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広報・プレスリリース最新情報「2023年度(令和5年度)」

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「子ども睡眠健診」プロジェクトで見えてきた実態
~ プロジェクト参加校(小・中・高)の第三次(2024年度後期)募集を開始 ~

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター合成生物学研究チームの上田泰己チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室教授)らは、全国の学校の子ども(小中高生)を対象として、ウェアラブルデバイスを用いた睡眠測定を実施し、日本の子どもの睡眠実態の把握と、子ども・保護者に対して睡眠衛生に関する理解を増進する「子ども睡眠健診」プロジェクトを推進しています。この度、3月18日「睡眠の日」に合わせて、プロジェクトへの参加校の第三次募集(2024年度後期募集)を開始します。

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(2024/3/18)

脂質代謝に関わる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規原因遺伝子を発見

この度、東京大学大学院医学系研究科の戸田達史教授、成瀬紘也特任助教らの研究グループは、脂質代謝に関わる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規原因遺伝子の同定に成功しました。
ALSは運動ニューロンの選択的細胞死により運動機能が失われ、3年から5年で死に至る代表的な神経難病です。その病態は十分に解明されておらず現時点で根治療法は見出されていません。本研究では典型的には55–75歳で発症するALS症例に対して、40歳未満で発症する若年発症のALSの複数家系に着目し、網羅的ゲノム解析情報などを駆使して、ALSの病態解明を進めました。その結果、若年発症のALSに前頭側頭型認知症(FTD)を合併する複数家系において、スフィンゴ脂質の代謝に重要な役割をもつSPTLC2遺伝子の病原性変異を初めて同定しました。さらに詳細な脂質分析によって、SPTLC2遺伝子の変異を有する患者血漿において、セラミドなどのスフィンゴ脂質の合成が亢進していることを明らかにしました。これらの発見は、SPTLC2遺伝子が若年発症のALSおよびFTDの新規原因遺伝子であること、変異によるスフィンゴ脂質の代謝異常がALSおよびFTDの病態に寄与することを示しています。さらに今回脂質代謝の障害とALS発症を関連付ける病態メカニズムを遺伝学的に解明したことにより、特定の脂質代謝異常を是正することが新たなALSの治療の選択肢となり、今後の治療法の開発にもつながることが期待されます。

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(2024/3/1)

適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な資質の指標である「フードリテラシー」と食事の質との関連
~ 20~79歳の日本人5998人を対象としたオンライン質問票調査 ~

東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、同研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同研究科医療コミュニケーション学分野の奥原剛准教授らの研究グループは、20~79歳の日本人5998人を対象としたオンライン質問票調査を行ない、適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な資質の指標である「フードリテラシー」が高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食の質、昼食の質および夕食の質が高いことを明らかにしました。本研究は、一般の人々を対象としてフードリテラシーと食事の質との関連を包括的かつ網羅的に検討した世界で初めての研究です。本研究の成果は、一般の人々の食事の質を改善するための栄養教育のあり方や行動変容を目指した介入内容を考えるうえで重要な科学的根拠となることが期待されます。

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(2024/2/21)

過度の胃酸抑制は胃癌発生を助長する?
~ 胃酸分泌抑制薬の功罪 ~

東京大学医学部附属病院 消化器内科 新井絢也 医師、新倉量太 医師、早河翼 講師、藤城光弘 教授と、東京大学大学院医学系研究科 ヘルスサービスリサーチ講座 宮脇敦士 特任講師、公益財団法人 朝日生命成人病研究所 春日雅人 所長らによる研究グループは、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(以下、PCAB)使用がピロリ菌除菌後に発症する胃癌のリスクを高めることを明らかにしました。

本研究では大規模レセプトデータを用いたpopulation based studyにより、ピロリ菌除菌後の患者集団において、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(以下、H2RA)内0服群と比較してPCAB内服群の方が胃癌発症リスクが高いことを世界で初めて示しました。

先行研究では、もう一つの主要な酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とピロリ菌除菌後胃癌との関連が報告されてきましたが、今回新しい酸分泌抑制薬であるPCABにおいても同様の関連が存在することを示したことに関して新規性があり、この研究成果は今後の酸分泌抑制薬使用期間・内視鏡検査間隔の適正化やピロリ菌除菌後胃癌のリスク層別化に役立つことが期待されます。

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(2024/2/15)

日本人はどのメディアから栄養や食事についての情報を得ているか
~ オンライン質問票調査 ~

東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、同研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同研究科医療コミュニケーション学分野の奥原剛准教授らの研究グループは、20~79歳の日本人5998人を対象としたオンライン質問票調査を行ない、日本人はテレビ(32.9%)、ウェブ検索(22.2%)、特定のウェブサイト(16.6%)、新聞(15.0%)、本や雑誌(11.6%)、動画サイト(10.6%)といった幅広いメディアから栄養や食事についての情報を得ていることを明らかにしました。本研究は、一般の人々が栄養や食事に関する情報をさまざまなメディアから得ていることを明らかにした世界で初めての研究です。本研究の成果は、栄養や食事についての信頼できる情報を、社会に向けどのように発信・普及すればよいかを議論・検討するための科学的根拠となることが期待されます。

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(2024/2/15)

ゲノムの暗黒領域が膵がん悪性化に関わる機序を解明
~ 反復配列由来の二重鎖RNAが膵がん細胞の上皮間葉転換を誘導する ~

東京大学医学部附属病院 消化器内科の岩田琢磨 届出研究員、岸川孝弘 助教、藤城光弘 教授らによる研究グループは、ゲノムの高度反復配列から転写されるHuman Satellite II(HSATII)と呼ばれるRNAが二重鎖を形成することによって、膵がん細胞の悪性化を促進する可能性があることを明らかにしました。ゲノムの約半分を占める反復配列領域は機能を持たないジャンク領域と考えられていましたが、本研究ではこのゲノムの暗黒大陸からの転写産物が二重鎖を作りやすいという特徴に着目し、過剰に蓄積した二重鎖HSATII RNAがその結合タンパク質であるSTRBPの機能に干渉することで、上皮間葉転換に関連する遺伝子のスプライシングパターンを変化させることを見出しました。反復配列領域の転写制御機構はゲノム解析の発展した現在においても未解明な部分が多く、難治がんに対する新しい側面からの病態解明、治療法の開拓の礎となることが期待されます。

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(2024/2/14)

自己免疫疾患の制御に関わる新たな加齢関連T細胞を発見
~ 自己免疫疾患制御から健康長寿社会の実現に期待 ~

東京大学医学部附属病院 アレルギー・リウマチ内科 後藤 愛佳 病院診療医、高橋 秀侑 助教、吉田 良知 特任臨床医(研究当時)、同大学大学院医学系研究科 免疫疾患機能ゲノム学講座の太田 峰人 特任助教(研究当時)、岡村 僚久 特任准教授、同大学院生体防御腫瘍内科学講座 アレルギー・リウマチ学 藤尾 圭志 教授らによる研究グループは、理化学研究所 生命医科学研究センター 中野 正博 学振特別研究員、石垣 和慶 チームリーダー、山本 一彦 チームリーダーらとの共同研究において、自己免疫疾患の病態制御に関わる新たな加齢関連T細胞を発見しました。

自己免疫疾患は、免疫という本来は身体を守る仕組みに異常が起こり、自分の組織を攻撃してしまう病気です。その発症には遺伝的および環境的な要因が関与しますが、自己免疫疾患の多くが中年以降に発症のピークを迎えることから、「加齢」も重要な要因として知られています。また、免疫学的な細胞レベルでの老化が、自己免疫疾患の発症に関わっているとも考えられています。

本研究では、加齢で増加するT細胞を発見し、「ThA(Age-associated helper T/加齢関連ヘルパーT)細胞」と名付けました。ThA細胞は、若年齢の自己免疫疾患でも増加し、その細胞は健康な方のThA細胞とは性質が異なることが分かりました。

ThA細胞の機能を詳細に調べたところ、これまでは別々の細胞が担うと考えられていた、抗体産生を導く機能と、周囲の細胞を傷害する機能の2つを併せ持っていることが分かりました。加齢で増加し、かつこれら2つの機能を持つ細胞は、世界で初めての発見となります。

代表的な自己免疫疾患として、全身性エリテマトーデス(SLE)が知られています。SLEは、自分に対する抗体である様々な自己抗体が産生され、全身の臓器の障害を認める疾患であり、難病に指定されています。ThA細胞は若年齢のSLE症例でも増加しており、健康な方と比べB細胞の抗体産生を促進させる分子を非常に高く産生していることが分かりました。また、他のT細胞と比較して、ThA細胞の遺伝子発現の違いが、SLEの病気の勢いを最も強く反映していることが分かりました。

本研究では、ThA細胞の2つの機能はZEB2という遺伝子で制御されているということの特定にも成功しました。

今回の研究で得られた知見は、ThA細胞が、自己免疫応答と健康長寿の違いを知ることができる重要な細胞であることを示唆しており、自己免疫疾患の新たな治療法開発、健康長寿社会実現への展開が期待されます。この研究成果は、国際科学誌『Science Immunology(サイエンス・イムノロジー)』(オンライン版)にて、2024年2月8日(米国東部時間)に発表されました。

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(2024/2/9)

気候変動がもたらす未来の死者数、季節性の変化に迫る共同研究
~ 長崎大学と東京大学の国際共同研究成果をThe Lancet Planetary Healthにて発表 ~

長崎大学と東京大学は、国際共同研究により、将来的に気候変動に伴う死亡率の季節性が変化する可能性があることを明らかにしました(以下は中心となった各大学の研究者)。
〇 長崎大学 大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 マダニヤズ・リナ 准教授
〇 東京大学 大学院医学系研究科国際保健学専攻    橋爪 真弘 教授

本研究は、世界的な学術誌であるThe Lancet Planetary Healthに掲載され、多様な気候帯における死亡率の季節性が将来変化するかについて、体系的かつ包括的な評価を行いました。

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(2024/2/7)

腸内細菌の“飛び道具”が大腸がんの原因に
~ 腸内細菌が産生する膜小胞が引き起こす大腸がん発生メカニズムの解明 ~

東京大学医学部附属病院光学医療診療部の宮川佑特任臨床医、同院消化器内科の大塚基之講師(研究当時、現 岡山大学学術研究院医歯薬学域 教授)、藤城光弘教授らの研究グループは、口腔内細菌の一種であるアクチノマイセス・オドントリティカス(A. odontolyticus)が大腸がんの発癌初期の過程に密接に関与することを明らかにしました。これまでの腸内細菌のゲノム解析の結果から、A. odontolyticusが大腸がんの発癌早期の患者の便中に多く見られることが知られていましたが、この細菌の大腸がん発症への関与について(がんの原因なのか結果なのか)は不明でした。今回の研究で、A. odontolyticusが産生する細胞外小胞である膜小胞(Membrane vesicles:MVs)が、腸管上皮細胞の炎症を惹起すること、また腸管上皮細胞内の活性酸素種を増加させDNA損傷をもたらすことで、発癌を惹起する可能性が示されました。そのメカニズムとして、A. odontolyticus由来のMVsがToll様受容体2(TLR2)を介して大腸上皮に炎症性シグナルを誘導するとともに、MVsが腸管上皮細胞内に取り込まれてミトコンドリアの機能障害を引き起こすことで活性酸素種の過剰な産生をもたらし、その結果大腸上皮細胞のDNA損傷を惹起して、発癌に関与していることを同定しました。

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(2024/2/2)

引きこもり症状の持続と身体不調の増加は思春期の希死念慮リスクと関係
~ 東京ティーンコホートで精神症状の経時変化を網羅的に分析 ~

東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座の宇野晃人大学院生(医学博士課程)、安藤俊太郎准教授、笠井清登教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、同大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻教育心理学講座の宇佐美慧准教授、東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長らの研究グループは、一般の思春期児童2,780人のさまざまな精神症状の経時変化を網羅的に分析し、思春期児童の精神症状のなかでも持続する引きこもり症状と増加する身体不調の希死念慮リスクが高いことを見出しました。思春期の精神症状の自殺リスクは経時変化のパターン(持続、増加、減少など)によって異なることがわかっていますが、過去の研究ではそれぞれ一種類の症状の経時変化しか検討されていませんでした。本研究はさまざまな精神症状の経時変化のパターンを同時に分析することで、他の症状の影響を考慮した上でそれぞれの症状の希死念慮リスクを評価した初めての研究です。本研究の知見から、さまざまな精神症状のなかでも、持続する引きこもり症状と増加する身体不調が思春期の自殺予防のために重要であることが示唆されます。地域生活のなかで思春期児童と関わる幅広い人々がこれらの症状の自殺リスクに注意を払い、自殺予防のための支援につなげていくきっかけになることが期待されます。

なお、本研究は米国医学雑誌「JAMA Network Open」(オンライン版:米国東部標準時1月25日)に掲載されました。

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(2024/1/26)

不眠症に対する認知行動療法の有効な要素を解明

東京大学医学部附属病院精神神経科の古川由己特任臨床医、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康要因学講座健康増進・行動学の坂田昌嗣助教、江戸川大学社会学部人間心理学科の山本隆一郎教授、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の中島俊准教授(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター室長(研究当時))らの研究グループは、系統的レビューと要素ネットワークメタアナリシスを実施し、不眠症の認知行動療法の有効な要素を明らかにしました。

本研究では、最先端の統計解析手法である要素ネットワークメタアナリシスを用いることで、複数の要素の組み合わせから成る不眠症の認知行動療法の要素ごとの有効性を世界で初めて推定しました。不眠症に対して認知行動療法が有効であることは実証されていましたが、複数の要素のうちのどの要素が有効なのかは知られていませんでした。本研究では、認知行動療法の構成要素まで詳細に検討することで、全体としてだけでなく要素ごとの有効性を検証し、睡眠制限法・刺激統制法・認知再構成・第3世代の手法(マインドフルネス等)・対面提供が有効であることを明らかにしました。一方、臨床現場でよく用いられている睡眠衛生指導やリラクゼーションの有効性は示されませんでした。この研究成果は今後、有効性の高い要素を含み、有効性の低い要素を省略した、効果的かつ効率的なプログラムの開発に繋がり、不眠症の認知行動療法の今後の普及を促進し、多くの方が悩む不眠症の改善につながることが期待されます。

本研究成果は、米国の医学誌「JAMA Psychiatry」(オンライン版)にて1月17日(米国東部標準時)に発表されました。

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(2024/1/18)

