、世界の食料システムにおいて、食品の安全・安心・入手可能性の確保や食品廃棄物の削減など、極めて重要な役割を担っています。一方で、高度な加工を特徴とする超加工食品(例.ソーセージや菓子パン、清涼飲料など)は、脂質やナトリウムを多く含む一方で、たんぱく質や食物繊維、ビタミン・ミネラル類の含有量が少ないため、多く食べることで食事全体の質が低下する可能性があります。また、最近の欧米諸国を中心としたレビューによると、超加工食品からのエネルギー摂取量は、小児や青少年などの若年層で高い傾向にあることがわかっています。
しかし、アジア圏における子どもの超加工食品摂取量に関する栄養学研究は少なく、日本人の子どもの超加工食品の摂取量や、食事の質との関連は明らかになっていません。そこで本研究では、日本人の子どもを対象とした全国規模の食事調査のデータを用いて、超加工食品の摂取量を調べ、食事の質との関連性を評価しました。
食事調査のデータとして、2016~2020年に日本の32都道府県に住む3~17歳の日本人1318人から得られた食事記録を使用しました。参加者やその保護者には、参加者が8日間(各季節に2日ずつ)にわたって食べたり飲んだりしたものを全て計量して記録してもらいました。そして、食事に記録されたすべての食品を、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者らが開発した食品分類の枠組みを用いて、加工レベルが低い順に「未加工/最小限の加工」「基本的な加工」「中程度の加工」「高度な加工(超加工食品)」の4段階に分類しました。食事の質は、Healthy Eating Index-2015(アメリカ人のための食事ガイドラインの順守の程度を測る指標)とNutrient-Rich Food Index 9.3(食事全体を栄養素密度の観点から評価する指標)の2つを使って評価しました。また、外食や惣菜などの家庭外で調理された料理を、①料理に含まれる個々の食材を個別に加工レベル別に分類する場合(超加工食品を少なく見積もるシナリオ)と、②すべて超加工食品に分類する場合(超加工食品を多く見積もるシナリオ)の2通りで食品分類を行ないました。
結果として、1日の総エネルギー摂取量に対して超加工食品が占める割合の平均値は、超加工食品を少なく見積もるシナリオでは27%で、多く見積もるシナリオでは44%でした。また、超加工食品からの総エネルギー摂取量に占める割合が最も大きい食品群は、超加工食品を少なく見積もるシナリオでは菓子類で、超加工食品を多く見積もるシナリオでは穀類・でんぷん質食品でした。食品分類のシナリオにかかわらず、超加工食品からエネルギーを多くとっている集団ほど、Healthy Eating Index-2015およびNutrient-Rich Food Index 9.3の総スコアが低い、すなわち食事の質が低いことがわかりました。
本研究は、日本人の子どもにおいて、超加工食品の摂取量を明らかにし、その食事の質との関連性を評価した初めての研究です。本研究の成果は、日本の公衆栄養政策を決定する上での重要な資料になるとともに、今後の超加工食品と関連する健康状態や疾病に関する研究の発展に寄与することが期待されます。
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(2024/6/14)
クローン性造血による拡張型心筋症患者の予後増悪を解明
~ 患者ゲノム解析および疾患モデルマウス解析の統合により病態機序を解明 ~
東京大学大学院医学系研究科先端循環器医科学講座の井上峻輔特任研究員、候聡志特任助教、野村征太郎特任准教授、小室一成特任教授と、同大学大学院医学系研究科血液・腫瘍病態学分野の黒川峰夫教授、同大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター動物資源学部門の饗場篤教授、同大学先端科学技術研究センターの油谷浩幸シニアリサーチフェロー(東京大学名誉教授)らによる研究グループは、拡張型心筋症患者のゲノム解析および疾患モデルマウスを活用した解析により、クローン性造血が患者の予後を増悪させることを明らかにすると共に、その病態機序の一端を解明しました。このことは、拡張型心筋症患者の予後予測をする上で有用であるだけでなく、今後、クローン性造血を標的とした新たな治療法の開発につながると期待されます。
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(2024/6/13)
BMI×ゲノムで2型糖尿病の遺伝的リスク予測精度を向上
~ やせているのに糖尿病になりやすい体質 ~
