広報・プレスリリース最新情報(2013年(平成25年))
新開発 冠動脈狭窄症の血液検査法
~質量分析技術を用いた新しいバイオマーカー開発~
動脈硬化などにより狭くなった冠動脈をカテーテルで治療した後に、その治療部位が完治したかどうか確認する手段は心臓カテーテル検査が標準となっていますが、この検査は身体への負担が大きく、費用も高額です。そのため、心臓カテーテル検査に代わる簡易な検査法が求められていました。
このたび、東京大学医学部附属病院 循環器内科・ユビキタス予防医学講座 特任准教授鈴木亨、東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学教室 前教授永井良三、教授小室一成は、株式会社 島津製作所 基盤技術研究所 主任研究員 藤本宏隆と共同で、質量分析計を用いて新しい血液検査法を開発しました。
これにより、冠動脈カテーテル治療後の再狭窄の診断において、心臓カテーテル検査を受ける必要があるかどうかを簡単に検出することができるようになり、身体への負担を軽減できる新しい検査方法となることが期待されます。
本研究開発の成果は、クリニカル・ケミストリー(Clinical Chemistry)電子版にて5 月13 日(米国東部夏時間)に発表されました。
今後、当院ではこの診断法の実用化を目指します。
なお、本成果は、厚生労働科学研究費、科学研究費(文部科学省)、最先端研究開発支援(FIRST)プログラム(日本学術振興会)、イノベーションシステム整備事業(先端融合領域イノベーション創出拠点形成)プログラム(文部科学省)の支援を受けて行われました。
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(2013/05/17掲載)
前立腺がんに対するウイルス療法の臨床研究を開始
~遺伝子組換えヘルペスウイルスを用いた前立腺がん治療は世界初~
東京大学医学部附属病院は、泌尿器科・男性科 講師 福原浩を総括責任者として、再燃前立腺がん患者を対象にしたウイルス療法の臨床研究を開始します。
これは、がん細胞だけで増殖するようにウイルス遺伝子を組み換えた人工的なウイルスを使ってがん細胞を破壊する、新しいがん治療法です。
用いるのは東京大学医科学研究所 教授 藤堂具紀らが開発した第三世代のがん治療用単純ヘルペスウイルスⅠ型のG47Δ(デルタ)で、現在、悪性脳腫瘍を対象にした臨床研究が本学で進行中です。
今回は、ホルモン療法が効かなくなってきた、手術を受けていない前立腺がんの患者が対象です。
遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスⅠ型を前立腺の中へ投与するのは世界で初めての試みであり、安全性を調べるのが今回の臨床研究の目的です。
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(2013/05/17掲載)
造血多能性細胞の増殖を制御する新しい分子メカニズムの発見
東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター分子病態医科学部門の中島克彦助教と宮崎徹教授のグループは、遺伝子改変マウスを用いた研究から、造血多能性細胞の増殖を制御する新しい分子メカニズムを明らかにした。
ペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)によるクロマチン修飾は、様々な遺伝子を制御することが示唆されていたが、その生理機能はほとんど不明であった。
今回の研究成果により、PAD4は他の制御因子と複合体を形成し、がん遺伝子c-mycの上流に結合しクロマチンを修飾することでその発現を制御することを明らかにした。
また、遺伝子改変マウスを用いた解析から、PAD4は骨髄の造血多能性細胞の増殖を調節していることが明らかとなった。
今回の研究成果は、PAD4ががん抑制因子として機能することを示唆しており、白血病等の造血系疾患に対するPAD4を標的とした診断や治療の可能性が考えられる。
本研究の成果は『Nature Communications』(5月14日オンライン版)に掲載されました。
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(2013/05/15掲載)
低分子化合物(TD-198946)で処理した軟骨再生シート
~変形性関節症の治療を目的として~
変形性膝関節症は膝関節軟骨が摩耗する病気で、一度軟骨が磨り減ると元の状態に戻すことができないとされており、これまでの治療法は対処療法がほとんどです。
