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広報・プレスリリース(2011年(平成23年))

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平成23年度医学教育等関係業務功労者表彰、医学部関係者2名が受賞

 文部科学大臣は毎年、医学又は歯学に関する教育・研究もしくは患者診療等の補助的業務に関し、顕著な功労のあった者を表彰しています。
 平成23年度は医学部の森下保幸 技術専門員と医学部附属病院の大山敏子 准看護師が受賞され、11月24日にホテルフロラシオン青山(東京)で表彰式が行われ、賞状と銀杯が贈呈されました。
 森下技術専門員は臨床(衛生)検査関係業務、大山准看護師は看護関係業務に対して長年にわたり尽力されたことが評価されたものです。

(2011/12/12掲載)

医学系研究科 辻 省次 教授が紫綬褒章を受章

この度、医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座神経内科学の 辻 省次 教授が秋の褒章で紫綬褒章を受章しました。 これは医学研究の発展への貢献が評価されたことによるものです。

辻 教授は神経内科学の分野において、神経難病とも呼ばれる神経疾患の病因を解明し治療を実現するために、 分子遺伝学の研究を駆使することにより、数多くの遺伝性神経疾患の病因遺伝子を発見し、その分子病態機序を明らかにし、治療法開発の道を拓きました。 さらに、孤発性神経疾患の発病に関わる重要な疾患感受性遺伝子を発見し、孤発性精神疾患の病因解明への道を拓くなど、神経疾患の克服を目指して、 臨床神経学、分子遺伝学、脳科学の分野を統合した疾患研究の推進に先駆的な貢献をしました。
また、本研究科脳神経医学専攻長、医学部附属病院ゲノム医学センター長を兼務、内科診療部門長を歴任するなど、 本研究科及び医学部附属病院の管理・運営にも力を注いできました。
研究の詳細については、辻 研究室の下記ホームページをご覧ください。
http://square.umin.ac.jp/neurotky/index.html

なお、東京大学大学院医学系研究科・医学部に在籍中の以下の教授が、過去に紫綬褒章を受章しています。

   宮下 保司 (機能生物学専攻 統合生理学 平成16年 秋)
   永井 良三 (内科学専攻 循環器内科学 平成21年 春)
   宮園 浩平 (病因・病理学専攻 分子病理学 平成21年 秋)
   門脇 孝  (内科学専攻 生態防御腫瘍内科学 平成22年 春)
   三品 昌美 (機能生物学専攻 分子神経生物学 平成22年 秋)

                                 東京大学大学院医学系研究科・医学部
(2011/11/2掲載)

東京大学と小野薬品工業株式会社が脂質の網羅的解析による創薬標的の探索に関する共同研究契約を締結

東京大学と小野薬品工業株式会社は、脂質の網羅的解析(リピドミクス)による新規創薬標的の探索に関する共同研究契約を締結しましたので、お知らせいたします。

※全文はPDF文書をご覧ください。
  PDF全文[PDF: 145KB]

(2011/9/28掲載)

医学系研究科 門脇 孝教授が2011年度武田医学賞を受賞

この度、医学系研究科内科学専攻 生態防御腫瘍内科学講座 代謝・栄養病態学の門脇 孝(かどわき たかし)教授が、2011年度武田医学賞を受賞しました。これは、「2型糖尿病の分子機構に関する研究-アディポネクチン受容体の発見と機能解析を中心に」のテーマに対して与えられるものです。「武田医学賞」は、医学界で顕著な業績を挙げ、医学ならびに医療に優れた貢献を果たされた学者・研究者に武田科学振興財団から贈呈される賞で、今年で第55回を迎える賞です。
 なお、門脇教授は平成23年4月から東京大学医学部附属病院病院長に就任されています。
受賞の詳細は同財団のホームページ(http://www.takeda-sci.or.jp/business/prize.html)をごらんください。

(2011/9/28掲載)

世界で初めて「骨髄異形成症候群」(血液がんの一種)の原因遺伝子を発見
  -大規模遺伝子解析により、29症例のがん遺伝子を徹底的に解読、成果は英Nature誌に掲載-