大阪大学大学院医学系研究科の小嶋崇史さん(遺伝統計学 博士課程/東北大学大学院医学系研究科AIフロンティア新医療創生分野 特別研究学生/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム 研修生/理化学研究所革新知能統合研究センター遺伝統計学チーム 研修生)、岡田随象教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、東京大学大学院医学系研究科の山内敏正教授、門脇孝東京大学名誉教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の田宮元教授(理化学研究所革新知能統合研究センター遺伝統計学チーム チームリーダー)らの共同研究グループは、体格指数(BMI)を使用することで2型糖尿病の遺伝的リスク予測精度が向上することを発見しました。さらに、集団間の遺伝的な違いを補正できる機械学習手法を組み合わせることで、欧米人集団の豊富なゲノム情報を活用して、日本人集団に対する予測精度のさらなる向上を実現しました。 また、ゲノム解析により、2型糖尿病になりやすい遺伝的体質に関わるメカニズムを明らかにしました。
ゲノム全体の遺伝子変異から算出した2型糖尿病のポリジェニック・リスク・スコア(polygenic risk score;PRS)は、発症予測や予防に役立つ手段として臨床応用が期待されています。しかし、2型糖尿病が不均一な疾患であることや、ゲノム情報が多く集積している欧米人集団との遺伝的な違いによって、本邦における将来的なゲノム医療の質が低くなることが危惧されています。今回の研究成果は、2型糖尿病の遺伝的リスク予測制度を向上するとともに、将来的に、糖尿病予防や合併症予防といった個別化医療へ貢献することが期待されます。
この成果は、2024年6月11日(火)18時(日本時間)に米国科学雑誌Nature Geneticsにオンライン掲載されました。
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(2024/6/12)
思春期におけるインターネットの不適切使用が精神病症状および抑うつのリスクを高めることを確認
東京都医学総合研究所(所在地:東京都世田谷区、理事長:田中啓二)社会健康医学研究センター 西田淳志 センター長と国立精神・神経医療研究センター(所在地:東京都小平市、理事長:中込和幸)精神保健研究所 成田瑞 室長、東京大学(所在地:東京都文京区、総長:藤井輝夫)大学院医学系研究科 笠井清登 教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、安藤俊太郎 准教授らの研究グループは、思春期におけるインターネットの不適切使用が精神病症状(幻覚や妄想のような体験)および抑うつといったメンタルヘルス不調のリスクを高めることを確認しました。さらに、インターネットの不適切使用による抑うつのリスクは女性の方が大きいこと、また、精神病症状のリスク上昇は社会的ひきこもりを介して起こることも示唆されました。
ここでいう不適切使用とは、インターネット使用によりイライラする、学業・家族や友人関係・睡眠などに支障が出る、時間を使い過ぎる、使い始めるとやめられない、他の人と過ごすよりインターネットを好む、周囲の人間から見て使用時間を減らした方が良い、などの状態を指します(インターネット使用そのものがリスクを高める、という結果ではありません)。インターネットは現代の生活に欠かせないツールですが、このような関わり方を続けた場合はメンタルヘルス不調のリスクを高めることが因果関係を検証できる厳密なデータ解析で示されました。メンタルヘルス不調を経験する前に使用を控えるよう、親や学校など周囲の大人がこのようなリスクを認識し、適切なサポートを提供する、などの対策が重要と考えられます。
本研究成果は『Schizophrenia Bulletin』に日本時間2024年6月3日にオンライン出版されました。
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(2024/6/11)
オートファゴソーム完成の目印は電荷の変化
~ オートファゴソーム膜の静電的成熟機構の発見 ~
東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授らの研究グループは、オートファジーを実行するオルガネラであるオートファゴソームと分解酵素を含んだリソソームとの融合の仕組みの一端を明らかにしました。リソソームは完成(閉鎖)したオートファゴソームと融合します。リソソームとの融合に必要な因子であるシンタキシン17は、閉鎖したオートファゴソームにだけ呼び寄せられることがすでに知られています。しかし、シンタキシン17がどのようにして未完成(未閉鎖)オートファゴソームと完成オートファゴソームを見分けているかは不明でした。今回、シンタキシン17はカルボキシ末端領域に正電荷アミノ酸を多数持ち、この正電荷アミノ酸がシンタキシン17のオートファゴソームへの局在に必要であること、シンタキシン17は負電荷脂質膜を嗜好することを見出しました。そこで、実際にオートファゴソーム膜が負電荷を持っているかどうかを調べたところ、オートファゴソームの形成後期に膜が強い負電荷を帯びることがわかりました。さらに、この負電荷は負電荷脂質であるホスファチジルイノシトール4-リン酸(PI4P)の蓄積によることが示唆されました。また、シンタキシン17のオートファゴソーム膜への局在がオートファゴソーム膜上のPI4Pの量によって制御されうることを試験管内実験と分子動力学シミュレーションによって明らかにしました。以上の結果から、細胞はオートファゴソームの完成をその膜の電荷変化によって認識していることが示唆されました。本研究結果は、細胞小器官の膜電荷の経時変化がその機能を変化させるという概念を提唱するものであり、この概念はその他の細胞内構造体についても当てはまる可能性が期待されます。本研究成果は、6月4日に国際科学誌「eLife」に最終版(Version of Record)として掲載されました。