パーキンソン病病因タンパク質LRRK2の活性化をもたらす機構を解明

東京大学大学院医学系研究科・神経病理学分野の桑原知樹講師、江口智也大学院生(研究当時、現:分子生物学分野助教)、櫻井まりあ特任研究員、岩坪威教授らのグループは、パーキンソン病(PD)の病因タンパク質LRRK2が細胞小器官であるリソソームへのストレスに応答して活性化する分子機構を明らかにしました。LRRK2は家族性および孤発性PDにかかわるタンパク質リン酸化酵素であり、その異常な活性化がPDの背景にあることが示唆されていますが、活性化の分子メカニズムや意義については多くが不明でした。研究グループは、リソソームにストレスを負荷するとLRRK2が活性化するという発見をきっかけとして、リソソーム制御機構との関連を検討した結果、細胞内自己分解経路であるオートファジーに類似した「ATG8一重膜結合機構」がLRRK2を制御することを見出しました。この機構はLRRK2をリソソーム膜上に局在化させることで活性化し、結果としてリソソームの形態調節や内容物放出に至ることが分かりました。これらの結果は、LRRK2の異常活性化機構の理解につながるとともに、そのメカニズムへの介在がPDの治療戦略になる可能性を示すものです。本研究成果は、日本時間2024年1月16日にJournal of Cell Biology誌に掲載されました。

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(2024/1/17)

オートファゴソーム標準形態の実験的決定と数理モデル
~ オートファジーを司る膜構造体の形の特徴を実験と理論で解明 ~

東京大学大学院医学系研究科の境祐二助教(現:京都大学医生物学研究所特定准教授)、水島昇教授らの研究グループは、オートファジーを仲介するオートファゴソームの形成過程を三次元電子顕微鏡法により網羅的かつ統計的に調査することで、その標準形態を決定しました。その結果、形成中のオートファゴソームは、今まで思われていたような単純な部分球ではなく、縦に細長く伸びたカップ状であり、その縁は外側に反り返ったカテノイド曲面であるという特徴をもつことがわかりました。

この形態的特徴を理解するために、膜の曲げ弾性エネルギーに基づく数理モデルを構築しました。得られた数理モデルは、電子顕微鏡法で観察されたオートファゴソーム形成時の形態を定量的に再現しました。これらの結果から、オートファゴソーム膜は非常に柔軟であり、その形成過程の形態的特徴は主に膜の曲げ弾性エネルギーの最小化によって決定されることが示唆されました。本研究成果は、一見複雑に見えるオートファジーの膜動態が、単純な物理機構に基づく理論モデルによって解析できることを示しています。今後、膜動態の計測とそれに基づく数理解析とを組み合わせることで、オートファジーのメカニズムについてより統合的な理解が進むことが期待されます。

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(2024/1/12)

生命科学・医学研究のデジタルトランスフォーメーション(リモートバイオDX)実現に向けた連携協定を締結
~ 日本初となるバイオ研究分野へのIOWNの活用 ~

国立大学法人 東京大学 大学院医学系研究科(研究科長:南學 正臣)、医学部附属病院(病院長:田中 栄)、東日本電信電話株式会社(代表取締役社長:澁谷 直樹、以下NTT東日本)、日本電子株式会社(代表取締役社長兼CEO:大井 泉、以下日本電子)、株式会社ニコン(代表取締役兼社長執行役員:馬立 稔和、以下ニコン)、株式会社ニコンソリューションズ(代表取締役兼社長執行役員:園田 晴久、以下ニコンソリューションズ)は生命科学・医学分野において今後必須となる大規模データの共有と利活用、遠隔での実験等を可能にするリモート研究環境の構築および、その基盤となる要素技術やシステム開発により、我が国における研究デジタルトランスフォーメーション(リモートバイオDX)を推進する連携協定を2023年12月21日に締結しました。

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(2023/12/21)

AIで子宮肉腫の術前診断を自動化するシステムを開発

東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻の曾根献文准教授、豊原佑典大学院生、大須賀穣教授、東京大学医学部附属病院放射線科の黒川遼助教ならびに、サイオステクノロジー株式会社の野田勝彦、吉田要らの研究グループは、診断精度を向上させるため医師が行っているAIが学習するための画像選別作業を自動化することに成功し、新たに「子宮肉腫自動診断AI」を開発しました。

子宮肉腫は予後の悪い希少がんで、変性を伴う子宮筋腫との識別が難しい場合があります。子宮肉腫と子宮筋腫とでは治療方針が異なるため正確な術前診断が求められますが、識別にはMRIの画像診断が有用とされています。本研究では、子宮肉腫と子宮筋腫(計263例)の術前MRI画像を用いて、深層学習および評価を行いました。その結果、交差検証に使用したデータセットに対する子宮肉腫自動診断AIの成績は正診率89.32%となり、加えて、交差検証に使用していない未知のデータセット(計32例)を評価したところ正診率92.44%という成績が得られました。

AIが診断するためには、病変部位を含む画像のみの選別を医師が行う必要があり、社会実装するうえでの課題となっていましたが、自動化することで、子宮肉腫や子宮筋腫だけにとどまらず、臨床現場で得られた全てのMRI画像をそのままAIに入力することが可能となりました。今後、臨床現場でのさらなる応用が期待できます。本研究成果は、国際学術誌「Journal of Gynecologic Oncology」の本掲載に先立ち、12月20日(日本時間)にOnline First Articlesにて掲載されました。

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(2023/12/20)

日本人の栄養素摂取量は適切か
~ 8日間秤量食事記録に基づく全国規模調査 ~

東京大学大学院医学系研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、佐々木敏東京大学名誉教授らの研究グループは、1~79歳の日本人4450人を対象に全国規模の食事記録調査を行ない、28種類の栄養素の習慣的摂取量について、摂取量が不足や過剰である者の割合を明らかにしました。

食事改善のためには、栄養素の摂取量が適切であるかどうかを評価することが重要です。食事摂取量は日々、あるいは季節によって大きく変動するため、栄養素摂取量を評価する際には、複数日の食事調査に基づく個々人の習慣的摂取量を用いる必要があります。例年、日本では国民健康・栄養調査が行われていますが、この調査で得られるのは1日のみの世帯レベルでの食事データです。ほかに小規模な研究がいくつかありますが、対象集団の特性や居住地、季節が限定されていたため、日本人の習慣的な栄養素摂取量はほとんど明らかになっていませんでした。

そこで本研究の目的は、日本人の習慣的な栄養素摂取量を算出し、摂取量が適切であるか評価することとしました。まず、32都道府県に住む1~79歳の日本人4450人を対象に、各季節に2日ずつ、合計8日間の秤量食事記録調査を行ないました。さらに、MSM(Multiple Source Method)という統計手法を用いて、28種類の栄養素について個々人の習慣的摂取量を算出しました。それらの値を、日本人の食事摂取基準2020年版の各指標と比較して、各種栄養素の摂取量が不足あるいは過剰である者の割合を調べました。

その結果、ほとんどの栄養素において習慣的摂取量が推定平均必要量を下回る者が一定割合いることがわかりました。特に、カルシウムの摂取量が推定平均必要量を下回る者の割合はすべての性・年齢層で高く(29~88%)、鉄の摂取量は12~64歳の女性で不足している者の割合が高い(79~95%)ことがわかりました。また、目標量については、たんぱく質、食物繊維、カリウムで、習慣的摂取量が目標量の下限値を下回る者の割合が一定割合いることがわかりました。さらに、すべての性・年齢層の20%以上で総脂肪と飽和脂肪酸の摂取量が目標量の上限値を超えており、88%以上でナトリウム(食塩)が目標量の上限値を超えていました。

本研究は、日本人の大規模集団において習慣的な栄養素摂取量を算出し、適切であるかどうかを評価した世界で初めての研究です。本研究の成果は、日本において栄養素摂取状況を改善するための公衆栄養政策を決定する上で重要な資料になると考えられます。

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(2023/12/19)

助けを求められず自殺リスクの高い思春期児童の一群を深層学習技術で同定
~ 東京ティーンコホートの児童本人と養育者による評価から ~

東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座の長岡大樹大学院生(医学博士課程)、安藤俊太郎准教授、笠井清登教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、同大学大学院教育学研究科教育心理学講座の宇佐美慧准教授、東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長らの研究グループは、一般の思春期児童2,344人の多様な精神症状の変化のパターンが特徴的な5つのグループに分かれることと、そのうちの1つは周囲に助けを求められない傾向を持ち、本人の苦痛が養育者から見逃されて自傷や希死念慮のリスクが高い一群であることを見出しました。

思春期児童本人と養育者が評価した思春期児童における多くの精神症状とその時間経過に伴う変化について、同時に扱うことを深層学習技術により可能とし、精神病理の複雑な変化のパターンとその特徴を検証できた初めての研究です。本研究の知見は、思春期児童の主観的な体験に耳を傾ける重要性と、周囲に助けを求められない苦痛を抱える児童の存在に光を当てることで、社会として思春期児童を支援する枠組みを構築するための土台となることが期待されます。

なお、本研究は英国医学雑誌「The Lancet Regional Health ―Western Pacific」(オンライン版:協定世界時12月13日)に掲載されました。

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(2023/12/14)

超加工食品の摂取量と食に関する知識や技術、価値観、行動特性との関連
~ 日本人成人を対象とした質問票調査 ~

東京大学大学院医学系研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、佐々木敏東京大学名誉教授らの研究グループは、日本人成人2232人を対象に全国規模の質問票調査を行ない、超加工食品の摂取量と、食に関する知識や技術、価値観、行動特性などとの間に関連があることを明らかにしました。

超加工食品とは、複数の食材を工業的に配合して製造された、加工の程度が非常に高い食品のことであり、市販の菓子パンや清涼飲料などがその代表例です。超加工食品は、脂質やナトリウムを多く含む一方で、たんぱく質や食物繊維、ビタミン・ミネラル類の含有量が少ないため、多く食べると食事全体の質が低下する可能性があります。また、超加工食品の摂取は肥満や心血管疾患など関連があることが報告されています。よりよい食行動への変容を人々に促すためには、食品の摂取に関わる個人の内的要因(価値観や知識など)を理解することが重要です。しかし、このような研究はほとんどなく、超加工食品の摂取に関連する内的要因はほとんど明らかになっていませんでした。そこで本研究では、日本人成人を対象とした全国規模の食事調査のデータを用いて、超加工食品の摂取量と食に関する知識や技術、価値観、行動特性との関連性を評価しました。

本研究は、2018年に日本の32都道府県に住む18~80歳の日本人成人2232人から得られた質問票調査のデータを使用しました。質問票を用いて、食の知識、調理技術、食品選択に関する価値観(入手しやすさ、利便性、健康・体重管理、伝統、感覚的魅力、オーガニック、快適さ、安全性)、食品に関する技術(食事の計画など)、食行動の特性(満腹感反応性、感情的過食など)を評価しました。また、超加工食品の摂取重量を、簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)とノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者らが開発した食品分類の枠組みを用いて調べました。そして、超加工食品の摂取量と個人特性(年齢、BMI、食品選択の価値観、栄養知識、調理技術、食行動の特性)との間に関連があるかどうかを、重回帰分析を用いて調べました。

結果として、女性では、年齢が高く、栄養に関する知識が多く、食の安全性を重視する人ほど、超加工食品の摂取量が少ないことがわかりました。一方、男性では、調理技術が高い人ほど、超加工商品の摂取量が多いことがわかりました。また、男女ともに、満腹感を感じやすい人ほど、超加工商品の摂取量が多いことがわかりました。

本研究は、超加工食品の摂取量と食に関する知識や技術、価値観、行動特性との関連を包括的に評価した世界で初めての研究です。これまでの研究では、日本における超加工食品の摂取量は米国や英国よりは少ないものの、フランス、オーストラリア、メキシコなどの多くの国々と同程度であることがわかっています(Shinozaki N, et al. Nutrients. 2023;15(5):1295)。本研究の成果は、日本において超加工食品の摂取に関する公衆栄養政策を決定する上での重要な資料になると考えられます。

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(2023/12/11)

WHO推奨の母乳率指標は使用方法に注意
~ 病院での支援の必要性を軽視 ~

東京大学大学院医学系研究科の名西講師、柴沼講師、グリーン客員研究員、本郷客員研究員らによる研究グループは、地域の母乳育児の状況を評価するための指標としてWHO推奨の24時間思い出し法を用いると適切な保健政策につながらない可能性があることを示しました。

母乳育児は母子の健康にとって重要であるため、母乳育児がしやすくなるような保健政策が求められます。そのような保健政策の立案、実施、改善には、ある国や地域で、母乳で育つ子どもの割合はどれだけか、特に支援を必要とするのはどのような人たちなのか、その支援には効果があるのか、といった母乳育児の状況を評価するための指標が必要です。そのような指標の一つとして、WHOは簡便に測定できる24時間思い出し法による6か月未満児の母乳率(注1:以下、「24時間思い出し法」)を推奨しています。

しかし、今回の研究から、「24時間思い出し法」は、1)母乳のみで育つ子どもの割合を大幅に過大評価し、2)病院でのケアの必要性を過少評価する一方で母乳育児したいという母親の意思の必要性を不当に重視してしまうことが分かりました。一方で、研究参加者に出産直後から生後5か月までの授乳方法を思い出してもらうと、母親の意思や産科的、社会的な状況によらず、病院での適切な支援こそが母乳育児の実践につながることが明確に示されました。

以上から、「24時間思い出し法」のみで母乳育児の実施状況を判断して保健政策を立案したり支援の効果を判定したりすることは適切ではないことが分かりました。今回の研究結果は、母乳育児を保護し推進するための適切な支援と保健政策に役立てられることが期待されます。

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(2023/12/8)

悪性度の高い子宮頸癌の原因となるHPV18型の標的細胞とウイルス複製の特徴を解明

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科の田口歩届出研究員、東京大学大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学専攻の豊原佑典大学院生、曾根献文准教授、大須賀穣教授ならびに、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の松永浩子次席研究員、早稲田大学大学院先進理工学研究科生命医科学専攻の竹山春子教授らの研究グループは、子宮頸癌の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の中でも悪性度の高い癌の原因とされるHPV18型の標的細胞に注目し、HPV18型の複製に関与する細胞内分子NPM3の同定に成功しました。

子宮頸癌は、HPVが子宮頸部のSCJ部位に感染すると細胞内でHPV初期プロモーターという遺伝子領域が活性化します。本研究グループは、HPV18型初期プロモーター下流に発光蛋白遺伝子を組み込んだベクターを作製し、患者由来のSCJオルガノイドに導入する世界初の実験を行いました。さらに、次世代シーケンサーを用い、シングルセル解析によって、初期プロモーターが活性化した個々の細胞の特徴を解析しました。これにより、SCJの中でもより未分化な細胞内でHPV18型初期プロモーターが活性化しやすいことや、ヒストンシャペロン蛋白であるNPM3がHPV18型ウイルスの複製に関わっていることを解明しました。

本研究成果は、日本癌学会誌「Cancer Science」の本掲載に先立ち、11月24日にオンライン版で掲載されました。

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(2023/11/24)