東京大学医学部附属病院キャンサーボードの小川誠司特任准教授を中心とする国際共同研究チームは、世界で初めて、難治性の血液がんである骨髄異形成症候群(MDS)の原因遺伝子を発見しました。この研究は、厚生労働省厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業および文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究事業の一環として実施されました。本研究成果は、2011年9月11日(英国時間)の英国科学雑誌「Nature」のオンライン速報版で公開されます。

骨髄異形成症候群(MDS)は、白血病などと並ぶ血液がんのひとつです。我が国でも推定で数万人の患者がおり、年間5000人以上が新たに発症していますが、骨髄移植以外には、根本的な治療がないのが現状です。高齢者の場合は骨髄移植のできる例が一部に限られるため、身体への負担の少ない治療法開発が求められています。

同研究チームは、今回、大量並列ゲノムシーケンス技術を用い、29例のMDS症例のゲノムを詳細に解読することによって「RNAスプライシング」に関わる遺伝子群が45~85%という高い頻度で変異を生じていることをつきとめました。今後、異常な「RNAスプライシング」の因子を阻害する薬剤などの新たな治療法の開発が期待されます。今回の発見は、「RNAスプライシング」の異常が、がんの発症に関わることを示す研究としても世界で初めてのものです。

本研究結果は、大規模シーケンスによるがんゲノムの徹底的な解読による研究が、がんの病態解明の上で有効であることを証明する成果となりました。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書[PDF: 1.00MB]

(2011/9/12掲載)

鼻変形の治療用再生軟骨を開発し、世界初の臨床研究を開始
  -インプラント型再生軟骨で口唇口蓋裂による高度な鼻変形を治す-

患者さんの耳からわずかな軟骨を取って、鼻のかたちの軟骨を再生させる技術(インプラント型再生軟骨)を、東京大学医学部附属病院顎口腔外科・歯科矯正歯科 教授 高戸毅、ティッシュ・エンジニアリング部 特任准教授 星和人(軟骨・骨再生医療寄附講座)らが開発しました。さらに、再生軟骨を口唇口蓋裂の患者さんの鼻に用いる、世界初の臨床研究がスタートしました。これまで、顔面の軟骨の変形や欠損を治療するためには、身体の他の部位の軟骨や骨を移植する方法などが行われてきましたが、鼻の高度な変形を治せるような大きな軟骨を採取することはできませんでした。この再生軟骨を用いることにより、耳の目立たない部位からわずかな軟骨を採取するだけで鼻の高度な変形を治せるようになると期待されます。また、この技術は耳の変形、気管の軟骨の欠損、そして将来は関節の軟骨の再建などに応用できると期待されています。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書[PDF: 241KB]

(2011/9/9掲載)

ピロリ菌がんタンパク質CagAが機能偽装するヒトタンパク質の発見
  -細菌が産生する病原タンパク質の起源解明に進展-

発表概要:
 畠山 昌則(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 微生物学講座 教授)らの研究グループは、ピロリ菌がんタンパク質CagAが機能偽装するヒトタンパク質を発見しました。
 ヘリコバクター・ピロリ菌が産生するがんタンパク質CagAは、ヒトの胃の細胞内に侵入後、CagA分子内のグルタミン酸(E)-プロリン(P)-イソロイシン(I)-チロシン(Y)-アラニン(A)からなるアミノ酸モチーフ(EPIYAモチーフ)がチロシンリン酸化修飾されて発がん活性を発揮します。同様のEPIYAモチーフは他の細菌が産生する病原エフェクター分子にも存在し、その起源が注目されてきました。これら細菌エフェクター分子が共有するEPIYAモチーフは宿主(ヒトなどのほ乳動物)の細胞内に侵入した後においてのみチロシンリン酸化される一方、このようなEPIYAモチーフを持つ宿主(ヒトなどのほ乳動物)タンパク質の存在はこれまで知られていませんでした。本研究では、プラグミンというヒトタンパク質がEPIYAモチーフを保有し、このEPIYAモチーフのチロシンリン酸化を介して細胞の増殖・運動を制御するシグナル伝達系の働きを生理的に調節していることを明らかにしました(添付資料1)。さらに、ピロリ菌CagAは胃の細胞内に侵入後、プラグミンのEPIYAモチーフ依存的な働きを競合的に阻害し細胞機能を撹乱することも見いだしました(添付資料2)。本研究はピロリ菌CagAがプラグミンのEPIYAモチーフを模倣することにより発がん活性を獲得したことを示したもので、細菌性のEPIYAエフェクタータンパク質がどのようにして作り出されたのかという重要な疑問の解明に大きな進展をもたらすものです。本研究の内容は、米国科学誌「米科学アカデミー紀要;Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に掲載されます。