軟骨組織再生についてはすでに多くの研究開発が進んでおりますが、今回、東京大学大学院工学系研究科(医学系研究科兼担)の鄭雄一教授らは、細胞シートを培養する温度応答性細胞培養器材(株式会社セルシード製)を用いて、軟骨分化誘導能をもつ分子化合物(TD-198946)で処理した軟骨細胞シートを作製し、膝関節軟骨欠損動物モデルに移植し、より効率よく硝子様軟骨組織を再生させました。
細胞シート工学の技術と軟骨分化誘導能をもつ化合物を組み合わせることによって、軟骨組織再生を効率よく行うことができると考えています。
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(2013/05/15掲載)
再燃前立腺がんの新たな治療標的を発見
~アンドロゲン応答性の新規長鎖非コードRNA が前立腺がんの増殖を担う~
前立腺がんは最も発症頻度の高いがんのひとつで、その発症者、死亡者の急激な増加は、超高齢社会を迎えた日本においても大きな社会問題となっています。
前立腺がんの発生と進展においては、男性ホルモンであるアンドロゲンの作用が鍵を握っており、アンドロゲンの作用を抑制するホルモン療法が広く普及しています。
しかし、ホルモン療法に対する耐性ができてしまい治療効果が出なくなって再燃することが多く、問題になっています。
この場合のホルモンの作用メカニズムの詳細については、これまで明らかになっていませんでした。
今回、東京大学医学部附属病院22 世紀医療センター抗加齢医学講座の井上聡特任教授、老年病科の高山賢一特任臨床医らは、文部科学省の革新的細胞解析研究プログラム(セルイノベーション)と次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラムの支援を得て、次世代シーケンサーを活用し、新規の長鎖非コードRNA分子(遺伝子ではないゲノム領域から作られるタンパク質の情報を有さないRNA)であるCTBP1-AS がアンドロゲンの刺激を受けてがん遺伝子のように働くことを世界に先駆けて発見しました。
さらに、CTBP1-AS は前立腺がんの増殖、進展に大きな役割を果たしていること、ならびにそのエピゲノム作用を介する分子メカニズムを解明しました。
特に、ホルモン療法が奏功しない難治性前立腺がんの新たな治療の標的となりうることを明らかにしました。
この研究成果は日本時間5月3日午後11時に欧州科学雑誌(The EMBO Journal)に発表しました。
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(2013/05/08掲載)
滅菌可能な骨誘導性微小人工骨の開発に成功
骨形成性薬剤を徐々に放出するテトラポッド型リン酸カルシウム微小人工骨による骨再生
高齢化社会を迎えた現代において、種々の疾患によって生じた骨欠損の治療は健康寿命の延伸につながる重要な課題の一つです。
健常部位から採取した骨組織の移植による骨再建と比較して、人工骨を用いた再建は健常骨の採取に伴う侵襲を減らすことができるものの、人工骨自体は骨形成を誘導する能力に乏しいことが問題でした。
そのため、骨欠損部周囲に存在する患者自身の細胞に働きかけることで積極的に骨形成を促進する人工骨、つまり骨誘導性人工骨の開発が期待されています。
東京大学大学院医学系研究科感覚・運動機能医学講座口腔外科学(主任:高戸毅教授)医学博士課程の前田祐二郎氏、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の大庭伸介特任准教授、鄭雄一教授らは、骨形成性薬剤をテトラポッド型リン酸カルシウム微小人工骨に搭載することで、滅菌可能な骨誘導性微小人工骨を開発しました。本人工骨を骨欠損部に充填すると、細胞を移植しなくとも、骨形成性薬剤が徐々に放出されることにより海綿骨・皮質骨両方の骨修復が誘導され、その薬効は滅菌処理によって失われません。
本研究は、骨形成性薬剤の使用による作製・滅菌・保存の簡便さと骨誘導性を併せ持つ微小人工骨を用いることで、生体の自然治癒能力を効率的に引き出しながら、細胞移植を行わずに骨再生を誘導する方法を提案するものであり、新たな骨再生医療戦略の開発への寄与が期待されます。
本研究の成果は『Biomaterials』(2013年4月23日オンライン版)に掲載されました。
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(2013/05/02掲載)
シナプスの演算ルールを可視化することに成功!