食事と栄養に関するオンライン情報の特徴
~ 日本と米国の比較 ~

東京大学大学院医学系研究科の村上健太郎教授、篠崎奈々特任助教、奥原剛准教授らによる研究グループは、日本語で書かれた、食事と栄養に関するオンライン情報の多くは、1)編者や著者を明記していない(54%)、2)広告を含んでいる(58%)、3)参考文献がない(60%)、という問題があることを明らかにしました。本研究は、日本語で書かれた、食事と栄養に関するオンライン情報(合計1703個)を網羅的かつ系統的に収集・分析した初めての試みです。今回の研究成果は、食事と栄養に関するオンライン情報をどのように扱っていくべきかを科学的に議論・検討するための基礎資料となることが期待されます。

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(2023/11/17)

乳がんの再発を起こす原因細胞を解明

金沢大学がん進展制御研究所/新学術創成研究機構の後藤典子教授、帝京大学先端総合研究機構の岡本康司教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木穣教授、東京大学定量生命科学研究所の中戸隆一郎准教授、東京大学大学院医学系研究科乳腺・内分泌外科学の田辺真彦准教授、京都大学大学院医学系研究科の小川誠司教授、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の浅原弘嗣教授、神奈川県立がんセンター臨床研究所の宮城洋平所長、佐藤慎哉医長らの共同研究グループは、乳がん再発の原因細胞の取り出しに成功しました。

乳がんは、日本や欧米など世界的に女性が罹患する最も多いがんです。最新の統計では、生涯のうちに日本人女性の9人に1人が乳がんに罹患することが見込まれ、さらに、罹患者数のみならず死亡数も増加傾向にあり、大きな問題になっています。診断技術や分子標的薬の進歩などにより、治癒を見込める乳がん症例が増えてきている一方で、完治したはずの乳がんが、数年~10数年後に転移再発して不幸な転帰をたどる症例が一定数あることが、死亡数増加の要因の一つとなっています。

手術前に、抗がん剤や分子標的薬による全身治療を行う「術前全身治療」後、手術切除した乳腺組織内にがん細胞が残存する症例では、転移再発しやすいことが知られています。この転移再発を起こすがん細胞が、抗がん剤などの治療に対して抵抗性を示すメカニズムは不明です。このメカニズムが分かれば、転移再発を減らして乳がんによる死亡数を減少させられると考えられます。

本研究では、幹細胞の性質を持つ、いわゆる「がん幹細胞」の細胞集団の中に、抗がん剤などの治療に対して最も耐性を示す亜集団を見いだして、取り出すことに成功しました。さらに、古くより心不全の治療に用いられてきた強心配糖体を用いることにより、この治療抵抗性のがん幹細胞亜集団を死滅させられることを見いだしました。本知見は、強心配糖体を組み合わせた術前化学療法を行うことにより、乳がん再発を予防できる可能性を示し、乳がんの撲滅に貢献できることが期待されます。

本研究成果は、2023年11月15日12時(米国東部標準時間)に国際学術誌『Journal of Clinical Investigation』のオンライン版に掲載されました。

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(2023/11/16)

指定難病 間質性膀胱炎(ハンナ型)に対する核酸アプタマーを用いた新規治療法を開発
~ インターフェロン-γ抑制による治療効果を疾患モデルで証明 ~

東京大学医学部附属病院泌尿器科・男性科の秋山佳之講師、久米春喜教授と杏林大学医学部間質性膀胱炎医学講座の本間之夫特任教授、アイオワ大学泌尿器科のLuo Yi教授、タグシクス・バイオ株式会社の堀美幸創薬研究開発部長らによる研究グループは、膀胱の粘膜に慢性炎症・びらんが生じ、膀胱痛や頻尿・尿意切迫といった症状を来す、原因不明の難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)において、患者臨床サンプルを用いた包括的なゲノム病理解析を実施しました。その結果、同疾患の炎症特性としてTh1/17型免疫応答の亢進を突き止めるとともに、治療標的としてインターフェロン-γ(IFN-γ)を同定しました。さらに、タグシクス・バイオ株式会社が有する独自の人工核酸技術を用いてIFN-γに高親和性・特異性を有する核酸アプタマー(抗マウスIFN-γアプタマー)を創製し、間質性膀胱炎(ハンナ型)疾患モデルマウスにおいて、膀胱内投与による高い治療効果を実証しました。本研究成果は抗IFN-γアプタマーによる間質性膀胱炎(ハンナ型)の新規治療法開発につながることが期待されます。

東本研究成果は科学誌「iScience」(2023年11月17日付)の本掲載に先立ち、11月9日にオンラインにて公開されました。

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(2023/11/15)

食と健康に関する一般書は適切な根拠を示しているか?
~ 日本と米国の比較 ~

東京大学大学院医学系研究科の大野 富美 大学院生、足立 里穂 大学院生(当時)、村上 健太郎 教授、佐々木 敏 東京大学名誉教授らによる研究グループは、食と健康に関する一般書において、米国と比較して日本では引用されている文献の質および引用にあたり記載されている書誌情報の質が不十分であることを明らかとしました。

日本や米国では、約2-3割の人が一般書から食や健康に関する情報を入手しています。信頼できる栄養情報の第一歩として、情報の根拠を提示すること、すなわち、引用文献を明記することは必要不可欠です。しかしながら、これまで一般書の引用文献についてはほとんど調べられてきませんでした。そこで、日米各100冊、合計200冊を調査し、引用文献の記載の有無と、引用文献の種類(例:研究論文)、引用文献の書き方(文献が一意に特定可能か)など、引用文献の特徴を明らかにしました。

日米どちらも約2/3の一般書が引用文献を提示していましたが、引用文献の特徴は大きく異なりました。人を対象とした学術研究を引用した一般書は、日本(29冊)では米国(58冊)よりも少なく、100件以上の文献を引用した一般書は、日本5冊、米国37冊でした。さらに、引用文献を提示していた一般書のうち、全ての引用文献が特定可能となるよう十分な書誌情報を記載していたものは日本では64%だったのに対し、米国では97%でした。本研究により、信頼できる栄養情報の普及に向け、著者、出版社、読者などに引用文献の重要性が認識されるよう働きかける必要性が示唆されました。引用文献の提示は根拠に基づいた情報の必要条件であって十分条件ではないため、今後は情報の正確性を調べる研究への発展が期待されます。

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(2023/11/15)

脳予測に関わる誤差信号が高次聴覚野から一次聴覚野へフィードバックすることを発見
~ ミスマッチ陰性電位の正体の一端が判明 ~

理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チームの小原慶太郎基礎科学特別研究員(研究当時)、東京大学大学院医学系研究科細胞分子生理学分野の松崎政紀教授(理化学研究所脳神経科学研究センター脳機能動態学連携研究チーム チームリーダー)、山梨大学医学部の宇賀貴紀教授、理化学研究所脳神経科学研究センター高次脳機能分子解析チームの山森哲雄チームリーダー(研究当時、現 触知覚生理学研究チーム 客員主管研究員)、自然科学研究機構生理学研究所の小林憲太准教授、自治医科大学の水上浩明教授、東京大学医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授らの研究チームは、霊長類コモンマーモセットの大脳皮質聴覚野の神経活動を高い空間解像度でイメージングすることで、同一の音がある時間間隔で繰り返して鳴っているときに、予測できない音(逸脱音)が入り込むとその直後に、高次聴覚野前方部から一次聴覚野へ予測誤差信号がフィードバックすること、これが一次聴覚野の逸脱音に特異的な反応成分(ミスマッチ陰性電位)の正体であることを明らかにしました。

今回の成果は、統合失調症患者で減弱するミスマッチ陰性電位のメカニズム解明へつながり、統合失調症をもたらす精神疾患に対する新たな治療方法の開発が期待できます。誤差信号のフィードバックの発見は、私たちの大脳皮質の学習原理の解明にも大きく貢献するものです。

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(2023/11/14)

アディポネクチン受容体を活性化する抗体を初めて取得
~ 月1回投与による糖尿病・非アルコール性脂肪性肝炎の新たな治療薬になることが期待される ~

東京大学の山内敏正教授、門脇孝名誉教授(現・虎の門病院 院長)、岩部(岡田)美紀特任准教授、日本医科大学の岩部真人大学院教授、田辺三菱製薬株式会社の浅原尚美、和田浩一、岡幸蔵(創薬本部)らによる研究グループは、半減期の長いアディポネクチン受容体活性化抗体を取得し、アディポネクチンと同様にアディポネクチン受容体活性化を有すること、肥満糖尿病あるいは非アルコール性脂肪性肝炎を発症したマウスにおいて治療効果を有することを明らかにしました。

半減期の長いアディポネクチン受容体活性化抗体は世界で初めての報告である点で新規性があり、この研究成果は、治療効果の持続と服薬アドヒアランスの点で今後役立つ可能性があることが期待されます。

本研究成果は、日本時間2023年11月11日に米国科学誌「Science Advances」に掲載されました。

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(2023/11/13)

心筋DNA損傷を指標とした心不全患者の治療応答性や生命予後の高精度予測法を開発

東京大学大学院医学系研究科重症心不全治療開発講座の候聡志特任助教、同大学大学院医学系研究科の戴哲皓大学院生(医学博士課程)、同大学大学院医学系研究科先端循環器医科学講座の野村征太郎特任准教授、小室一成特任教授と、奈良県立医科大学附属病院循環器内科の尾上健児講師、奈良県立病院機構奈良県西和医療センターの斎藤能彦総長らによる研究グループは、心不全患者において心筋DNA損傷の程度を調べることにより生命予後の予測が可能となることを明らかにしました。

本研究では心筋生検組織を用いてDNA損傷の程度を評価する方法を開発し、それにより心不全の原因疾患に関係なく、心臓収縮機能の低下した心不全患者ではDNA損傷の程度に比例して治療応答性や生命予後が悪化することが明らかとなりました。本研究は心不全領域における個別化医療・精密医療の実践に直結するのみならず、DNA損傷が多岐にわたる原因疾患によって生じる心不全の共通した病態であることを示唆しており、今後の心不全研究に役立つことが期待されます。

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(2023/11/7)

日本人の腸内微生物叢・ヒトゲノム・血中代謝物の関連が明らかに
~ 日本人集団初の大規模データベースを構築 ~

大阪大学大学院医学系研究科の大学院生(研究当時)の友藤嘉彦さん(遺伝統計学)、岸川敏博 特任助教(研究当時、遺伝統計学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学 教授)らの研究グループは、メタゲノムショットガンシークエンシングやマススペクトロメトリーを用いて、日本人集団最大524名を対象に、腸内微生物叢情報、ヒトゲノム情報、血中代謝物情報からなるマルチオミクス情報を構築しました。そして、構築したマルチオミクス情報を用いて、オミクスデータ間の関連を網羅的に探索しました。

研究グループは、ゲノムワイド関連解析(Genome-wide association analysis; GWAS)によって、腸内細菌とヒトゲノムとの関連を網羅的に探索し、腸内細菌と関連する遺伝子多型を複数同定しました。また、腸内微生物由来遺伝子とヒトゲノムとの関連を網羅的に探索し、ABO血液型を規定する遺伝子多型と、A型血液型抗原を構成するN-アセチルガラクトサミンの代謝に関わる微生物由来遺伝子であるagaE及びagaSとの関連を同定しました。

腸内細菌と血中代謝物との関連を網羅的に探索したところ、胆汁酸と複数種の腸内細菌とが関連を持っていることが明らかになりました。さらに、腸内微生物由来遺伝子と血中代謝物との関連を網羅的に探索したところ、胆汁酸代謝に関与する微生物由来遺伝子が血中の胆汁酸の量と関連を持っていることがわかりました。

本研究成果によって、日本人における腸内微生物叢・ヒトゲノム・血中代謝物の関連が初めて網羅的に明らかになりました。本研究で構築された網羅的なデータベースは公共データベースとして公開されており、今後の医学・生物学研究の発展に資すると期待されます。

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(2023/11/7)

宮園浩平名誉教授が文化功労者として顕彰

この度、宮園浩平卓越教授が、がんの生化学・分子生物学分野における功績が認められ、令和5年度の文化功労者に選出されました。心よりお祝い申し上げます。

宮園先生は1981年に東京大学医学部をご卒業後、本学附属病院などで血液内科の臨床と研究に従事し、1985年からスウェーデンウプサラ大学医化学講座、その後、ルードヴィヒ癌研究所のCarl-Henrik Heldin教授の研究室に留学されました。1990年から同研究所で研究グループを主宰されたのち、1995年に財団法人癌研究会癌研究所生化学部長として帰国し、2000年に東京大学医学系研究科分子病理学分野教授に就任されました。在職中の2021年から東京大学卓越教授(医学系研究科応用病理学)および2022年からは理化学研究所理事・生命医科学研究センターのチームリーダーを務められています。

先生はTransforming Growth Factor-β (TGF-β)ファミリーのシグナル伝達機構に関する研究をライフワークとして推進されています。特にTGF-βファミリーのタンパク質のがん浸潤・転移に関わる分子機構を中心に、多くの研究成果をあげてこられました。2011年からは8年間にわたって医学系研究科長・医学部長として大学運営及び医学教育と研究者育成にも貢献され、2019年からの2年間は本学理事・副学長として人事や研究面の支援に携わられました。学外の公的な場でのご活躍も多く、内閣府、文科省、厚労省、AMEDなどを中心に、本邦のライフサイエンス分野の振興に重要な役割を担い続けていらっしゃいます。

これまでに2008年武田医学賞、2009年紫綬褒章、2010年藤原賞、2011年日本学士院賞、2018年日本癌学会吉田富三賞など数々の賞を受賞されました。2017年からは日本学士院会員に選定されています。宮園先生の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

(大学院医学系研究科・医学部 鯉沼代造)

(2023/11/6)

谷口維紹名誉教授が文化勲章を受章

このたび、本学名誉教授、先端科学技術研究センターフェローの谷口維紹先生が文化勲章を受章されました。谷口維紹先生は日本の組換えDNA研究の先駆者として、分子生物学・遺伝子工学の発展に多大な貢献を果たされました。特にサイトカインと総称される免疫調節分子群の研究分野において、日本が世界をリードする学問的基盤を築かれました。すなわち、遺伝子工学的手法を駆使し、いち早くヒト遺伝子のクローニングを試み、1979年に他に先駆けてウイルスの増殖を抑制するサイトカイン=インターフェロン(IFN-β)の遺伝子の単離に成功し、その分子構造を世界で初めて解き明かしました。さらに時を置かずして、免疫応答の中心を担うリンパ球の増殖を司るサイトカイン=インターロイキン2(IL-2)の遺伝子を単離しその分子構造を解明しました。谷口先生はまた組み換え型のIFN-βとIL-2の生産に世界で初めて成功し、サイトカインを生物学的製剤として実用化する道を切り拓きました。これらのサイトカインは現在、がんの免疫療法や難治性ウイルス感染症など実臨床の場で治療薬として広く使用されています。先生の研究は更にサイトカインの発現を調節する転写因子ファミリーの発見とその転写ネットワークの解明にまで広がり、現在も生命現象の根幹に関わるサイトカインシグナル伝達機構の理解に向けた画期的な成果を挙げておられます。