1.発表内容:
【研究の背景】
 胃がんは我が国ならびに全世界における部位別がん死亡者数の第二位を占める主要なヒトがんです。この胃がんの発症には、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)(注1)の感染が決定的に重要な役割を果たします。胃がんの発症に関わるピロリ菌は胃の中で増殖しながらCagAという発がん物質(発がんタンパク質)を産生します。産生されたCagAはピロリ菌が持つミクロの注射針により、胃の細胞の中に直接注入されます。細胞内に侵入したCagAは、分子内に存在するグルタミン酸(E)-プロリン(P)-イソロイシン(I)-チロシン(Y)-アラニン(A)の5個のアミノ酸からなる配列(EPIYAモチーフ)のチロシン残基がタンパク質リン酸化酵素(注2)によりリン酸化されます(チロシンリン酸化)。チロシンリン酸化されたCagA のEPIYAモチーフは、細胞の増殖や分化・運動に関わる様々な分子と結合する能力を獲得します。この分子結合を介して、CagAは正常な細胞機能をかく乱し胃の細胞がん化を促すと考えられています。興味深いことに、最近の研究から、ピロリ菌以外の病原性細菌(病原性大腸菌、クラミジア、アナプラズマ等)が産生する病原エフェクター分子内にもEPIYAモチーフが存在することが明らかになりました。これらの「細菌性EPIYAエフェクター」もまたチロシンリン酸化依存的に様々な細胞内標的分子と特異的に結合し、細胞内シグナル伝達経路を異常に刺激あるいは抑制します。したがって、EPIYAモチーフは細菌の病原性発揮において重要な役割を担うと考えられます。しかしながら、細菌性EPIYAエフェクター分子種間にはEPIYAモチーフ以外に構造上の類似は存在せず、EPIYAモチーフがこれらの分子に独立して作り出された分子機構は全く不明です。さらに、高等真核生物においても機能的なEPIYAモチーフを持つタンパク質の報告はこれまでに無く、EPIYAモチーフが高等真核生物において何らかの生理的な役割を担うのか否かも不明でした。
 ウイルスががんを引き起こすことはかねてより知られています。こうした発がんウイルスの多くは宿主遺伝子を起源とするがん遺伝子を持っています。これに対し、ピロリ菌はヒトがん発症に関わることが示された最初の細菌であり、CagAはこれまでに知られている唯一の細菌由来タンパク質です。しかしながらヒトのゲノムにはCagAと構造的に類似したタンパク質を作り出す遺伝子は存在せず、胃がん発症の鍵を握るピロリ菌CagAの分子起源は謎として残されたままとなっています。