ナノレベルの記憶形成機構解明
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経生化学分野の尾藤晴彦教授と藤井哉特任助教らは、シナプス可塑性が起こる過程を顕微鏡で観察し、シナプス酵素が行う情報処理を明らかにしました。
これまで、外界の情報は神経入力となってシナプスの様々な酵素を活性化して可塑性を引き起こし、記憶につながると考えられていました。しかし、シナプスの酵素がどのように神経入力を読み解くのか、またこれをシナプスがどのような演算ルールとして活用するのかは全く分かっていませんでした。それは従来の方法では1フェムトリッター以下の容量のシナプスを分離して生化学的な分析することができないためでした。
本研究グループは、複数の酵素の活性化を直接顕微鏡で動画として記録する方法(dFOMA法)を開発しました。この方法を用いて、シナプスの酵素が神経入力の情報を読み解く様子を、世界で初めてリアルタイムで観察することに成功しました。また、これまで単に遺伝子の実態として捉えられてきた酵素について、実はそれぞれ固有の情報処理を行う素子であるという新しい機能を明らかにしました。
今回の結果は、記憶の分子メカニズムという複雑なシステムを理解する上で重要な知見であり、将来的にはアルツハイマー病など高次脳機能障害の解明に役立つことが期待されます。また、今回開発したdFOMA法は広く生物学一般への応用が可能であり、様々な生命現象の原理を、まるで動画を見るように理解することができるようになることが期待されます。
本研究の成果は『Cell Reports』(4月18日オンライン版)に掲載されました。
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(2013/04/19掲載)
鞭毛モーターの司令塔を発見
~鞭毛を動かす分子モーターの活性を制御する中心装置の存在を初めて明らかに~
鞭毛は波打ち運動によって液体の流れを生み出す細胞小器官で、人間を含む多くの生物の細胞運動や発生に重要な役割を担っています。例えば人間の精子は、鞭毛を波打たせて泳ぎます。また、肺の気道では、吸い込んだホコリや病原体を外へ出すために、沢山の繊毛(鞭毛の一種)が粘液の流れを作っています。この様に体内で重要な役割を担っている鞭毛は、数千個のダイニンと呼ばれるモーター分子によって動かされています。鞭毛では多種多様なダイニン分子が働いていますが、異なる種類のダイニンがどのように協働しているのか分かっていませんでした。
今回、東京大学大学院医学系研究科の小田賢幸助教と吉川雅英教授らのグループは、超低温電子顕微鏡などを用いて、鞭毛の外側のダイニンと内側のダイニンを繋ぐ役割をしているタンパク質ODA-IC2を同定しました。さらに超高速度カメラ等による多角的解析から、このODA-IC2を遺伝子操作によって乱すと外側にあるダイニンは制御から外れて暴走し、内側にあるダイニンは逆に働きが低下することが分かりました。これらの結果は、ODA-IC2が鞭毛の動きを制御する上で「司令塔」として働いており、そこに手を加えるとダイニン全体に影響が及ぶ急所であることを示しています。今回得られた知見は、鞭毛運動の制御機構についての理解を深めるだけでなく、鞭毛が関わる不妊、呼吸器疾患、水頭症等の研究に貢献することが期待されます。
本研究は内閣府・最先端・次世代研究開発支援プログラム、及び科学研究費補助金の助成を受けて行われました。本研究の成果は『Current Biology』(2013年4月22日号)に掲載されます。
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(2013/04/15掲載)
歯周靭帯(歯根膜)の成熟と機能を特徴づける分子を発見
~歯の萌出とともに発現し細胞接着を増強する分子テノモジュリン~
歯周靭帯(歯根膜)は顎骨内に歯を牽引固定する重要な組織であり、咬合力への抵抗性、接触感覚などの重要な機能を担っています。一方で、口腔衛生状態の低下によって歯周炎に罹患すると破壊されてしまい、失われた歯周靭帯を再生させることは非常に困難で、今のところ歯周靭帯を含め、歯周組織を完全に再生させる有効な療法はありません。現在、歯周組織を再生する研究は多岐に展開していますが、機能的な再生を評価する指標が乏しく、再生組織が腱・靭帯としての性格を有することを評価できませんでした。