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(2024/6/4)
心不全の再発と多病のメカニズムを同定
~ ストレスが血液に蓄積する ~
東京大学大学院医学系研究科の藤生克仁特任教授と、小室一成特任教授(国際医療福祉大学副学長兼任)、千葉大学大学院医学研究院の眞鍋一郎教授らによる研究グループは、「心不全がなぜ再発するのか」を明らかにしました。
本研究では、心不全の臨床経過の特徴である「一度心不全を発症すると、入退院を繰り返す」「他の病気にも影響する」という点に着目し、「心不全になると、そのストレスがどこかに蓄積する」と仮説を立てて研究を行いました。その結果、心不全になった際にストレスが骨の中にある造血幹細胞に蓄積することを見いだしました。造血幹細胞は、心臓に対して心臓を保護する免疫細胞を供給しますが、ストレスが蓄積している造血幹細胞はその保護的な免疫細胞を作り出すことができず、これが心臓の機能悪化を引き起こし、再発しやすい原因となることが分かりました。
現在不治の病である心不全に対して、ストレスの蓄積を除去する方法の開発などによって新規予防法、治療法につながることが期待できます。
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(2024/5/27)
メガリンの立体構造とリガンド結合様式を解明
~ 腎臓病の新たな創薬に向けて ~
新潟大学大学院医歯学総合研究科の斎藤亮彦特任教授、横浜市立大学大学院生命医科学研究科の西澤知宏教授、東京大学大学院医学系研究科の吉川雅英教授、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の津本浩平教授、東京大学大学院工学系研究科附属医療福祉工学開発評価研究センターの長門石曉准教授らの研究グループは、クライオ電子顕微鏡法や分子間相互作用解析法などを用いて、腎近位尿細管細胞に発現するタンパク質、メガリンの立体構造と多様なリガンド結合様式を解明しました。メガリンは、近位尿細管細胞が様々な物質を取り込み、代謝する機能において中心的な役割を担う分子であり、腎臓病を引き起こす腎毒性物質の「入り口」にもなっています。本研究は、腎臓の生理的な代謝メカニズムの解明とともに、メガリンを介して腎毒性物質が腎臓に取り込まれることを阻害する薬剤の開発に役立つことが期待されます。
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(2024/5/24)
脂肪肝病理画像から発がんを予測するAIモデル
~ 暗黙知が解き明かす肝がんのサイン ~
東京大学医学部附属病院 消化器内科の中塚拓馬 助教、検査部の佐藤雅哉 講師(消化器内科医)、同大 大学院医学系研究科 消化器内科学の建石良介 准教授、藤城光弘 教授、小池和彦 東京大学名誉教授らの研究グループは、日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 橋爪夏香、鎌田亜美、米澤翔、壁谷佳典の協力の下、脂肪肝デジタル病理画像の深層学習によって、脂肪肝からの肝がん発症リスクを予測する新しいAIモデルを構築しました。
脂肪性肝疾患(SLD: Steatotic liver disease)は、肥満人口の増加に伴い、世界中で問題となっています。近年では人口の約3割が脂肪肝を有すると言われ、その中から肝がんの発症リスクの高い患者を特定することが重要な課題となっています。
本研究では、脂肪肝肝生検標本のデジタル病理画像を深層学習し、肝がん発症リスクを予測する人工知能(AI)モデルを構築しました。肝線維化は、肝がん発症リスクの最も重要な指標とされていますが、SLDにおいては線維化が進展していない状態においても肝がんを発症するケースが頻繁に報告されています。本AIモデルは、非がん組織における細胞異型、核細胞質比の上昇、炎症細胞浸潤、大型脂肪滴の消失といった、これまで注目されていなかった微細な病理所見を認識することにより、線維化が進行していない症例からの肝がん発症予測を可能としました。
今回の研究結果は、脂肪肝から発症する肝がんの早期発見を可能とし、脂肪肝病理所見と肝がんリスク評価に新たな視点を提供することが期待されます。本研究成果は5月20日(現地時間)に学術誌「Hepatology」オンライン版にて発表されました。