【研究の内容】
 本研究では、「ヒト細胞にはEPIYAモチーフを持つタンパク質が存在し、CagAはそのタンパク質の機能を模倣することによりがんタンパク質として働く」という仮定の下、EPIYAモチーフを有するヒトタンパク質の単離・同定を進めました。まず、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)に登録されたデータベースを解析し、ヒトプロテオーム(ヒトの全タンパク質カタログ)内には6種のEPIYAタンパク質が存在することを見いだしました。EPIYAモチーフを有する6種類のヒトタンパク質のひとつプラグミンは、これまで神経細胞特異的に発現するRnd2との結合を介してRhoAを活性化するエフェクター分子として機能することが報告されていましたが、その他の機能については解明されていませんでした。プラグミンのEPIYAモチーフは進化的に完全に保存されていることから、プラグミンの機能に必須な役割を担っていることが予想されました。次に、プラグミンのEPIYAモチーフがヒト細胞内に存在するタンパク質リン酸化酵素によりチロシンリン酸化されることが判明しました。さらに、チロシンリン酸化されたプラグミンがCskとよばれるタンパク質リン酸化酵素(注3)に特異的に結合することを見いだしました。通常Csk は細胞質に存在しますが、細胞膜近傍に移行することにより細胞の増殖・運動に深く関わるSrcファミリーキナーゼ(注4)を不活性化することが知られています。そこで、Cskの細胞内局在を解析したところ、プラグミンと結合したCskは細胞質に留まり細胞膜近傍への移行が阻害される結果、Srcファミリーキナーゼが持続的に活性化されることが分かりました。すなわち、プラグミンはCskとの複合体形成を介してSrcファミリーキナーゼの活性化を促すことが明らかになりました(添付資料1)。ところで、ピロリ菌CagAもまたチロシンリン酸化されたEPIYAモチーフを介してCskと特異的に結合することが知られています。CagAと結合したCskは細胞膜に固定される結果、Srcファミリーキナーゼの活性は抑制されます。すなわち、CagAはチロシンリン酸化EPIYAモチーフを介して、EPIYAモチーフ依存的なプラグミンの機能を競合阻害し、Srcファミリーキナーゼ活性制御機構を破綻させることが示されました(添付資料2)。この結果から、ピロリ菌CagAを含む細菌性病原因子は、分子内にEPIYAモチーフを作り出すことによりプラグミンの機能を模倣することに成功した結果、様々な病原性/発がん性を獲得するに至ったと考えられます。

2.発表雑誌:
雑誌名:米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(8月22日オンライン版)
論文タイトル:Mammalian Pragmin regulates Src family kinases via the Glu-Pro-Ile-Tyr-Ala (EPIYA) motif that is exploited by bacterial effectors.
著者:Fatemeh Safari, Naoko Murata-Kamiya, Yasuhiro Saito, and Masanori Hatakeyama

3.問い合わせ先:
東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 微生物学講座
教授 畠山 昌則
電話:03-5841-3632  FAX:03-5841-3406
E-mail: mhata@m.u-tokyo.ac.jp

4.用語解説:
注1.ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)
ヒトの胃に慢性的に感染する病原性の細菌として知られており、世界の総人口の約半数に感染していると推察されています。ピロリ菌の慢性持続感染は萎縮性胃炎ならびに胃潰瘍などの胃粘膜病変を引き起こします。なかでも、cagA遺伝子を保有するCagA陽性ピロリ菌はCagA陰性ピロリ菌と比較して、より激しい萎縮性胃炎ならびに消化性潰瘍を引き起こし、胃がん発症の危険率を有意に高めることが示されています。

注2.タンパク質リン酸化酵素
細胞内で基質である標的タンパク質にリン酸を付加する酵素をタンパク質リン酸化酵素(タンパク質キナーゼ)と呼びます。特に、タンパク質のチロシン残基にリン酸を付加する酵素をチロシンキナーゼと呼びます。

注3.Cskチロシンキナーゼ
CskはC-terminal Src kinaseの略称です。Cskは細胞質チロシンキナーゼであり、SrcファミリーキナーゼのC末端側のチロシンリン酸化を介してSrcファミリーキナーゼを不活性化します。

注4.Srcファミリーキナーゼ
非受容体型チロシンキナーゼであり、8種類のタンパク質の総称です。SrcファミリーキナーゼのうちSrc、Fyn、Yesは全身に発現しているのに対し、Blk、Fgr、Hck、Lck、Lynは特定の組織や細胞に発現しています。例えば、Blk、Fgr、Hckは単球、顆粒球ならびにマクロファージに存在します。また、LckはTリンパ球およびBリンパ球に存在し、Lynは血小板、単球、マクロファージ、Bリンパ球に存在します。

5.添付資料:
下記のURLから添付資料1、2をダウンロードできます。
http://www.microbiol.m.u-tokyo.ac.jp/pr/tenpu_pnas.pdf

(2011/8/23発表)