東京大学医学部附属病院集中治療部の小宮山雄介博士、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻の大庭伸介特任准教授・鄭雄一教授らのグループは、ドイツ ルートヴィッヒ・マクシミリアン大学のDenitsa Docheva 講師、京都大学再生医科学研究所の宿南知佐准教授・開裕司教授との共同研究で、テノモジュリン(Tenomodulin、以下Tnmd)という分子が、歯周靭帯の発生と機能に関わることを新たに見出しました。Tnmd は成熟腱・靭帯組織のマーカー分子であるのみならず、機能的にも腱・靭帯組織を特徴づける分子であると考えられます。本成果が、歯周靭帯をはじめとする腱・靭帯組織の再生医療において、機能的な組織の再生療法を開発する際の足がかりとなることが期待されます。
※詳細は下記ページをご覧下さい
東京大学工学部ホームページ プレスリリース
(2013/04/11掲載)
肥満から起こる様々な自己免疫病の決定的な原因の発見
~AIMによる様々な現代病に対する治療の可能性~
現代社会において、糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病が肥満に伴い発症するが、同様に、肥満は種々の自己免疫疾患の引き金になることも知られている。しかし、なぜ肥満が多彩な自己免疫疾患を導くのか、そのメカニズムは明らかでなかった。
東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター分子病態医科学部門の新井郷子講師と宮崎徹教授のグループは、そうした肥満に伴う自己免疫疾患の発症機序を明らかにし、その中心的役割を果たすのが、発表者自身が発見した、脂肪を融解する血液中のタンパク質AIM (Apoptosis Inhibitor of Macrophage)であることを見出した。これまで発表者らは、血液中のAIMの量をコントロールすることによって、肥満の進行のみならず、糖尿病や動脈硬化を抑制できる可能性を示してきた。
本研究によって、AIMの制御により、肥満に伴う自己免疫疾患も抑制し得ることが明らかになった。したがって、AIMは、糖尿病、動脈硬化、自己免疫疾患など、肥満に伴う幅広い疾患の統一的な治療のターゲットになると考えられる。
本研究の内容は、Cell Reports(4月4日オンライン版)に掲載されました。
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(2013/04/05掲載)
多くの「匂い」情報を識別できる仕組み
東京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・聴覚音声外科 教授 山岨達也、菊田周は、テキサス大学医学部ヒューストン校 助教 永山晋との共同研究において、マウスの脳内で「匂い」識別に関わる基本構造単位である細胞群を可視化することに初めて成功しました。さらに、基本構造単位内における細胞が空間的にどのように配置しているかによって神経活動が多様化していることを見つけました。
マウスの嗅球は、鼻に吸い込まれた「匂い」を最初に処理する脳の領域であり、私達がどのようにして多くの「匂い」情報を識別しているのかを知るうえで手がかりとなる領域です。しかし、嗅球の細胞が吸い込まれた「匂い」をどのように連携して処理し、「匂い」識別のしくみに関わっているのかはよく分かっていません。
本研究グループは、同じ「匂い」受容体から情報を受け取る細胞群を選択的に可視化し、その神経活動を直接計測、比較することに成功しました。その結果、細胞の深さ方向や横のひろがりといった空間配置によって、神経活動に違いが生じることを突き止めました。これは、同じ受容体から情報を受け取る細胞群は、「同じ受容体からの刺激に同じように反応する」とするこれまでの定説を覆し、「同じ受容体からの刺激に多様に反応する」巧妙な情報処理様式が嗅球の基本構造単位内に存在することを示しています。これにより、私たち哺乳類は限られた「匂い」受容体でより多くの「匂い」情報を識別できると考えられます。
この発見は、私たちの脳内で行われる「匂い」情報処理機構の理解を深めるだけではなく、中枢性嗅覚障害の病態生理解明の糸口となることが期待されます。
本研究成果は、2013年3月20日(米国東部時間)に米国科学誌「ニューロン」のオンライン速報版で公開されました。
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(2013/03/29掲載)