谷口維紹先生は、東京教育大学理学部をご卒業後、チューリッヒ大学大学院を修了、がん研究会がん研究所生化学部長、大阪大学細胞工学センター教授を経て1995年に本学医学系研究科・医学部免疫学教授に就任されました。2012年からは、本学生産技術研究所特任教授、 2020年から本学先端科学技術研究センターフェローをお務めです。

谷口維紹先生の研究は卓越した国際誌に多数掲載され、国際的に高く評価されてきました。1991年ロベルト・コッホ賞、2000年日本学士院賞など多数の賞を受賞され、2009年には文化功労者として顕彰、 2021年には瑞宝重光章を受章されています。さらに、人材育成や科学政策立案にも貢献されました。医生物学の世界にパラダイムシフトをもたらしただけでなく、科学者の社会貢献を実践し、本学の学生・研究者を鼓舞し夢と希望を与えてきました。

谷口維紹先生のご受章を心からお慶び申し上げますとともに、ますますのご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。

(大学院医学系研究科・医学部 高柳広)

(2023/11/6)

99%が水からできた固体なのに、水となじみにくい「ゲル・ゲル相分離材料」を発明
~ その場で生体組織を再生することができる革新的な足場材料の可能性 ~

東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡教授、石川昇平助教、作道直幸特任准教授と、同大学大学院医学系研究科の北條宏徳准教授、理化学研究所生命機能科学研究センターの岡田康志チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科・大学院理学系研究科 教授)、北海道大学大学院先端生命科学研究院のLi Xiang准教授の研究グループは、水溶性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)(関連のプレスリリース①)の網目が大量の水を保持したPEGハイドロゲルにおいて、新しい相分離現象「ゲル・ゲル相分離」(Gel–Gel Phase Separation, GGPS)を発見しました。ハイドロゲル(以下、ゲルと省略)は、多くの水を含む固体の材料で、ゼリーや寒天などの食品をはじめ、ソフトコンタクトレンズや止血剤などの医療機器としても用いられている私たちになじみの深い材料です。ゲル・ゲル相分離は、含水率99%程度の大量の水を含む状態でゲルを効率的に作ることで誘起されました。ゲル・ゲル相分離により、希薄ゲルの中に100µm程度の濃厚ゲルの繊維状網目が張り巡らされ、細胞外マトリックス類似のスポンジ構造を持つ「ゲル・ゲル相分離材料」が形成されました。驚くべきことに、ゲル・ゲル相分離材料は疎水性を示しました。PEGはドラッグデリバリー、組織工学、診断など多様な医学的用途に広く利用されており、その有用性から50万報を超える学術論文が出版されていますが、今回発見されたような疎水性スポンジ構造の自発的な形成過程の観察例はありませんでした。さらに、ゲル・ゲル相分離材料をモデル動物の皮下に埋め込んだところ、周囲から細胞が入り込み、血管を含む脂肪組織が形成されました。このような、特異的な生体組織親和性は従来のPEGゲルでは全く見られません。これらの結果より、生体内において細胞が入り込み、その場で組織再生を促す足場材料としての可能性が示されました。本研究成果は、「Nature Materials」のオンライン版で公開されました。

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(2023/10/31)

過去最大規模の免疫フェノタイプ解析で自己免疫疾患の患者を層別化
~ 関節リウマチもしくは全身性エリテマトーデスの免疫フェノタイプに近い患者群に分類されることが判明 ~

大阪大学大学院医学系研究科の岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)、産業医科大学医学部の田中良哉 教授、中山田真吾 准教授、田中宏明 大学院生(第1内科学講座)、東京女子医科大学 医学部の針谷正祥 教授(膠原病リウマチ内科)、猪狩勝則 特任教授(整形外科)らの研究グループは、約1,000名の自己免疫疾患の患者を対象に、46種類の免疫細胞の状態を調べる免疫フェノタイプ解析を実施し、詳細な臨床情報や個人のゲノム情報と統合するオミクス解析を実施しました。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、ANCA関連血管炎、特発性炎症性筋疾患、乾癬、IgG4関連疾患、混合性結合組織病、強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、巨細胞性動脈炎、と11種類の自己免疫疾患が対象となる過去最大規模の解析となりました。

自己免疫疾患の病態や発症には多彩な免疫細胞の働きが複雑に組み合わさり、同じ疾患の患者群の中でも、複数の異なる病態が混在しています。今回、研究グループは、11の自己免疫疾患の患者を対象に免疫フェノタイプ解析を実施し、自己免疫疾患や免疫細胞が構成するネットワークを明らかにすることに成功しました。「どの免疫細胞がどの自己免疫疾患の発症に関わっているのか」、という長年の謎に答える成果となりました。

自己免疫疾患患者全体を免疫フェノタイプにより分類したところ、主に関節リウマチの免疫フェノタイプに近い患者群と、全身性エリテマトーデスの免疫フェノタイプに近い患者群の2群に大きく分類されることが判明しました。一方で、関節リウマチ患者の中にも、どちらかというと全身性エリテマトーデスに近い免疫フェノタイプを有する患者が少数存在することが判明し、このような患者では特定の免疫細胞の減少(例:制御性T細胞)や治療反応性の悪さ(例:生物学的製剤投与後の関節炎改善度)が認められることが明らかとなりました。

さらに、大規模疾患ゲノム解析手法であるゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果に基づき個人のゲノム情報から疾患発症リスクを定量化するポリジェニックリスクスコア(PRS)を算出し、免疫フェノタイプとの関わりを検討しました。その結果、関節リウマチに合併する間質性肺疾患のGWASに基づくPRSと樹状細胞の関連が明らかとなり、これは同病態における樹状細胞の関与を示す結果と考えられました。

本研究で同定されたさまざまな自己免疫疾患を特徴づける免疫フェノタイプ情報や、自己免疫疾患患者の分類方法に関する研究が今後加速することで、自己免疫疾患の更なる病態解明と個人の病態に最適な個別化医療の提供につながることが期待されます。

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(2023/10/31)

睡眠制御における転写後プロセスの役割を解明
~ 睡眠を乱す意外な方法 ~

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター合成生物学研究チームのアーサー・ミリウス研究員(研究当時、現大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任研究員)、山田陸裕客員研究員(大阪大学大学院医学系研究科特任研究員)、上田泰己チームリーダー、クイーンズランド工科大学のディミトリ・ペリン准教授らの国際共同研究グループは、体内時計遺伝子のmRNA(メッセンジャーRNA)中に、タンパク質合成を制御し睡眠覚醒サイクルに影響を与えるリボソーム結合配列を発見しました。

本研究成果は、睡眠異常とそれに関連する遺伝子変異の同定と検証を進める上で重要で基礎的な知識です。

私たちの体内に備わっている体内時計は、日常の活動を制御し健康を維持するために不可欠です。体内時計遺伝子は転写ネットワークを構成し、互いに抑制したり活性化したりし合うことで、概日周期と呼ばれる約24時間の発現周期を刻んでいます。体内時計遺伝子では、mRNAとその翻訳産物であるタンパク質の発現のピークに時間差があることが分かっていますが、この時間差を生み出す仕組みやその生物学的な意義についてはこれまで不明でした。

国際共同研究グループは、タンパク質翻訳装置であるリボソームが約24時間周期でリズミカルにmRNAに結合し、mRNAの翻訳を時間的に制御していることを明らかにしました。この結合配列を変異させたマウスは睡眠時間が減少したことから、転写後プロセスが体内時計および睡眠制御において極めて重要であることが示されました。

本研究は、科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』オンライン版(9月28日付)に掲載されました。

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(2023/10/25)

胃を構成する細胞の空間情報を含めたアトラスの作成
~ 新たな上皮幹細胞マーカーや腸上皮化生に関わる線維芽細胞の同定 ~

東京大学大学院医学系研究科 衛生学分野の坪坂歩 大学院生、石川俊平 教授らの研究グループは、人体病理学・病理診断学分野の牛久哲男 教授、消化管外科学の瀬戸泰之 教授らのグループとともに、ヒトの胃の137,610細胞のシングルセルRNA-seq及び244,445細胞の空間遺伝子発現解析を行いました。上皮細胞のシングルセルRNA-seq解析では、正常な胃粘膜および腸上皮化生に共通する上皮細胞の幹細胞マーカーとして新たにLEFTY1を同定しました。線維芽細胞の解析では、腸上皮化生の上皮性変化に先行して、線維芽細胞の亜集団(PDGFRA・BMP4・WNT5A陽性線維芽細胞)が増加することを明らかにしました。空間遺伝子発現解析では、シングルセルRNA-seqで同定された細胞の組織内局在を明らかにすることにより、腸上皮化生上皮細胞とPDGFRA・BMP4・WNT5A陽性線維芽細胞が強く相互作用していることを明らかにしました。

今回の結果から、胃上皮のホメオスタシスの研究や胃がんの発生の研究に繋がる可能性が期待されます。本研究成果は、米科学誌『Cell Reports』に2023年10月10日に公開されました。

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(2023/10/13)

労働者の精神健康の保持・増進はどうあるべきか
~ 6つの提言 ~

東京大学大学院医学系研究科の川上憲人特任教授は、海外の共同研究者と共同で、労働者の精神健康の保持・増進について2つのことを明らかにしました。第1に、仕事と精神障害の発症との関係について、労働環境のストレスがうつ病性障害の発症リスクを増加するという科学的証拠が一貫して観察されていることを、系統的レビューを集めた文献レビューから示しました。第2に、労働者の精神健康を保持・増進する職場での介入についてこれまでの研究をレビューし、労働者個人に焦点を当てた介入が多く、これに比べて労働環境の改善に向けた介入が少ないことを明らかにしました。以上に基づき、6つの推奨事項を提案しました。これらは、科学的根拠に基づき職場のメンタルヘルス対策の方向性を包括的に示したものであり、意義深いと考えられます。

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(2023/10/13)

ライターの規制導入が火遊びによる火災の減少と関連
~ チャイルドレジスタンス機能の法的な義務化がカギ ~

東京大学大学院医学系研究科の稲田晴彦准教授と筑波大学医学医療系の市川政雄教授による研究グループは、2011年9月にチャイルドレジスタンス機能が付いていない使い捨てライターや多目的ライターの販売が禁止されたあと、子どもがライターで火遊びをして起こした火災数がどのように変化したのか調べました。その結果、火災は義務化直後に減少するとともに、その後数年間減少が続いていました。

ライターのチャイルドレジスタンス機能を法的に義務化することで子どもが火遊びをして起こす火災が減少することが米国の先行研究で示されていますが、米国外の研究はなく、また、義務化後に経時的にどのように減少するか明らかになっていませんでした。本研究で、全国の1998年から2017年の時系列データを用いて分析した結果、義務化直後とその後数年間の減少が見られました。数年間減少が続いたことは新たな知見で、義務化前から市中に出回っていた従来型のライターがなくなるのに少なくとも数年間を要したことが示唆されました。

今後ライターのチャイルドレジスタンス機能の義務化が諸外国に広がっていくことが期待されますが、その際に、義務化に加えて、市中のライターを回収するといったプログラムを同時に実施すると、火災を減らす効果が高まる可能性があります。

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(2023/10/12)

思春期における心理的困難さと脳の発達との関連を解明

東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻精神医学分野医学博士課程の臼井香大学院生(研究当時/現・国立精神・神経医療研究センター リサーチフェロー)、笠井清登教授、東京大学バリアフリー支援室の切原賢治准教授らの研究グループは、思春期を対象としたコホート研究を行い、13歳から16歳における心理的困難さの変化と脳波により測定されるミスマッチ陰性電位の変化が関連することを明らかにしました。

さらに、16歳の時に心理的困難さが高いグループでは13歳から16歳におけるミスマッチ陰性電位が年齢とともに低下する一方、心理的困難さが低いグループでは低下しないことを明らかにしました。

これまでの研究で、思春期における脳の発達と心理的困難さとの関連が報告されていますが、その多くが、精神疾患やそのリスクの高い方を主な対象としていたり、一時点における脳の指標と心理的困難さを調べたりしたものでした。本研究では、思春期一般人口で生じる心理的困難さの変化とミスマッチ陰性電位の発達的な変化が関連することを初めて明らかにしました。思春期は心の発達に重要な時期であり、今回の結果は、思春期の心の不調のメカニズム解明に役立つ可能性があり、心の健康増進に貢献することが期待されます。

なお、本研究は米国科学誌「Cerebral Cortex」(オンライン版:10月10日)に掲載されました。

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(2023/10/10)

AIによる肝炎ウィルス治療後の発癌リスクの定量化
~ 患者毎の発癌リスクを基にした個別化診療に期待 ~

東京大学医学部附属病院 消化器内科の南達也 助教、検査部の佐藤雅哉 講師(消化器内科医)、建石良介 准教授、藤城光弘 教授、小池和彦 東京大学名誉教授らの研究グループは、C型肝炎ウィルス(HCV: Hepatitis C virus)駆除後の肝癌発症リスクを患者毎に定量化する人工知能(AI)モデルを開発し、診療で使用可能なwebアプリとして公開しました。

近年の治療技術の進歩により、肝癌の重要な原因ウィルスであるHCVは、ほぼ全患者において駆除が可能になりました。しかし、C型肝炎ウィルスの駆除後にも肝癌は発生し、肝炎ウィルス駆除後に肝癌を発症するリスクは患者毎に大きく異なります。肝癌発生のリスクは年齢、性別、BMI[Body mass index]といった患者背景や肝臓の状態などの様々な因子の影響を受けるため、患者毎の発癌リスクの見積もりが難しく、効率的なサーベイランスシステムの構築が喫緊の課題になっています。

本研究で開発されたAIモデルは、webアプリを通じて臨床現場で使用することができ、患者データを入力することで個々の患者の発癌リスクの出力が可能です。AIモデルを診療に活用することで、個々の患者の発癌リスクに応じた新たな個別化診療への貢献が期待されます。

なお、本研究成果は9月14日(現地時間)に学術誌「Journal of Hepatology」オンライン版にて発表されました。

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(2023/9/21)

脳のゆらぎを取り入れてAIを安全にする
~ 深層ニューラルネットワークの隠れ層にゆらぎを導入し脆弱性を軽減 ~

東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 統合生理学分野の大木研一教授と浮田純平大学院生(研究当時)の研究チームは、深層ニューラルネットワークに脳の神経細胞を模したゆらぎを導入することで、深層ニューラルネットワークが持つ脆弱性の一部が軽減できることを明らかにしました。