新開発の表面処理技術を搭載した人工股関節が「第25回 独創性を拓く 先端技術大賞 経済産業大臣賞」を受賞

東京大学大学院医学系研究科 関節機能再建学講座および医学部附属病院 整形外科・脊椎外科が、大学院工学系研究科、日本メディカルマテリアル株式会社、 財団法人ファインセラミックスセンターと共同で開発した人工股関節が、「第25回 独創性を拓く 先端技術大賞 産学部門」の最高賞である経済産業大臣賞を受賞しました。 この人工股関節は、バイオミメティック技術(生体を模倣した技術)である、新しい表面処理法「Aquala®」を搭載したもので、従来品よりも格段に長持ちすることが期待できる製品です。 これによって、従来品では15年前後で行う必要があった人工股関節の交換が不要になる可能性があり、患者さんの負担を大幅に軽減することができます。

授賞式は、高円宮妃殿下のご臨席のもと、7月27日に都内で開催されました。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書[PDF: 238KB]

(2011/7/27掲載)

東京大学と島津製作所がバイオマーカー探索リピドミクスの技術開発に関する共同研究契約を締結

東京大学(医学系研究科 リピドミクス社会連携講座)と株式会社島津製作所(京都市中京区)は、生理活性脂質や膜脂質などの脂質の網羅的解析技術を開発し、 生活習慣病など各種疾患のバイオマーカー探索を行うことを目的とした共同研究契約を7月6日に締結しました。

※全文はPDF文書をご覧ください。
  PDF全文[PDF: 121KB]

(2011/7/25掲載)

細胞内増殖シグナルを連動して活性化する酵素の発見
  -癌と先天奇形をつなぐ分子機構の解明へ-

医学系研究科 病因・病理学専攻 微生物学講座 畠山昌則教授らは、細胞内増殖シグナルを連動して活性化する酵素を発見しました。

SHP2は細胞内でタンパク質のチロシン脱リン酸化という生化学反応を担う酵素です。SHP2に傷がつくとその酵素活性が暴走し、癌や先天奇形が発症します。 これまでに、SHP2は細胞増殖を促すRASシグナル経路を活性化することが知られていました。しかしながら、SHP2の異常がなぜ奇形や癌につながるのかという謎は未解明のままでした。 本研究では、1)活性化RASシグナルに応答してSHP2が細胞質から核の中に移動する; 2)核内に移行したSHP2は癌抑制タンパク質であるパラフィブロミンを脱リン酸化する; 3)脱リン酸化されたパラフィブロミンは細胞の分裂・増殖を促すWNTシグナル経路を活性化する; ことを発見しました。 すなわち、SHP2はパラフィブロミンを「癌抑制タンパク質」から「癌タンパク質」に機能変換するとともに、細胞内の主要な増殖シグナル経路であるRASシグナル経路とWNTシグナル経路を連動して活性化し、 細胞の分裂・増殖を促す酵素であることが明らかになりました。SHP2に傷がつくと、その程度に応じてRASシグナルとWNTシグナルがさまざまなレベルで異常活性化されます。 異常活性化の程度が弱ければ先天奇形が誘発され、強ければ癌が発症すると考えられます。本研究は、SHP2による癌化の理解を大きく進展させるとともに、 従来無関係と考えられていた癌と先天奇形の共通性を明らかにし、SHP2の人為的制御によるこれら難病治療への道を拓く研究成果です。

本研究の内容は米国科学誌「Molecular Cell誌」7月8日号に掲載されました。

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  PDFリリース文書[PDF: 205KB]

(2011/7/8掲載)

肥満から糖尿病や動脈硬化への橋渡しメカニズムを解明
  -脂肪融解タンパク質AIMの阻害による、肥満から生活習慣病への進行を阻止する画期的な薬剤開発の可能性-

医学系研究科附属 疾患生命工学センター分子病態医科学部門 宮崎徹教授は、昨年、血中に存在するAIMというタンパク質が、脂肪細胞に直接作用して細胞中の脂肪滴を融解し、 また幼若な脂肪前駆細胞の成熟を著明に妨げることにより、肥満を抑制することを明らかにしました。今回、肥満が亢進してしまった状況では、AIMを抑制することにより、 太っていても糖尿病や動脈硬化に進行しないことを発見し、AIM阻害剤による生活習慣病の根本的な予防・治療法開発の可能性が示唆されました。

本研究の内容は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences: PNAS) 電子版 7月4日発行号に掲載されました。

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  PDFリリース文書[PDF: 286KB]