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(2024/5/23)
血液バイオマーカーを用いて、超早期段階での脳アミロイドPET検査結果の予測を実現
~ アルツハイマー病の早期診断と治療に光 ~
東京大学大学院医学系研究科の新美芳樹特任准教授、岩坪威教授らのグループは、J-TRCコホート研究参加者の血液を対象として、血漿アミロイドβ(Aβ)とスレオニン217リン酸化タウ(p-tau217)を測定し、これらを組み合わせることにより、アルツハイマー病(AD)の脳に生じる最も重要な変化であるAβの蓄積を診断するPET画像検査の結果を、超早期の段階において、これまでにない高い効率で予測することに成功しました。抗Aβ抗体薬を用いたADの治療がレカネマブなどを用いて始まり、脳内のAβ蓄積を正確に評価する必要性が高まっています。しかし、アミロイドPET検査や脳脊髄液Aβ測定などの現在用いられている検査法には、費用や利便・侵襲性などの面で多くの課題が残されています。近年、血液を用いてAD脳の病理変化を診断する手法の開発が進んでおり、その有用性が報告され始めています。しかしこれまでの検討では、人種間差の有無や、特に日本人での有用性に関する大規模なデータはほとんど得られていませんでした。
ADの早期・無症候段階にあたるプレクリニカル期ADや軽度認知障害(MCI)に相当するプロドローマル期において得られた本研究の成果により、今後ADの早期段階での適時適切な診断と、予防・治療への途が開かれるものと期待されます。
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(2024/5/23)
週1回のグリコアルブミン測定×アプリが2型糖尿病を持つ方の血糖管理を改善
~ 低/非侵襲・低コスト・分かりやすい次世代自己血糖モニタリング法の確立へ ~
医療法人社団 陣内会 陣内病院の陣内秀昭院長、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の相原允一助教、熊本大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科(大学院生命科学研究部)の窪田直人教授、東京大学発医工連携スタートアップである株式会社Provigateの関水康伸代表取締役CEOらによる研究グループは、週に1回の在宅グリコアルブミン(GA)検査と行動変容アプリを併用することで、2型糖尿病のある方の血糖値や体重などが有意に改善することを見出しました。
グリコアルブミン(GA)値は過去1週間程度の平均血糖値の変化に応じて鋭敏に変化すると期待されます。そのため、週1回GA値を測定すれば、直近1週間程度の食事、運動、服薬など血糖値に影響する生活習慣の変化を、GA値の変化として簡単に数値化できると考えられます。しかし、在宅でGA値を測定し行動変容に活かす研究はこれまでに報告がありませんでした。
今回の成果を受けて、研究チームはより手軽で侵襲性の低い在宅迅速検査(POCT)法や唾液による郵送検査法の研究開発、及び専用の行動変容アプリの改良も進めています。これらは、将来的により良い糖尿病治療の実現につながることが期待されます。
本研究成果は、5月16日(中央ヨーロッパ時間)にDiabetes Therapy誌のオンライン版で掲載されました。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/5/17)
飯野正光名誉教授が瑞宝中綬章を受章
このたび、飯野正光名誉教授が本年春の叙勲にて瑞宝中綬章を受章されました。
飯野先生は、長年にわたって薬理学研究に努めてこられました。とりわけ、細胞内カルシウムシグナル機構において、独創的かつ先駆的な研究を行い、その基本機構の解明から病態の理解に至る大きな功績を挙げてこられました。また、学会、審議会において要職を歴任して学術界および医療の発展にも大きく寄与されました。
細胞内のカルシウムイオン濃度の変化は、筋収縮、受精、代謝、免疫、神経機能調節などの機能に重要であり、カルシウムシグナルと呼ばれます。細胞内小器官である小胞体からのカルシウム放出はその形成に重要な役割を果たしますが、飯野先生は「自己再生産的カルシウム放出」を提唱し、放出されたカルシウムがさらに活性を強めることを明らかにしました。この機構がカルシウム振動など複雑な動態を形成することを実証し、この研究は世界標準の生物学教科書にも記載されています。また、顕微鏡を使ったカルシウムシグナルの可視化法を次々に開発され、カルシウムシグナル研究に大きな影響を与えました。さらに脳におけるカルシウムシグナルの未知機能を探求し、シナプス機能の維持や脳傷害に伴う神経細胞死における新たな役割を発見されました。これらの知見は、新たな創薬ターゲットの発見に繋がると期待されています。これらの優れた業績に対し、1989年日本薬理学会学術奨励賞、2009年上原賞、2012年日本薬理学会江橋節郎賞、2017年春の紫綬褒章、2019年度東レ科学技術賞を受けられております。