現在、人工知能(AI)の進化が加速度的に進んでいますが、その基礎となる構造は深層ニューラルネットワークに基づいています。しかし深層ニューラルネットワークは、敵対的攻撃と呼ばれる悪意のある攻撃によって、人間とは明らかに異なる出力をするように騙されてしまうことが知られています。例えば自動運転車に搭載された画像認識AIは、「止まれ」の道路標識を正しく「止まれ」と認識して車が停止する必要があります。しかし敵対的攻撃によって生成された「止まれ」の道路標識は、人間が見ると明らかに「止まれ」の標識であっても、画像認識AIは正しく認識できません。結果、車が停止できず、交通事故につながる恐れがあります。このように、AIを社会実装する上で、敵対的攻撃に対する脆弱性は大きな課題の一つです。

人間など動物の脳の性質をAIに取り入れることで、このような脆弱性を克服できる可能性があります。本研究チームは、脳の神経細胞が持つゆらぎを参考に深層ニューラルネットワークにゆらぎを導入することで、特定のタイプの脆弱性が軽減できることを明らかにしました。この方法を用いることで、より人間などの動物の振る舞いに近いAIが作成できる可能性が高くなると考えられます。

本研究は、Beyond AI 研究推進機構、日本医療研究開発機構(AMED)「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」、文部科学省科学研究費助成事業、CREST-JSTなどの支援を受けて行われました。本研究の成果はNeural Networks誌(9月15日オンライン版)に掲載されました。

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(2023/9/21)

肝癌の予後予測に革新をもたらすAI技術
~ ChatGPTの基盤技術、Transformerで精度が向上 ~

東京大学医学部附属病院 検査部の佐藤雅哉 講師(消化器内科医)、消化器内科の中塚拓馬 助教、建石良介 准教授、小池和彦 東京大学名誉教授、藤城光弘 教授らの研究グループは、ラジオ波焼灼術(RFA: Radiofrequency ablation)による根治術後の肝癌の予後予測モデルを、Transformerモデルを用いて開発し、Transformerによる予測モデルが従来の深層学習をベースにしたモデルよりも高い精度を示すことを世界で初めて示しました。

RFAは、肝癌に対する有用な根治術として、広く医療現場で採用されています。しかし、肝癌は再発の発生率が高く、予後の悪い肝癌も存在するため、治療の課題は依然として残っています。RFA治療後の肝癌の予後を正確に知ることは、肝癌患者に対する個別のインフォームド・コンセントの実施や、患者にとって最適な治療計画の決定にも重要です。

2017年にGoogle brainの研究チームによって開発されたAIモデルであるTransformerは、ChatGPT (Generative Pre-trained Transformer)のベースにもなっている人工知能(AI: Artificial intelligence)モデルであり、自然言語処理やコンピュータービジョン(CV: Computer vision)の分野において従来の深層学習の技術を凌駕する高い性能が報告されています。Transformerモデルを用いることで、RFA後の肝癌患者の予後をより正確に評価できる可能性があると考えられますが、Transformerモデルを用いて肝癌の予後の推定を行った報告はこれまでありませんでした。

Transformerを用いた機械学習モデルによる予測は、肝癌以外にも医療の様々な分野にも応用が可能であり、他分野への応用も期待されます。本研究成果は2023年9月9日(現地時間)に米国の学術誌「Hepatology International」オンライン版にて発表されました。

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(2023/9/14)

肺高血圧症の血管新生を制御するしくみを発見
~ 組織透明化技術で血管新生を立体的に可視化 ~

東京大学医学部附属病院の藤原隆行特任助教、武田憲文特任講師(病院)、小室一成特任教授らの研究グループは、肺高血圧症のモデルマウスにおいて、肺高血圧症の進展過程に特徴的な肺内の血管新生を立体的に可視化することに成功しました。この血管新生は低酸素負荷誘発性肺高血圧(酸素濃度8-10%程度の環境下で生じる肺高血圧)に対して代償的な役割を担っているとともに、転写共役因子PGC-1αにより制御されており、PGC-1α活性化薬により肺高血圧症が改善することを明らかにしました。

肺高血圧症は肺血管が狭くなることを特徴とする若年発症の難治疾患であり、肺移植を必要とする重症な患者さんも少なくありません。本研究グループは、組織透明化技術および多光子励起顕微鏡を用いて複数のモデルマウスの肺血管を立体的に可視化・評価することにより、肺高血圧症における血管新生の意義について検討を行いました。肺高血圧症においては、血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor:VEGF)の発現が増加していることが過去に報告されていますが、血管新生の意義については十分に解明されておらず、今回の結果を足がかりに血管疾患の病態解析や治療法の開発、肺高血圧症治療薬への応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「JCI Insight」(9月8日付:米国東部夏時間)に掲載されました。

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(2023/9/11)

診療ガイドラインの社会実装手法を初めて確立
~ 誰もが推奨される医療を受けられるようになることへの期待 ~

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所精神疾患病態研究部の橋本亮太部長を代表者とするEGUIDEプロジェクト(「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究:Effectiveness of GUIdeline for Dissemination and Education in psychiatric treatment」)(略称 EGUIDEプロジェクト)(特記事項に詳細あり)による、オールジャパンでの多施設共同研究体制のもと、2016年から2019年にかけて精神科病床を有する176の医療機関、782名の精神科医師が、統合失調症とうつ病のガイドライン講習を受講しました。参加医療機関の統合失調症患者7,405名とうつ病患者3,794名において、ガイドライン推奨治療の施行割合を、ガイドライン講習に参加した医師が担当しているか否かで比較し、ガイドライン講習の講習効果を検討しました。統合失調症では、推奨治療である他の向精神薬の併用の有無を問わない抗精神病薬単剤治療率、抗不安薬・睡眠薬の処方なし治療率、他の向精神薬の併用のない抗精神病薬単剤治療率が、受講医師の方が受講しない医師に比べ有意に高い結果でした。うつ病でも、推奨治療である他の向精神薬の併用のない抗うつ薬単剤治療率、抗不安薬・睡眠薬の処方なし治療率が、受講医師の方が受講しない医師に比べ有意に高かったことが明らかになりました。これらの結果から、ガイドラインの推奨治療の普及に対する、ガイドライン講習会の有効性を見出しました。

本研究成果は、日本時間2023年9月9日に「Psychiatry and Clinical Neurosciences」オンライン版に掲載されました。

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(2023/9/11)

「子ども睡眠健診」プロジェクト参加校(小・中・高)の第二次(2024年度前期)募集を開始

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター合成生物学研究チームの上田泰己チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学教室教授)らは、全国の学校の子ども(小中高生)を対象として、ウェアラブルデバイスを用いた睡眠測定を実施し、日本の子どもの睡眠実態の把握と、子ども・保護者に対して睡眠衛生に関する理解増進を推進する「子ども睡眠健診」プロジェクトを推進しています。この度、9月3日「睡眠の日」に合わせて、プロジェクトへの参加校の第二次募集(2024年度前期募集)を開始します。

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(2023/9/4)

ZOZOSUIT®を用いた側弯症検知
~ ZOZOSUIT®によって中等症以上の側弯症の検知に成功 ~

東京大学(所在地:東京都文京区 総長:藤井 輝夫)大学院医学系研究科 整形外科学の伊藤悠祐(医学博士課程)、田中栄教授、大島寧准教授、次世代運動器イメージング学講座の土肥透特任准教授[研究当時]、大友望特任助教[研究当時]、東京大学医学部附属病院 手術部の谷口優樹講師のグループ(以下、研究チーム)と株式会社ZOZO(本社:千葉県千葉市 代表取締役社長兼CEO:澤田 宏太郎)は、共同研究により、同社が開発した3D計測用ボディスーツZOZOSUIT®と検証用に開発した専用のスマートフォンアプリを用いて、主に若年世代の治療を要する可能性のある中等症以上の脊柱側弯症を検知することに成功しました。

思春期に多く発症する特発性側弯症は自覚症状に乏しく、なかなか気づきにくいことから学校検診にも組み込まれていますが、既存の検査法には、感度の問題や適切な時期に検知できない、などの様々な問題が指摘されてきました。今回の新たな方法では、コブ角25°以上の中等症以上の側弯症を感度95.3%で検知できることが明らかになりました。本方法を応用することで将来的には、検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返し行うことができるセルフスクリーニングツールの開発につながることが期待されます。本研究結果は米国の学術誌『Spine』(現地時間9月15日付)の本掲載に先立ち、2023年8月26日にオンラインにて公開されました。

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(2023/8/31)

インスリン抵抗性に関連するヒト腸内細菌の網羅的解析
~ 腸内細菌を利用した糖尿病の治療介入につながる成果 ~

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダー(神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)腸内細菌叢プロジェクトプロジェクトリーダー(研究当時))、窪田哲也上級研究員(研究当時、医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)国立健康・栄養研究所臨床栄養研究部長(研究当時)、KISTEC腸内細菌叢プロジェクトサブリーダー(研究当時))、竹内直志特別研究員(研究当時)、理研統合生命医科学研究センター(研究当時)の小安重夫センター長(研究当時、現理研生命医科学研究センター免疫細胞システム研究チームチームリーダー)、東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科の門脇孝教授(研究当時)、同病態栄養治療センター病態栄養治療部の窪田直人准教授らの共同研究グループは、2型糖尿病の基盤であるインスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」に関連する特徴的な腸内細菌および糞便代謝物を特定しました。

本研究成果は、2型糖尿病の発症予測や未病(前糖尿病)段階での治療介入などに貢献するものと期待されます。

今回、共同研究グループは、日本人306人の腸内細菌および糞便代謝物を網羅的に調べる統合オミクス解析を実施し、糞便中の果糖、ガラクトースなどの単糖類がインスリン抵抗性に関連することを発見しました。また、腸内細菌のうちAlistipes属はインスリン抵抗性、単糖類ともに負の相関を示したことから、Alistipes属にインスリン抵抗性の改善効果があると予測しました。実際に、Alistipes indistinctusをインスリン抵抗性モデルマウスに投与した結果、この細菌株にインスリン抵抗性の改善効果および腸管内単糖類の減少効果があることを突き止めました。

本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(8月30日付:日本時間8月31日)に掲載されました。

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(2023/8/31)

クライオ電子顕微鏡により、ゴルジ体の亜鉛輸送体による亜鉛輸送機構の全容を解明
~ 細胞の亜鉛恒常性維持機構の理解に大きな進展 ~

亜鉛は全ての生物において必須の微量金属イオンであり、分子レベルではタンパク質の立体構造形成や酵素の触媒機能、細胞や個体のレベルでは、遺伝子発現の制御、正常な成長、生殖機能、健康維持において重要な役割を担っています。東北大学多元物質科学研究所のHan Ba Bui学術研究員、渡部聡助教、稲葉謙次教授らの研究グループは、これまで、ゴルジ体に局在して亜鉛を運ぶ分子である亜鉛トランスポーターZnT7やZnT5/6, ZnT4が、ゴルジ体における亜鉛濃度を厳密に制御していることを明らかとしてきました。しかし、これら亜鉛トランスポーターの立体構造は未決定であり、亜鉛輸送の詳細なメカニズムは未解明でした。

今回、同研究グループは、クライオ電子顕微鏡単粒子解析を用いて、亜鉛トランスポーターZnT7の立体構造を2.2Å分解能という高分解能で構造決定することに世界で初めて成功しました。

さらに、亜鉛を放出する直前および直後の立体構造を捉えることにも成功し、亜鉛輸送の一連のステップのほぼ全ての可視化に成功しました。亜鉛トランスポーターファミリーの一般的な分子機構の解明につながることが期待されるばかりか、細胞内の亜鉛恒常性維持機構に関する理解が格段に進みました。

本研究成果は、2023年8月8日に科学雑誌Nature Communicationsに掲載されました。

なお、本研究成果は東北大学大学院情報科学研究科の木下賢吾教授、医学系研究科の加藤幸成教授、京都大学大学院医学研究科の野村紀通准教授、岩田想教授、および東京大学大学院医学系研究科の吉川雅英教授らとの共同研究により得られたものです。

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(2023/8/28)

細胞内の運び屋が荷物を安定化して運ぶ仕組みを解明
~ モーター分子キネシンが荷物を認識・安定化して輸送する分子機構を解明 ~

東京大学名誉教授、特任教授(研究当時)、順天堂大学特任教授廣川信隆博士、東京大学大学院医学系研究科蒋緒光大学院生(研究当時)、小川覚之助教(研究当時)を中心とする共同研究グループは、細胞内物質輸送に関わるモーター分子KIF3A/KIF3B/KAP3複合体と荷物APCタンパク質の複合体の溶液中構造を解析し、複合体の分子状態として、荷物を乗せていない伸びた状態と、荷物を認識した状態、荷物を強く結合した状態、さらにその中間的遷移段階を観察しました。複数の解析法を統合し、溶液中での構造変化と結合部位を詳細に解析し、細胞内輸送において荷物を認識して安定的に目的地まで運ぶ機構を明らかにしました。この研究によって細胞内輸送における荷物の認識機構が明らかとなり、細胞内輸送機構の障害との関わりが指摘される様々な疾患の発症機構の解明や治療法確立への基盤となると考えられます。

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(2023/8/24)

生きたES細胞で転写因子の機能を分子精度で定量
~ 分化多能性を維持する新機構を発見、再生医療への応用が期待 ~

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター先端バイオイメージング研究チームの渡邉朋信チームリーダー(広島大学原爆放射線医科学研究所教授)、細胞極性統御研究チームの岡田康志チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科教授・同大学院理学系研究科兼務)、広島大学両生類研究センターの岡本和子助教らの共同研究グループは、マウスES細胞で働く転写因子(Nanog、Oct4)の挙動を1分子精度で定量解析し、ES細胞の分化多能性を維持するための新しいメカニズムを発見しました。

本研究成果は、幹細胞研究分野に新たな知見をもたらすほか、iPS細胞の作製効率の向上や品質の安定化などに貢献するものと期待できます。

ES細胞は、体のどの細胞にも分化できる性質(分化多能性)を持っています。NanogとOct4は、ES細胞が分化多能性を維持するために必須の転写因子であり、自分自身の発現をそれぞれ促進させるとともに、互いの発現も促進させます。これまでNanogやOct4の細胞内での分子動態とクロマチン構造の変化、分化多能性との関連性は明らかにされていませんでした。

今回、共同研究グループはタンパク質1分子の運動を観察できる特殊な顕微鏡を用いて、マウスES細胞が分化する瞬間のNanogとOct4の動きを1分子精度で観察し、DNA上での滞留時間や頻度など物理的な挙動に関するさまざまな特徴を定量しました。解析の結果、Nanogは分化が始まるとDNA上に長くとどまるようになるなどの新たな相関を発見し、NanogとOct4が協働してES細胞の分化が進み過ぎないように制御するという新しい「負のフィードバック機構」の提案に至りました。

本研究は、科学雑誌『The EMBO Journal』オンライン版(8月23日付:日本時間8月23日)に掲載されました。

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(2023/8/24)