(2011/7/5掲載)

免疫反応を抑制するオリゴ核酸の開発
  -自己免疫疾患や敗血症などの新たな治療法に期待-

科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環として、東京大学大学院医学系研究科の谷口 維紹教授と柳井 秀元 助教らは、核酸を認識する多くの受容体の働きを一度に阻害して、 免疫反応を抑制するオリゴ核酸「ISM ODN注1)」を開発しました。

DNAやRNAといった核酸による免疫反応の活性化は、ウイルスや細菌などの病原体に対する生体防御応答に重要です。 しかし、自己免疫疾患においては、自己由来の核酸によって免疫反応が活性化され、病態をさらに悪化させてしまいます。 また、敗血症などの過度の炎症では、細胞死が起きることにより、細胞内の核酸が外部に放出され、さらに炎症反応を促進してしまいます。 これらの反応を抑制するためには、核酸を認識する受容体の働きを抑えることが考えられますが、核酸を認識する受容体が複数あるため、これを一度に抑えられる阻害剤はこれまでありませんでした。

本研究グループはこれまでに、あらゆる核酸による免疫反応の活性化には、核酸の監視役であるHMGBたんぱく質注2)が必須であることを見いだしていました。 その知見をもとに、本研究ではHMGBたんぱく質に強く結合するISM ODNを開発しました。また、ISM ODNがさまざまな核酸による免疫反応を抑制することが分かりました。 さらに、マウスを用いた多発性硬化症注3)や敗血症注4)のモデル動物での実験を行い、ISM ODNが実際にこれらの病態モデル動物の発症を抑制することも明らかにしました。

今回開発したISM ODNに類似した化合物や、HMGBたんぱく質にさらに強く結合する化合物を開発することは、将来、自己免疫疾患や敗血症などの治療に役立つものと期待されます。

本研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で2011年6月27日の週(米国東部時間)に公開されました。

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  PDFリリース文書[PDF: 803KB]

(2011/6/27掲載)

経口糖尿病薬の副作用による浮腫発症のメカニズムを同定

経口糖尿病薬として知られるチアゾリジン誘導体は、細胞核内の受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)に結合し、 代謝に関連する遺伝子の転写を調節してインスリン作用を増強させます。この働きによってインスリン抵抗性が改善し血糖値も下がるため、 糖尿病の治療に広く使用されています。しかし副作用として体液貯留を伴う浮腫を生じることがあり、また心不全が悪化することもあるため、 心機能が著しく低下している場合には使用できません。チアゾリジン誘導体による浮腫発症のメカニズムとして、 腎臓の遠位尿細管ナトリウム輸送体遺伝子の発現が増加することが原因の一つと考えられてきましたが詳細は不明でした。

この度、東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 講師 関常司と 教授 藤田敏郎らのグループは、近位尿細管では遠位尿細管と異なり、 PPARγ に結合したチアゾリジン誘導体が遺伝子転写の調節を介さずに速やかに腎臓のナトリウム再吸収を亢進させることを発見しました (米国雑誌Cell Metabolism オンライン版にて日本時間5 月4 日午前1 時に発表)。 この発見は、これまで主に遺伝子転写調節を介して働くと考えられてきた PPARγ の新たな生理機能を明らかにしたもので、 チアゾリジン誘導体による浮腫発症の予防や、浮腫を起こさない新しい糖尿病薬の開発につながることが期待されます。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書[PDF: 431KB]

(2011/5/4掲載)

ヒト神経細胞のDNA メチル化状態に個人差があることを解明
  -精神疾患におけるエピジェネティクスの役割解明へ第一歩-

神経細胞におけるDNA メチル化状態は、脳機能に関わる遺伝子の働きと密接に関連しています。 また、ストレスなどの環境要因の作用を受けることから、統合失調症や気分障害といった、 遺伝子と環境要因の相互作用により発症する精神疾患の病態に深く関係していると考えられています。 しかし、脳は、神経細胞の他に多種多様な細胞が混在しており、神経細胞のDNA メチル化状態のみを解析するのは非常に困難でした。