先生は薬理学の教育にも長年従事し多数の学生を教育し、後進の育成に努められてきました。学会活動では、公益社団法人日本薬理学会の理事、年会長、理事長を歴任し、薬理学分野の発展に大きな貢献をされてきました。国際薬理学連合(IUPHAR)の次席副会長を務められ、学術的国際連携および日本の学術の国際的プレゼンスを高めることに尽くされました。さらに、日本医学会副会長及び日本医学会連合副会長を務められ、医学界全般に関連する課題に対応するとともに、厚生労働省及びこども家庭庁の審議会専門委員を務めて医療倫理に関する行政にも貢献されました。
このたびの受章を心よりお祝い申し上げますとともに、先生のご健勝と益々のご活躍をお祈りいたします。
(大学院医学系研究科・医学部 廣瀬謙造)
(2024/5/14)
日本人成人における食事場面の特性と食事の栄養学的質との関連
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野の篠崎奈々助教、村上健太郎教授、佐々木敏東京大学名誉教授らの研究グループは、30~76歳の日本人222人を対象に詳細な食事記録調査を行ない、食事の種類(朝食、昼食、夕食)、同席者の有無および食事場所が食事の栄養学的質と関連していることを明らかにしました。
※詳細はこちら[PDF]をご覧下さい。
(2024/5/10)
女性医師による治療は女性患者で有益
~ 大規模医療データを用いた自然実験 ~
東京大学大学院医学系研究科の宮脇敦士特任講師、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介准教授らによる共同研究チームは、女性医師に治療された患者の方が、男性医師に治療された患者よりも死亡率や再入院率が低い傾向にある一方で、女性医師の治療によるメリットは、女性患者の方が男性患者よりも大きいことを明らかにしました。因果関係にせまることのできる「自然実験」を用いた、米国の高齢者77万人以上の入院データの分析の結果です。米国でも日本と同様に、女性医師はいまだ少数派で、女性患者が女性医師に診てもらう機会は不足しています。本研究は、このような医師の男女比率のアンバランスが女性患者の健康に不利に働いていることを示しており、医療現場の女性医師の割合を増やすことで患者の予後が改善する可能性を示唆しています。
※詳細はこちら[PDF]をご覧下さい。
(2024/4/23)
加齢黄斑変性の前駆病変が発生するしくみを発見
~ 加齢黄斑変性予防に対する新たな治療確立に期待 ~
東京大学医学部附属病院眼科の寺尾亮助教と、ワシントン大学セントルイス医学部眼科のRajendra S. Apte教授(兼 ワシントン大学セントルイス マクドネル学術大使、慶應義塾大学グローバル教授)らによる研究グループは、AMDの前駆病変(前兆として現れる変化)のひとつである網膜下ドルーゼノイド沈着(Subretinal drusenoid deposit)を発症する遺伝子改変マウスを用いて、AMD前駆病変が生じるしくみを明らかにしました。
この研究によって、NAD+の枯渇がマクロファージの細胞老化を引き起こし、その結果として網膜下ドルーゼノイド沈着が発生することが判明しました。また、老化細胞除去治療やNAD+補填療法がAMD前駆病変の出現を抑えることを明らかにしました。AMD前駆病変が発生するしくみについて遺伝子改変マウスを用いて詳しく研究されたのは本研究が初めてです。この研究成果が今後AMD前駆病変に対する治療として展開され、AMD予防のための治療法確立につながることが期待されます。※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/4/18)
新規胃癌発生メカニズムを解明
~ そんなバナナ?な新治療の開発へ ~
東京大学医学部附属病院 消化器内科 新井絢也 医師、早河翼 講師、藤城光弘 教授と、国立研究開発法人産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 多細胞システム制御研究グループ 舘野浩章 研究グループ長らによる研究グループは、ムチン(粘液)の一種であるMUC6の喪失が直接胃癌の発生を引き起こすことを明らかにしました。
本研究では独自に作成したMUC6ノックアウトマウス(以下MUC6KOマウス)を用いて、MUC6喪失により胃癌が自然に発生することを見出し、その発癌経路としてゴルジ体のストレスを介したGOLPH3遺伝子-MAPK経路の活性化を同定し、それに付随してマンノース異常糖鎖が高発現となることを世界で初めて示しました。
元来ムチン形質変化は発癌に付随して変化した結果と考えられてきましたが、今回MUC6喪失自体により直接胃癌が発生することを示したことは新しい胃癌発生メカニズムの発見として重要な意味があり、この研究成果は今後そのほかのムチン形質変化による多種多様な疾患への関与の解析につながることが期待されます。
※詳細は東大病院HP掲載のリリース文書[PDF]をご覧ください。
(2024/4/11)