腸管のSIRT1 は腸管内分泌細胞数の重要な制御因子である
~ 腸管内分泌細胞数の増加による糖代謝改善効果に期待 ~

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の三浦雅臣特任臨床医、五十嵐正樹講師、山内敏正教授らによる研究グループは、腸管におけるNAD+依存性脱アセチル化酵素SIRT1が腸管内分泌細胞数を規定する重要な制御因子であることを明らかにしました。 まず始めに、腸管上皮において遺伝的にSIRT1が欠失したマウス(VilKOマウス)に高脂肪食を投与して、その表現型を解析しました。その結果、SIRT1が欠失したマウスでは、インクレチンの一つであるGLP-1を分泌する細胞の数が増加しており、GLP-1分泌も増大していました。そして、高脂肪食による体重増加が抑制されており、糖代謝も改善していました。次に、内分泌前駆細胞においてSIRT1が欠失したマウス(NgnKOマウス)を使用して、そのマウスに高脂肪食を投与し、その表現型を確認したところ、VilKOマウスと同様、GLP-1を分泌する細胞の数の増加と、GLP-1分泌の増大を認めました。また、腸管のSIRT1発現変化による内分泌細胞数調節の機序としてNueorgenin3という転写因子が関与していることが示唆されました。さらには、腸管オルガノイドを使用し、SIRT1発現変化によるWnt/βカテニンシグナルと細胞周期の変化が、腸管内分泌細胞数増加のメカニズムであることを明らかにしました。SIRT1発現変化による内分泌細胞数の調節は2型糖尿病や肥満への治療として期待されます。

本研究成果は、8月18日(現地時間)に米国の学術誌「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に掲載されました。

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(2023/8/23)

祖先的血管の再構成で進化した、陸上脊椎動物の心臓を支える新規な冠動脈

東京大学大学院医学系研究科の水上薫大学院生(研究当時)、東山大毅特任研究員、栗原裕基教授を中心とする研究チームは、哺乳類や鳥類、両生類、魚類など様々な動物の発生過程の比較をおこない、われわれの心臓に分布する冠動脈の進化的起源について新たな説を導きました。冠動脈とは心臓自体を栄養する血管系であり、この血管の閉塞がヒトの心筋梗塞の主な原因であるなど、正常な冠動脈は哺乳類の生存に不可欠なものです。しかし、その進化過程はこれまでよく分かっていませんでした。本研究では、われわれがもつタイプの冠動脈は羊膜類(哺乳類、鳥類、爬虫類を含むグループ)の祖先で初めて成立したものである可能性を示唆しています。羊膜類では、まず発生の過程で「ASV(aortic subepicardial vessels; 大動脈心外膜下血管)」という一次的な血管が鰓弓動脈(注1)から生じ、それが二次的に再構成されることによって心臓に近い位置に新たな冠動脈が作られます。これに対し、カエルやイモリなどの両生類では、ASV様の血管が生じるものの再構成が起こらず、同じ血管を成体でも使い続けていることが判明しました(図1)。また、多くの真骨魚類やサメにも心室表面には動脈の存在が知られており、長い間これらも「冠動脈」と呼ばれてきました。しかし、こうした魚の「冠動脈」は鰓弓から伸びて心臓に分布しており、羊膜類型冠動脈よりもむしろASVに近い構造であることが示唆されました。これらの結果は、われわれのもつ羊膜類型冠動脈のような生理機能に重要な構造が、脊椎動物の陸上進出ののち鰓の再編とともに新しく生まれた要素であることを意味します。同時に、本結果は冠動脈が頸部から枝分かれする状態など、いくつかの先天性心疾患の発症メカニズムを説明するものです。

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(2023/8/23)

脳体積による精神疾患の新たな分類を提案
~ 認知・社会機能と関連、精神疾患の新規診断法開発への発展に期待 ~

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所精神疾患病態研究部の橋本亮太部長、東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)の岡田直大特任准教授、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野/医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授(WPI-IRCN 主任研究者)らの研究グループは、認知ゲノム共同研究機構 Cognitive Genetics Collaborative Research Organization (COCORO) (特記事項に詳細あり)によるオールジャパンでの多施設共同研究体制のもと、日本全国の14の研究機関において、4大精神疾患(統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害、自閉スペクトラム症)の患者・当事者と健常者の計5604名(統合失調症 1500名、双極性障害 235名、大うつ病性障害 598名、自閉スペクトラム症 193名、健常者 3078名)よりMRI脳構造画像データを収集し、大脳皮質下領域構造についての大規模解析を行いました。まず、各疾患における大脳皮質下領域構造の体積の特徴を調べました。健常者と比較して、統合失調症、双極性障害、大うつ病性障害において側脳室の体積が大きく、統合失調症、双極性障害において海馬の体積が小さく、さらには統合失調症において、扁桃体、視床、側坐核の体積が小さく、尾状核、被殻、淡蒼球の体積が大きいことを見出しました。これらの結果は、米国のEnhancing Neuroimaging Genetics through Meta‒Analysis(ENIGMA)コンソーシアムより報告されていた多施設大規模研究の結果を概ね再現しました。次に、計5604名について大脳皮質下領域構造の体積によるクラスタリング解析を実施し、4つの類型(脳バイオタイプ)に分類されることを見出しました。またこの分類は、認知機能および社会機能と関連しました。本研究の成果は、近年進みつつある精神疾患の客観的診断法の開発に役立つと考えられます。

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(2023/8/7)

自己免疫疾患の治療につながる新たな脂質の発見

かずさDNA研究所は、東京大学、千葉大学と共同で、自己免疫疾患を引き起こす病原性Th17細胞の制御に関わる5つの脂質代謝酵素や機能性脂質を明らかにしました。

自己免疫疾患は、本来異物を排除する役割の免疫システムが、自分自身の正常な細胞や組織に対して過剰に反応し、症状を起こす疾患です。近年、この免疫システムが脂質の代謝と密接に関係していることがわかってきました。例えば、肥満になるとTh17細胞という白血球の一種が増加し、関節リウマチや炎症性腸疾患などの自己免疫疾患が引き起こされます。しかし、どのような脂質がどのような仕組みでTh17細胞を増加させるかは明らかではありませんでした。

今回、かずさDNA研究所の遠藤裕介室長の研究チームは、東京大学医学部の村上誠教授、千葉大学の中山俊憲学長らと共同で最先端の技術を駆使してTh17細胞の脂質代謝を詳細に解析しました。その結果、5つの脂質代謝酵素がTh17細胞を増加させること、脂質の一種であるLPE [1-18:1] がTh17細胞を増加させること、さらにLPE [1-18:1]はTh17細胞で遺伝子の発現を制御する主要なタンパク質と複合体を作ることでTh17細胞の増加に関わっている可能性があることを明らかにしました。

本研究の結果、Th17細胞を利用した自己免疫性炎症疾患の診断マーカーや治療法の開発、さらに脂質代謝経路を創薬のターゲットとすることでメタボリックシンドロームの克服にも貢献することが期待されます。

研究成果は国際学術雑誌 Science Immunologyにおいて、8月5日(土)に公開されました。

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(2023/8/07)

ウルソデオキシコール酸によるCOVID-19重症化抑止の可能性
~ IgG-N抗体価測定を併用した不顕性感染の評価を通じて ~

東京大学医学部附属病院感染制御部の奥新和也特任講師(病院)、堤武也教授らによる研究グループは、同院消化器内科の2023年1月から2月にかけての外来受診者を対象とした検討で、ウルソデオキシコール酸(UDCA)が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染率には影響を与えない一方で、不顕性感染を増加させる、つまり重症化を抑止する可能性があることを、日本ではじめて明らかにしました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症度は様々ですが、特に2022年以降主流となったオミクロン株では無症状から軽症の感染者が増加したため、医療機関で診断された有症状患者のみを対象とした検討では不顕性感染の評価が困難でした。

今回、外来受診者に対して問診に加えて、感染既往を評価できる新型コロナウイルスに対する免疫グロブリンG(IgG-N抗体)を測定することで、これらの未診断の感染者も含めた形で、より確かな感染率の検討を行うことができました。

今回の結果は、日本で開発され、長期の使用経験があり安全性が担保されているウルソデオキシコール酸またはその誘導体の、新型コロナウイルス感染症の重症化予防薬としてのリポジショニングの可能性を示唆する結果と考えられ、創薬や予防法の開発等へ向けて今後のさらなる研究の発展が期待されます。

本研究成果は、英国夏時間7月27日に「Journal of Internal Medicine」に掲載されました。

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(2023/8/2)

「エネルギー消費の促進」による肥満や糖尿病の治療を目指した概念実証研究
~ 褐色脂肪細胞の鍵因子NFIAはエネルギー消費を促進し炎症を抑制する ~

東京大学保健・健康推進本部 平池勇雄助教と同大学大学院医学系研究科 山内敏正教授らの研究グループは「エネルギー消費の促進」に基づく肥満や糖尿病の治療標的として期待される褐色脂肪細胞の鍵因子として研究グループが以前同定した転写因子nuclear factor I-A (NFIA)を脂肪細胞に高発現させた遺伝子改変マウスを作出し、NFIAがマウスにおいて肥満や糖尿病を改善させることを明らかにしました。メカニズム解析の結果、NFIAはエネルギー消費の促進作用に加えて慢性炎症の抑制作用も有しており、双方を介して抗肥満作用や抗糖尿病作用を発揮することを同定しました。NFIAは「エネルギー摂取の抑制」ではなく「エネルギー消費の促進」に基づく肥満や糖尿病の治療標的、また生活習慣病の本態のひとつである「慢性炎症」を抑制するための治療標的となる可能性があり、NFIAの発現量や作用を高める治療薬の開発につながることが期待されます。本研究成果は米国東部夏時間2023年7月24日に「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, PNAS)」に掲載されます。

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(2023/7/25)

脂肪酸代謝を介した脳の修復メカニズムを発見
~ 脂質を投与することにより脳梗塞後の神経症状が改善 ~

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 神経炎症修復学分野の中村朱里大学院生、酒井誠一郎助教、七田崇教授らと、東京大学大学院医学系研究科の村上誠教授らの研究グループは、東京都医学総合研究所、慶應義塾大学との共同研究で、脳梗塞後に産生される脂肪酸代謝物が脳梗塞巣周辺部に生き残った神経細胞に作用してシトルリン化酵素PADI4の発現を誘導し、PADI4によるヒストンタンパク質がシトルリン化されることによって神経修復で働く遺伝子の発現が増加する新たな神経修復メカニズムを発見しました。また、PADI4の発現を誘導する神経修復性の脂質を脳梗塞モデルマウスに投与すると、脳梗塞後の神経症状が改善されることを示しました。

この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」およびAMED-PRIME「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」、文部科学省科学研究費補助金、東レ科学振興会、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団、MSD生命科学財団、千里ライフサイエンス振興財団、小野医学研究財団の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Neuronに、2023年7月24日午前11時(米国東部夏時間)にオンライン版で発表されました。

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(2023/7/25)

指定難病 間質性膀胱炎(ハンナ型)の遺伝的背景を解明
~ 発症には複数のHLA遺伝子多型が関与していることを明らかに ~

東京大学医学部附属病院泌尿器科・男性科の秋山佳之講師、久米春喜教授と同大学大学院医学系研究科遺伝情報学の曽根原究人助教、岡田随象教授らによる研究グループは、膀胱の粘膜に慢性炎症・びらんが生じ、膀胱痛や頻尿・尿意切迫といった症状をきたす、原因不明の難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)のゲノムワイド関連解析を行い、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域内に存在する、複数のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子領域(HLA-DQB1、HLA-DPB1)の遺伝子多型が、その発症に関与していることを同定しました。希少疾患である間質性膀胱炎(ハンナ型)の遺伝的背景については、これまで不明でしたが、本研究は、初めてその発症に遺伝的要因が関わっていることを明らかにしました。同定された疾患感受性遺伝子領域は、免疫反応を調節する機能に関与しており、今後より詳細な間質性膀胱炎(ハンナ型)の病態機序の解明につながることが期待されます。将来的には、本研究成果は同疾患の新しい診断法や発症のリスク予測法、有用な治療薬の開発へつながることも期待されます。

本研究成果は科学誌「Cell Reports Medicine」(オンライン版:米国東部夏時間7月18日)に掲載されました。

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(2023/7/19)

発症早期にナファモスタット投与で新型コロナウイルス患者のウイルス量が減少
~ ナファモスタットメシル酸塩の探索的研究の結果より ~

東京大学医学部附属病院の森屋恭爾教授(研究当時)、瀬戸泰之教授、奥川周准教授、東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの井上純一郎特任教授らは、国内で抗凝固薬や膵炎の治療薬として広く用いられているナファモスタットメシル酸塩(以下ナファモスタット)が、発症早期の新型コロナウイルス感染症患者のSARS-CoV-2ウイルス量を減少させる効果を示すことを世界で初めて確認しました。ナファモスタットは、すでに承認されている抗ウイルス薬とは異なる作用を有しており、新型コロナウイルスが細胞内に侵入する際に利用するタンパク質分解酵素の活性を阻害することで抗ウイルス作用を発揮することが報告されています。

今回の研究成果から、ナファモスタットを発症早期の新型コロナウイルス患者に投与することで重症化の阻止や臨床症状の改善が期待され、ナファモスタットが新型コロナウイルス感染症の新たな抗ウイルス薬になる可能性が示唆されました。今後は、より安全な投与方法の開発とともに、より多くの症例数でのナファモスタット単剤および他剤との併用治療の臨床的有効性を検討することが必要です。

本研究成果は、日本時間7月8日に学術誌「International Journal of Antimicrobial Agents」に掲載されました。

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(2023/7/11)

なぜわれわれの内臓は左右非対称なのか?
~ 体の左右を決める仕組みの解明 ~

順天堂大学健康総合科学先端研究機構の廣川信隆特任教授(東京大学名誉教授)、東京大学大学院医学系研究科の田中庸介講師らの研究チームは、哺乳類の体が左右非対称に発生するために働く新しい機構を発見しました。発表者らは以前、分子モーターKIF3欠失マウスの研究を通して腹側ノードと呼ばれる胎児期の体の正中部にある凹みの中で、後方に倒れた一次線毛が高速で時計回りに回転することで左向きの胚体外液の流れ(ノード流)が生じることを同定しています(Nonaka et al., Cell 1998; Hirokawa et al., Cell 2006,他)。このノード流が線毛の後傾性と一定の回転方向によって左向きの方向性を生み出すことから、人体の左右対称性を初めて破る物理現象として注目されてきました。一方、内臓の非対称性の起源は、ノード左縁に特異的な細胞内カルシウムの線維芽細胞成長因子(FGFs)に依存する上昇によるものと考えられますが(Tanaka et al., Nature 2005、他)、左向きのノード流がいかにしてノード左縁のカルシウム上昇をもたらすかという「読み出し」の機構は依然として不明のままでした。廣川特任教授、田中講師らはこれまで細胞内の微小管というレールの上で様々な蛋白質を輸送するキネシン分子モーター群 KIFs を発見するとともに、それぞれの KIF 遺伝子をマウスで欠失させ、その働きを研究してきました。特に KIF3B マウスの研究からは、初期胚の左右非対称性を決定するノード流を発見するとともに、統合失調症や多指症を防ぐしくみの解明にも至りました。