東京大学大学院医学系研究科分子精神医学講座(特任准教授 岩本和也、特任助教 文東美紀)と 理化学研究所脳科学総合研究センター(チームリーダー 加藤忠史)の研究グループは、札幌医科大学、カリフォルニア大学との共同研究により、 微量のヒト脳試料から神経細胞だけを分離し、DNA メチル化状態の詳細な解析を行うことに成功しました。

その結果、神経細胞では非神経系細胞と比べてDNA メチル化状態が大きく異なり、また、より大きな個人差が認められることを明らかにしました。 神経細胞におけるDNA メチル化の個人差の意義は明らかではありませんが、環境要因が作用した結果である可能性が考えられます。 本研究により、DNA メチル化が精神疾患の原因に関与するかどうかについて、精神疾患患者脳試料を用いた研究の道が初めて開かれたことから、 今後精神疾患解明につながると期待されます。

なお、本成果は米科学GenomeResearch 誌5月号に掲載されます。

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  PDFリリース文書[PDF: 234KB]

(2011/5/1掲載)

塩分摂取による高血圧発症にエピジェネティクスが関与することを解明
  -日本人に適した新規降圧薬の開発に期待-

塩分の過剰摂取が高血圧をきたすことは良く知られていますが、その機序については多くの不明な点がありました。 このたび、東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 教授 藤田敏郎らの研究チームは、塩分感受性高血圧では塩分摂取過剰による 交感神経活性異常が塩分排泄に関わる遺伝子(WNK4遺伝子)の転写活性を抑制していることを世界に先駆けて明らかにしました。

本研究は血圧に関係するホルモンであるカテコールアミンのナトリウム貯留作用の新たな分子メカニズムを明らかにするとともに、 塩分摂取による高血圧発症の機序解明にもつながる画期的な発見です。 肥満やメタボリックシンドロームでは血圧の塩分感受性が高いことが知られていますが、今回の研究の成果は食塩や肥満などの 環境因子が塩分排泄性遺伝子の転写活性を抑制して、疾病(高血圧)が生じる“エピジェネティクス”の関与を解明したものであり、 新たな視点による高血圧治療薬の開発が期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌「Nature Medicine」に掲載されるに先立ち、米国東部標準時間4月17日午後1時(日本時間4月18日午前2時)に、 オンライン版に掲載されました。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書[PDF: 432KB]

(2011/4/18掲載)

医学系研究科長・医学部長 宮園浩平教授が日本学士院賞を受賞

この度、医学系研究科長・医学部長の宮園浩平教授(病因・病理学専攻分子病理学分野)が平成23年度の日本学士院賞を受賞されました。 今回の受賞は、「がん細胞における細胞シグナルとその制御機構に関する研究」に対するものです。
※ 受賞理由の詳細については日本学士院のホームページをご覧ください。

なお、宮園教授は平成21年秋に紫綬褒章、平成22年春に藤原賞を受賞されており、平成23年4月より医学系研究科長・医学部長に就任されています。

分子病理学分野宮園研究室のホームペ―ジ http://beta-lab.umin.ac.jp/

(2011/4/13掲載)

ネフローゼ症候群の新規リスク遺伝子の発見

東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科/血液浄化療法部 准教授 野入英世らのグループは東京大学医科学研究所、独立行政法人理化学研究所、 福島県立医科大学との共同研究において、ネフローゼ症候群に共通する疾患関連遺伝子を発見しました。研究グループはさらに詳しい機能解析を行い、 この遺伝子が、血液の不要な成分のみを尿として排出する腎臓のフィルター構造の維持に関与していることを明らかにしました。 この遺伝子が高発現だと有害な刺激にさらされた場合、フィルター構造が破綻しやすくなり、ネフローゼ症候群の主な症状である蛋白尿(体に必要な蛋白が尿に漏れ出てしまう)を 発症するリスクを上昇させますが、遺伝子の発現を阻害すると有害な刺激によるフィルター構造の脆弱性は消失し蛋白尿の発症が予防されました。 また、蛋白尿発症後であっても、遺伝子の発現を阻害する物質を投与すると蛋白尿が減少しました。

糖尿病を原疾患とする場合を含めた成人発症ネフローゼ症候群において、これまでに蛋白尿発症の病態に共通するメカニズムは解明されていません。 今回の研究成果が、ネフローゼ症候群に対する新たな治療法や予防法、診断法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』に掲載されるに先立ち、オンライン版(米国東部標準時間3月27日午後1時付:日本時間3月28日午前2時)に掲載されました。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書[PDF: 112KB]

(2011/3/28掲載)

記憶想起は大脳皮質微小神経回路における情報の流れの逆転によっておこる

記憶の記銘・想起は大脳側頭葉の働きです。今回、東京大学大学院医学系研究科 統合生理学の宮下保司教授と竹内大吾特任研究員のグループは、側頭葉皮質内の情報の流れの方向が、刺激を受ける時と思いだす時で逆転することを発見しました。これは大脳皮質神経回路が、皮質内部の信号の流れの方向を目的に応じて自在に操る柔軟性を有する、という精神機能の基礎を明らかにしたものです。
本研究成果は2011年3月18日号のSCIENCE誌に発表されました。

※詳細はリリース文書をご覧下さい。
  PDFリリース文書 [PDF]

(2011/3/18掲載)

筋肉における新しい糖取り込み調節機構の解明
  -肥満に伴う2型糖尿病の病態解明と治療への応用-

我が国では、食事の欧米化や運動不足によりメタボリックシンドロームや2 型糖尿病が急増しています。 筋肉は人において最大の糖取り込み臓器であり、糖取り込みに障害があると血液中のブドウ糖濃度(血糖値)の調節に影響を及ぼします。 そのため、メタボリックシンドロームや2 型糖尿病で認められる筋肉の糖取り込み障害の克服は、大きな課題の1つとなっています。 今回、東京大学大学院医学系研究科/医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の門脇 孝教授、窪田直人特任准教授と 窪田哲也研究員(独立行政法人国立健康・栄養研究所)のグループは、肥満では血管内皮細胞のインスリン作用(用語解説1)が減弱するために、 糖取り込みを促進するインスリンの筋肉への移行が低下し、糖取り込みが障害されていることを発見しました。 さらに、この血管内皮細胞のインスリン作用を正常化することにより、筋肉へのインスリン移行や糖取り込みが改善することを明らかにしました(Cell Metabolism誌 3月2日号に掲載予定)。 この発見により、肥満に伴う筋肉の糖取り込み障害のメカニズムが明らかとなり、新しいコンセプトに基づく2 型糖尿病治療法の開発につながるものと考えられます。

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(2011/3/2掲載)

自己と他者の動作を区別する仕組みを細胞レベルで初めて解明
  -「人の振り見て我が振りなおせ」に前頭葉の内側領域が関与-

独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構(シドニー・ブレナー理事長)の磯田昌岐代表研究者(神経システム行動ユニット)らの研究グループは、 動物の前頭葉の内側領域の神経細胞が自分の動作と他者の動作を選択的に処理することを明らかにしました。

本研究成果は、米国科学誌Current Biology(カレントバイオロジー)のオンライン版に1月21日(現地時間1月20日)に掲載されました。 本研究は、独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構の磯田昌岐代表研究者、東京大学大学院医学系研究科 脳神経外科学の大学院生の吉田今日子と 東京大学大学院医学系研究科/東京大学医学部附属病院 脳神経外科学の齊藤延人教授、独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター象徴概念発達研究チームの 入來篤史チームリーダーとの共同により行われました。また、独立行政法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業の一環として行われ、 ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」の支援を受けました。

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(2011/1/21掲載)

病院ならびに看護教育機関向け「看護技術ラーニングシステム」の共同開発
  -看護技術を共有・学習できるWeb ベースシステム「ナーシング・スキル日本版」-

東京大学医学部附属病院 (病院長 武谷 雄二 以下、東大病院)とエルゼビア・ジャパン株式会社(代表取締役 布川 治 以下、エルゼビア)は、 看護技術を映像・アニメーションなどを利用して視覚的にも分かりやすく学べる情報共有・教育システムを共同で開発しました。 本システムは、病院ならびに看護教育機関での利用を想定し、習得度を確認するためのテスト機能や各施設が独自に看護技術情報を 追加・変更することができるカスタマイズ機能を備えたWebベースシステムです。

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(2011/1/6掲載)