今回、発表者らがノード流の研究を深めるため、細胞内のカルシウム上昇に関係する PKD1L1 ポリシスチンたんぱく質を蛍光で光るようにしたマウスを作製したところ、腹側ノードの内部からノード左端に向かって、ポリシスチンを含む線維状の構造が撚り合わさった「橋」がかかり、ポリシスチンがノード内部から左向きに移送されていく現象を発見しました。さらにノード左側に集積したポリシスチンが、ノーダルたんぱく質と結合することによって、細胞内のカルシウム上昇が起こります。こうして、ノード流が腹側ノード左側特異的にカルシウム上昇をもたらす機構の存在が明らかとなりました。

本研究の成果は「いかにして体の左右が異なって発生するのか」という発生生物学の根源的な課題への一つの回答であり、分子発生生物学の発展に大きく寄与します。たんぱく質の細胞外への新しい特殊移送機構の解明は、これをターゲットとした抗がん剤の開発など、種々の臨床応用も期待できます。

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(2023/7/7)

“適度な運動”が高血圧を改善するメカニズムをラットとヒトで解明
~ 頭の上下動による脳への物理的衝撃が好影響 ~

国立障害者リハビリテーションセンター、東京大学、国立循環器病研究センター、東京農工大学、九州大学、国際医療福祉大学、関西学院大学、群馬大学、東北大学、大阪大学大学院医学系研究科、岩井医療財団、新潟医療福祉大学、所沢ハートセンターの共同研究グループは、ラットを用いた実験とヒト成人を対象とした臨床試験にて、適度な運動が高血圧改善をもたらすメカニズムを発見しました。

軽いジョギング程度の運動中、足の着地時に頭部(脳)に伝わる適度な物理的衝撃により、脳内の組織液(間質液)が動きます。これにより脳内の血圧調節中枢の細胞に力学的な刺激が加わり、血圧を上げるタンパク質(アンジオテンシン受容体)の発現量が低下し、血圧低下が生じることが、高血圧ラットを用いた実験で分かりました。

さらに、この頭部への物理的衝撃を高血圧者(ヒト)に適用すると、高血圧が改善することを世界で初めて明らかにしました。

この結果は、適度な運動による健康維持・増進効果において、運動時に頭部に加わる適度な衝撃が重要である可能性を示すものであり、本成果は、英科学誌『Nature Biomedical Engineering』に掲載されました。

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(2023/7/7)

さまざまな種類のがんの発症に関わる遺伝子を明らかに
~ 乳がんと前立腺がんの間で「遺伝的素因」に共通部分があることが判明 ~

大阪大学大学院医学系研究科の大学院生 佐藤豪さん(博士課程)(遺伝統計学/消化器外科学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、バイオバンク・ジャパン(日本)やUKバイオバンク(英国)などで収集された計118万人のヒトゲノム情報を用いて、大規模なゲノム解析を実施しました。今回の研究では、胆道がん、乳がん、子宮頚がん、大腸がん、子宮体がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、肺がん、非ホジキンリンパ腫、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんの13種類を対象にがん種横断的な解析を行いました。

がんの発症には各個人の「遺伝的素因(生まれ持ったがんへのかかりやすさ)」が関与していることが知られています。今回、研究グループは、日本人および欧米人集団のゲノムデータを用いて、13種類のがんをまとめて解析対象とするゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、がんにおける「遺伝的素因」に影響を与える遺伝子多型を新たに10か所同定しました。この中には、さまざまな種類の複数のがんの発症に影響を与える遺伝子多型が含まれていました。また、がん同士の遺伝的相関を評価することで、乳がんと前立腺がんの間で「遺伝的素因」に共通部分があることが判明し、この関係は、日本人だけではなく欧米人においても認められることが分かりました。さらに、この乳がんと前立腺がんの関連に注目したゲノム解析を行うことで、この関連の背景となっている生物学的なパスウェイや細胞組織を明らかにしました。

本研究で同定されたさまざまな種類のがんの発症に関わる遺伝子に関する研究が今後加速することで、複数のがんをターゲットにした新規治療法の開発につながることが期待されます。また、がんにおける「遺伝的素因」の理解が進むことで、がんの予防や個別化医療の推進に資することが期待されます。

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(2023/7/5)

統合失調症の発症早期における聴覚関連脳波応答の特徴が明らかに

東京大学相談支援研究開発センターの多田真理子講師、東京大学医学部附属病院精神神経科の笠井清登教授らの研究グループは、精神病ハイリスクの方と統合失調症発症早期の患者で、聴覚ガンマオシレーションが低下する一方、自発ガンマオシレーションは変化しないことを明らかにしました。さらに聴覚ガンマオシレーションは、統合失調症発症早期の患者で、幻聴症状の強さと関連していました。

ガンマオシレーションは、神経細胞が発する信号のひとつで、脳の情報処理基盤に関わると考えられており、精神疾患で変化することが知られていました。中でも、音を聞かせた時にみられる聴覚ガンマオシレーションは、統合失調症で低下していることが知られる一方、音刺激と直接関連せず、脳から自然発生したガンマオシレーション(自発ガンマオシレーション)は上昇しているという報告があり、それぞれ異なる病態を示していると考えられていましたが、その関係は十分にわかっていませんでした。特に、発症早期の患者で、聴覚ガンマオシレーションと自発ガンマオシレーションがどのように変化しているのかは知られておらず、病状との関連は不明でした。

この結果は、統合失調症の発症や進行のメカニズム理解に役立つ可能性があり、今後の診断、治療法開発研究への応用が期待されます。

なお、本研究は米国科学誌「Translational Psychiatry」(オンライン版:6月27日)に掲載されました。

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(2023/6/27)

細胞内高次構造体の膜上でのダイナミックな挙動はどのように制御されているの?
~ オートファジーに必要なユニークな両親媒性αヘリックスの発見 ~

東京大学大学院医学系研究科の西村多喜特任講師と水島昇教授らの研究グループは、オートファジー関連(ATG)分子が構成する細胞内高次構造体の一つであるATG3~LC3複合体が膜と相互作用する詳細な分子メカニズムを明らかにしました。膜相互作用に関与する領域として両親媒性αヘリックスが知られていましたが、ATG3の両親媒性αヘリックスが一般的なものと比べてユニークな物理化学的な性質があることを、教師なし機械学習を用いた解析により見出しました。また、全原子分子動力学シミュレーションや生細胞イメージング観察により、ATG3~LC3複合体が膜上でオートファジーにおける効率的なLC3分子の脂質化反応に必要なダイナミックな挙動を示す動的な高次構造体であることや、ATG3の両親媒性αヘリックスのユニークな性質がその動態制御に重要であることを明らかにしました。本研究成果は細胞内の動的高次構造体と膜が相互作用する複雑な分子メカニズムを解析するための新たな方法論を提示するものであり、他の分子の制御機構解明への貢献が期待されます。

なお、本研究成果は米国時間6月23日に学会誌「Science Advances」に掲載されました。

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(2023/6/26)

適切な外来診療によって入院を防ぎうる疾患の院内死亡率がパンデミック初期に上昇

東京大学大学院医学系研究科の阿部計大(客員研究員)、宮脇敦士(助教)、国立国際医療研究センターの射場在紗(上級研究員)、ハーバードT.H.Chan公衆衛生大学院の河内一郎(教授)による共同研究グループは、日本のパンデミック初期において、「適切な外来診療によって入院を防ぎうる疾患(Ambulatory Care Sensitive Conditions: ACSCs)」による入院患者の死亡率がどう変化したのかを調査しました。その結果、ACSCsのうち、急性疾患の患者(胃腸炎や脱水のような急性発症の疾患)の院内死亡率や、患者の病院到着後24時間以内の院内死亡率が上昇していることが明らかになりました。院内死亡率の上昇は、院内死亡数の増加と入院患者数の減少によって説明されました。

これまでのカナダや米国、日本の先行研究では、パンデミック中にACSCsによる入院数が減少していることが報告されてきました。しかし、それが患者にとって良かったことだったのか(健康であったということなのか)、それとも本来は入院が必要であった患者が入院できなかったことを示しているのか明らかではありませんでした。本結果は、パンデミック期間中に、ACSCsの急性疾患患者(その多くは発熱等のCOVID-19類似症状をきたす)が、適切な外来および入院医療にアクセスできていなかった可能性を示唆しています。パンデミックにおいては、特に流行している疾患と同様の症状をきたし得る疾患の患者に対して、医療へのアクセスを十分に担保する対策が必要だと考えられます。

本研究結果は、2023年6月22日(米国東部夏時間)に米国医師会(American Medical Association)が発行する医学雑誌「JAMA Network Open」にオンライン掲載されました。

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(2023/6/23)

脳動脈瘤発生に重要な体細胞遺伝子変異を発見
~ 遺伝子変異に基づく分子標的薬開発の可能性 ~

理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター神経動態医科学連携研究チームの島康之上級研究員(研究当時)、中冨浩文チームリーダー(杏林大学医学部脳神経外科学教授)、太田仲郎客員研究員、脳神経医科学連携部門岡部繁男部門長(東京大学大学院医学系研究科神経細胞生物学分野教授)、生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの笹川翔太研究員、中川英刀チームリーダー、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻脳神経外科学分野の齊藤延人教授、山梨大学医学部生化学講座第一教室の金然正特任助教、大塚稔久教授らの国際共同研究グループは、ヒトの脳動脈瘤検体から脳動脈瘤の発生に重要な体細胞遺伝子変異を同定し、遺伝子導入によるマウス脳動脈瘤新生・抑制モデルを初めて樹立しました。

本研究成果は、開頭手術か血管内カテーテル治療しかない脳動脈瘤治療の現状に、薬物療法という第三の選択肢の可能性を開くと期待できます。

今回、国際共同研究グループは、外科手術時に摘出された脳動脈瘤の遺伝子を解析し、405個の遺伝子に体細胞遺伝子変異を同定しました。このうち90%以上の検体で変異が確認された16個の遺伝子は、炎症反応や腫瘍形成に関わる「NF-κBシグナル伝達経路」に関連しており、そのうちの6個の遺伝子の変異が嚢状動脈瘤と紡錘状動脈瘤の両方に共通することを発見しました。さらに、この6遺伝子の中で最も頻度の高かった「血小板由来成長因子受容体β(PDGFRβ)」の遺伝子変異をマウスに導入し、PDGFRβ遺伝子の変異によって実際に紡錘状動脈瘤様の拡張が起こること、その動脈瘤化をチロシンキナーゼ阻害剤の全身投与で抑制できることを証明しました。

本研究は、科学雑誌『Science Translational Medicine』オンライン版(6月14日付:日本時間6月15日)に掲載されました。

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(2023/6/15)

米国の2種類の医師(MDとDO)が治療した入院患者の死亡率は違うのか?

東京大学大学院医学系研究科の宮脇敦士助教、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介准教授らによる共同研究グループは、アメリカの65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、日本の医学部と同様の西洋医学のみを教える医学校(MD養成校)を卒業した医師と、オステオパシー医学を中心に教えてきた医学校(DO養成校)を卒業した医師が治療した入院患者のアウトカムは同等であることを明らかにしました。入院後30日での死亡率は、MD医師で9.4%、DO医師で9.5%とほとんど変わりませんでした。再入院率・入院日数・医療費・入院中の専門医へのコンサルテーションの回数やICUの利用率や退院先(自宅や介護施設など)、画像検査や臨床検査の利用も同等でした。

多数派のMD医師も少数派のDO医師も現在では制度上、施行できる手術や処方などの医療行為に違いはありません。しかし、MD医師のトレーニングとDO医師のトレーニングは多くは別々に行われています。近年DO養成校は劇的に増加しており、現在医学生の4人に1人はDO養成校に通っています。しかし、MD医師とDO医師の診療やそのアウトカムがどのように異なるのか、ほとんどわかっていませんでした。

本研究の結果は、MD養成校とDO養成校の間で、現在では、入院患者のアウトカムに影響を与えるような、教育内容の違いはみられないことを示しています。これはDO医師のアメリカの医療システムにおける役割がますます重要となっていることを考えると、安心できる結果です。また、MD養成校とDO養成校は、その成り立ちから過去には教育内容は大きく異なっていたことを考えると、医学教育・トレーニングにおいて、患者にとって重要な教育内容を標準化することが可能であることを例証していると考えられ、その点で日本にも示唆を与えてくれると考えています。

本研究成果は、2023年5月29日(米国東部夏時間)に米国内科学会(American College of Physicians)の「Annals of Internal Medicine」にオンライン掲載されました。

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(2023/5/30)

腸内微生物叢シークエンシングデータ中に存在するヒトゲノム由来配列からの個人情報の再構築

大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の友藤嘉彦さん(遺伝統計学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学分野 教授/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、腸内微生物叢シークエンシングデータ中に含まれるごくわずかなヒトゲノム由来配列情報に対して、新規開発手法を適用することで、性別および属する人種集団を高精度に推定できることを示しました。

また、腸内微生物叢シークエンシングデータ中のヒトゲノム由来配列を利用し、同一個人に由来する遺伝子多型データと腸内微生物叢シークエンシングデータの対応関係を高精度に推定できることを示しました。さらに、高深度に腸内微生物叢シークエンシングを行った場合、データ中に存在するヒトゲノム由来配列を用いることで、便検体から個人の遺伝子多型情報を再構築できることを示しました。

細菌やウイルスなど、数多くの微生物によって構成される腸内微生物叢は、宿主の健康状態に影響を与えることが知られています。近年の次世代シークエンシング技術の向上もあり、現在、多くの研究者達が便検体からの腸内微生物叢シークエンシング解析に取り組んでいます。腸内微生物叢シークエンシングを行うと、細菌やウイルスに由来する配列だけではなく、ごくわずかにヒトゲノム由来配列が得られることが知られていました。一般的に、遺伝子多型情報に代表されるヒトゲノム情報については、個人情報保護の観点から、慎重な取り扱いが必要とされます。しかし、腸内微生物叢シークエンシングデータ中のヒトゲノム由来配列については、その量があまりにも少なく、どれほどの個人情報が取得可能なのかが不明だったため、取り扱いについて明確な指針がないのが現状です。また、腸内微生物叢シークエンシングデータ中のヒトゲノム由来配列を有効活用できる可能性についても検討されていませんでした。

本研究成果によって、便検体及び腸内微生物叢シークエンシングデータ中に含まれるヒトゲノム由来配列を用いて、個人情報の再構築を行うことが出来ました。本研究成果は、データ共有時のプライバシーの保護や、ポリジェニック・リスク・スコアの構築などのデータの有効活用について議論する上で重要なリソースになることが期待され、健全かつ持続的な医学・生命科学研究の発展に資すると期待されます。本研究成果は、2023年5月16日(火)午前0時(日本時間)に英国科学誌「Nature Microbiology」(オンライン)に掲載されました。

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(2023/5/19)

子宮内膜のエピゲノム異常が着床不全を起こす
~ ヒストンメチル化による着床制御機構の解明 ~

東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科の藍川志津特任研究員、東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座の福井大和大学院生(医学博士課程:研究当時)、廣田泰准教授、大須賀穣教授らは、ヒト着床期子宮内膜や遺伝子改変マウスを用いた研究から、抑制的ヒストン修飾を介したエピゲノムの調節によって、子宮内膜に適切な細胞分化と正常な胚浸潤が起こることを世界で初めて明らかにしました。

不妊症は、全世界のカップルの15%が直面する健康問題です。生殖医療において体外受精・胚移植の技術進歩は目覚ましく、日本では全出生児の14人に1人が体外受精・胚移植によって誕生しています。その一方で、良好胚を選別し移植しているにも関わらず着床が成立しない着床不全が生殖医療最大の課題となっているものの、診断・治療法が確立していないのが現状です。本研究により難治性不妊症である着床不全の起こる仕組みが明らかになり、着床不全の新たな診断法開発に向けた臨床研究への展開が期待されています。

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(2023/5/18)

遺伝子治療の潜在的なリスクを減らす方法を開発
~ 革新的な治療の臨床応用に向けた礎として ~

東京大学大学院医学系研究科の加藤基大学院生(研究当時)、岡崎睦教授、東京大学医学部の栗田昌和講師と東京大学大学院工学系研究科の石川昇平助教、酒井崇匡教授らによる研究グループは、皮膚潰瘍表面をターゲットとしたアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)による遺伝子導入の効果を局在化させる方法を開発しました。

本研究グループが開発した医療用ゲル(テトラPEGシステム)、なかでも動的な共有結合をもつように設計されたPEGスライムをキャリアとして緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するAAVをマウスの皮膚潰瘍面に投与すると、キャリアを用いずに投与した場合と比較して、潰瘍表面付近の細胞におけるGFP発現頻度を低下させることなく、より深い部位や代表的な遠隔臓器である肝臓におけるGFP発現を減らすことができました。

高い自由度で溶解特性を調整することが可能なPEG高分子をドラッグデリバリーに用いることによって、局所的な病態を対象とした遺伝子治療に伴う潜在的な合併症発生のリスクを減らしうることが示唆されました。本研究グループが開発を進める生体内リプログラミングによる皮膚潰瘍治療、組織胎児化による複合的組織再生法など、強力な治療法の研究開発に応用されることが期待されます。

本研究成果は、5月16日(英国夏時間)に「Communications Biology」で公開されました。

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(2023/5/17)

新規ミトコンドリア分裂因子を発見
~ マイトファジーの過程におけるミトコンドリア分裂のメカニズムを解明 ~

ミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)は、オートファジーがミトコンドリアを選択的に分解する現象であり、ミトコンドリアの品質管理に重要な役割を果たします。マイトファジーの過程で、ミトコンドリアはオートファゴソームと呼ばれる球状の脂質膜に包まれます。この際に、大きなミトコンドリアが小さなオートファゴソームに包み込まれるメカニズムは、長らく不明でした。

新潟大学大学院医歯学総合研究科の福田智行准教授、古川健太郎医学部准教授、神吉智丈教授、微生物化学研究所の丸山達朗上級研究員、北海道大学遺伝子病制御研究所の野田展生教授らの研究グループは、新規のミトコンドリア分裂因子であるMitofissin(Mitochondrial fission protein、マイトフィッシン)を発見し、この因子がマイトファジーの際にミトコンドリアをオートファゴソームに収まる大きさに分裂させることを明らかにしました。また、Mitofissinは、ミトコンドリア膜に直接作用して膜を切断することができるため、分裂の機序に関するこれまでの概念を覆す新たなメカニズムで作用することも明らかにしました。本研究は、マイトファジーの分子機構について未解決であった問題を解明しただけではなく、オルガネラ(細胞小器官)の形態変形に関する全く新しいメカニズムの存在を明らかにした点でも、重要な成果です。

本研究は、生命創成探究センター/生理学研究所の村田和義特任教授、理化学研究所生命機能科学研究センターの岡田康志チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科教授)、新潟大学の芝田晋介教授、米国ミシガン大学Daniel J. Klionsky教授らとの共同研究で行われました。

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(2023/5/16)

日本人成人における超加工食品の摂取量と食事の質との関連

東京大学大学院医学系研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任研究員、村上健太郎特任教授らの研究グループは、日本人成人388人から得られた4日間にわたる詳細な食事記録データをもとに、超加工食品の摂取量を調査し、食事の質との関連を調べました。

超加工食品は、複数の食材を工業的に配合して製造された、加工の程度が非常に高い食品であり、多く摂取することで食事の質が低下する可能性があります。しかし、日本では超加工食品に関する栄養学研究はほとんどなく、超加工食品の摂取量や食事の質との関連は十分に明らかになっていません。そこで食事記録データから超加工食品の摂取量を推定したところ、超加工食品からのエネルギー(カロリー)摂取量は1日の総エネルギー摂取量の3~5割程度を占めていました。また、超加工食品からのエネルギー摂取量が多い人ほど、食事の質が低いことがわかりました。本研究は、日本において全国規模の食事調査のデータを用いて、超加工食品の摂取量および食事の質との関連性を評価した初めての研究であり、公衆栄養政策を決定する上での重要な資料になると考えられます。

本研究成果は、2023年4月24日(英国夏時間)に専門誌「Public Health Nutrition」のオンライン版に掲載されました。

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(2023/5/11)

食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連
~ 一般日本人成人を対象とした質問票調査 ~

東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野の村上健太郎助教、篠崎奈々客員研究員、佐々木敏教授らの研究グループ(所属と職位は研究当時)は、日本人成人2231人を対象に詳細な質問票調査を実施し、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を調べました。

この研究では、妥当性が確立している質問票を用いて、食の栄養学的質、食に関する価値観(便利さ重視、健康重視、有機食品重視など)、栄養に関する知識、料理技術、食全般に関わる技能、食行動(食を楽しむ傾向、食に関する好き嫌いが激しい傾向など)を調べました。その結果、男性では、食の栄養学的質が高い人ほど、有機食品を重視し、食に関する好き嫌いが少ない傾向にありました。女性では、食の栄養学的質が高い人ほど、健康を重視し、栄養に関する知識が豊富で、料理技術が高く、食に関する好き嫌いが少ない傾向にありました。

このようなテーマの研究は、欧米を中心に世界各地で行なわれてきましたが、食の評価が野菜や果物の摂取量のみであったり、栄養に関する知識のみを検討していたりなど、いずれも限定的な検討にとどまっており、その全貌は明らかになっていませんでした。本研究は、食の栄養学的質と食に関する価値観・知識・技術・行動との関連を包括的に評価した世界で初めての研究です。本研究の成果は、健康的な食事を目指した効果的な政策、教育・介入プログラムの科学的な基盤となると考えられます。

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(2023/4/26)

COVID-19重症化における自然免疫細胞の関わりを明らかに
~ シングルセル情報とゲノム情報の統合解析 ~

大阪大学大学院医学系研究科の枝廣龍哉 さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、白井雄也さん(博士課程)(遺伝統計学/呼吸器・免疫内科学)、熊ノ郷淳 教授(呼吸器・免疫内科学)、岡田随象 教授(遺伝統計学/東京大学医学系研究科 遺伝情報学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、PBMCのシングルセル情報と宿主ゲノム情報との統合解析を実施することにより、COVID-19重症化における自然免疫細胞の役割を明らかにしました。

COVID-19重症化には血液免疫細胞の応答異常が関与していることが報告されていますが、SARS-CoV-2感染に対する宿主の免疫応答は未だ不明な点が多くあります。また、大規模GWASによりCOVID-19重症化における宿主の遺伝的なリスクの寄与が明らかになっていますが、その病態機序は十分に解明されていませんでした。

今回、研究グループは、大阪大学が収集した日本人集団のCOVID-19患者73名と健常者75名のPBMCのシングルセル解析を実施するとともに、宿主ゲノム情報との統合解析を行いました。その結果、単球の中の希少細胞種であるCD14⁺CD16⁺⁺単球がCOVID-19患者で顕著に減少しており、その一因がCD14⁺CD16⁺⁺単球への細胞分化不全であることが分かりました。また、遺伝子発現変動解析と細胞間相互作用解析により、CD14⁺CD16⁺⁺単球の機能不全が重症化に関与していることも分かりました。さらに、GWASで同定されたCOVID-19重症化関連遺伝子は、単球および樹状細胞で特異的に発現していること、COVID-19に関連する遺伝子多型がSARS-CoV-2感染状況下かつ細胞種特異的なeQTL(expression quantitative trait loci)効果を有することが分かりました。

本研究成果によって、COVID-19重症化に関与する細胞種を明らかにするとともに、重症化の宿主遺伝的リスクは自然免疫細胞に集約されていることを見出しました。本成果は、今後の感染症研究に資するものと期待されます。

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(2023/4/25)

重症拡張型心筋症の病態を解明し新たな治療標的を同定
~ モデルマウスおよびiPS心筋細胞を多面的に解析 ~

東京大学医学部附属病院の山田臣太郎特任研究員、候聡志特任助教、伊藤正道特任助教、野村征太郎特任准教授、小室一成教授(研究当時)、理化学研究所環境資源科学研究センターの佐藤繭子技師、豊岡公徳上級技師、東京医科歯科大学生体材料工学研究所の池内真志教授、神戸大学大学院医学研究科の仁田亮教授、国立成育医療研究センター研究所の高田修治部長、梅澤明弘所長、東京大学先端科学技術研究センターの油谷浩幸シニアリサーチフェロー(特任研究員)らの研究グループは、重症拡張型心筋症の患者家系の遺伝子解析によって同定した遺伝子変異(LMNA Q353R)を再現した疾患モデルマウスおよび疾患特異的iPS心筋細胞を樹立し、高圧凍結技法による電子顕微鏡撮影、シングルセルRNA-seq・ATAC-seq、プロテインアレイ解析といったさまざまな解析技術を用いて調べました。

社会の高齢化が進む中、日本のみならず先進国では軒並み慢性心不全の患者数が増加し続けており、その治療成績は悪性腫瘍と同等ないしはそれ以上に悪いことが知られています。拡張型心筋症は慢性心不全を引き起こす原因疾患の一つであり、核ラミナの主要構成要素の一つであるラミンA遺伝子(LMNA)に生じる遺伝子変異は特に重症な拡張型心筋症を引き起こすことが知られていますが、そのメカニズムはまだ十分解明されていません。この度、本研究グループは、変異型ラミン分子によって心筋細胞の成熟化に必要な転写因子TEAD1の働きが損なわれることを明らかにしました。本研究結果は日本時間4月15日に米国科学雑誌「Science Advances」にて発表されました。

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(2023/4/19)

コロナワクチンや化粧品にも使用されるポリエチレングリコールの体内動態解明に貢献
~ 将来の医療や製品開発に革新的なインパクトをもたらす可能性 ~

東京大学大学院工学系研究科の石川昇平助教、酒井崇匡教授と、東京大学大学院医学系研究科の加藤基大学院生(当時)、東京大学医学部/医学部附属病院の栗田昌和講師らによる研究グループは、皮下に注入されたポリエチレングリコールの体内動態を明らかにしました。ポリエチレングリコール(PEG)は、ドラッグデリバリー、組織工学、診断など多様な生物医学的用途に広く利用されている高分子であり、本研究グループが開発した医療用ゲル(テトラペグゲル)の原料でもあります。本研究では、PEGのマウス皮下からの拡散、体内分布、および代謝挙動を明らかにしました。これまでに、多くの研究者がPEGを医療用途に活用しているにもかかわらず、皮下組織など局所注射時の代謝挙動はこれまで明らかにされていませんでした。

研究グループは、本研究により、PEGの分子量が生体内挙動に大きく影響することを明らかとしました。具体的には、分子量10,000以下のPEGは皮下組織で徐々に拡散し、脂肪組織へ移行し、その後主に腎臓に分布する一方、分子量20,000以上のPEGは皮下組織に滞留し、主に心臓、肺、肝臓に分布することが示されました。本研究は、広く使用されているPEGの生体内挙動を解明し、さまざまな材料開発の基礎的知見を提供するものです。本研究成果は、「ACS Macro Letters」のオンライン版で公開されました。

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(2023/4/19)

神経難病、多系統萎縮症に対する世界初の治療法開発
~ 医師主導第2相探索的試験により有効性を支持する成果が得られた ~

辻省次東京大学名誉教授と、東京大学大学院医学系研究科の三井純特任准教授らによる研究グループは、多系統萎縮症に対する多施設共同医師主導治験(治験調整医師 辻省次、治験責任医師 三井純)を行い、高用量のユビキノール服用によって多系統萎縮症の運動症状の進行抑制を支持する結果を世界に先駆けて見出しました。

多系統萎縮症は、自律神経症状、小脳性運動失調、パーキンソン症状など様々な神経障害をきたす神経疾患であり、厚生労働省が定める指定難病に認定されています。平均50代半ばで発症し、発症から約5年で50%の方が自立歩行困難になるなど、進行性の予後不良な神経難病です。原因は十分には解明されていませんが、研究グループは遺伝因子の研究により、コエンザイムQ10を合成する酵素の一つをコードしているCOQ2遺伝子の変異が多系統萎縮症の発症と関連することを見出し、その成果をもとに還元型コエンザイムQ10(ユビキノール)」による治療開発を行ってきました。これまでに健康成人を対象とした第1相治験を実施してユビキノールの安全性を確認し、今回、多系統萎縮症患者を対象に有効性と安全性を調べる第2相治験を実施しました。今回の治験では、ユビキノール投与群とプラセボ投与群の運動症状スケール(運動症状の程度を表す指標)の48週間の変化を主要評価項目として、ユビキノールの有効性と安全性を科学的に調べました。その結果、ユビキノールが、多系統萎縮症の運動症状の進行抑制を支持する結果を世界で初めて見出しました。

なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究戦略的推進プログラムおよび革新的医療シーズ実用化研究事業の支援を受け、東京大学医学部附属病院治験審査委員会の承認のもと実施されました。本治験の結果は、英国誌eClinicalMedicine誌(オンライン版:英国夏時間4月14日)に掲載されました。

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(2023/4/14)