熱性けいれん重積後の急性脳症を発症しやすい遺伝的素因の解明
東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 発達医科学分野の水口雅教授、齋藤真木子助教らの研究グループは、アデノシンA2A受容体遺伝子の多型がけいれん重積型(二相性)急性脳症の遺伝的背景であることを明らかにしました。この型の急性脳症は日本人小児にしばしば生じ、熱性けいれん重積に続いて意識障害をきたし、後遺症として知的障害、運動麻痺やてんかんなどを残します。現状では発症早期の診断・治療が確立していません。
アデノシンは体内の信号物質(神経修飾物質)で、複数の受容体に結合して作用を発揮します。脳の中にはA1受容体とA2A受容体があり、A1には神経細胞の興奮を抑制、A2Aには促進する作用があります。
本研究により、急性脳症の発症にA2A作用の亢進、つまりアデノシンを介した細胞内情報の変化が関わっていることが明らかになったので、今後、急性脳症の新しい薬物治療を開発する際の標的分子が明確になりました。
本研究の内容は、Neurology(3月27日オンライン版)に掲載されました。
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(2013/03/28掲載)
福島原発事故後の避難による高齢者死亡リスクの分析
東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学分野の渋谷健司教授、野村周平大学院生らは、東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門の上昌広特任教授ら、南相馬市立総合病院と共同で、福島第一原子力発電所の23km圏に位置する福島県南相馬市内5つの老人介護施設の協力のもと、事故後の避難による高齢者の死亡リスクの推定と、避難プロセスにおける死亡率上昇要因の分析を試みた。
研究グループは、5つの老人介護施設について、避難を経験していない震災前過去5年間と避難期間を含む約1年間の高齢者死亡率の比較を、数理モデルを用いた回帰分析と各施設長および介護士らへのインタビューという二つの手法を用いて実施した。避難回数・距離・数値化しづらいケアの状況等を考慮した、施設ごとの死亡リスクが議論されたのは今回が初めてである。
結果として、避難後の死亡率は避難前に比べて、全体で2.7倍に増加したことがわかった。ただし、避難後の死亡率の変化には、施設によってばらつきがある。避難プロセスや施設のケア状況に関する分析により、長距離の移動による身体的負担以上に避難前の栄養管理や避難先の施設のケア・食事介護への配慮が重要であること、初回の避難による死亡リスクは二回目以降の避難よりも高いことなどが示唆された。
今回の成果により、事故直後の避難は必ずしも最善の選択ではなかった可能性が見えてきた。高齢者の避難は生死に関わる問題であり、今後の災害時には避難のリスクについても検討する必要があることが強く示唆された。
本研究の内容は、PLOS ONE (3月27日オンライン版)に掲載されました。
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(2013/03/27掲載)
内科学専攻 代謝・栄養病態学分野 門脇 孝 教授(医学部附属病院長)が日本学士院賞を受賞
この度、内科学専攻代謝・栄養病態学分野 門脇 孝 教授(医学部附属病院長)が平成25年度の日本学士院賞を受賞しました。
今回の受賞は、「2型糖尿病・メタボリックシンドロームの分子基盤に関する研究」に対するものです。
※ 受賞理由の詳細については、下記より日本学士院のホームページをご覧ください。
※日本学士院ホームページ (日本学士院賞授賞の決定について)
(2013/03/13掲載)
世界一の日本の健康寿命の危機
米国ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)と東京大学などによる共同プロジェクトである「2010年の世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases 2010、GBD 2010)」では、世界21地域での分析に加えて、今回新たに、世界187か国における死亡と障害の原因を性・年齢階級別に詳細に分析し、データビジュアル化オンラインツールを公表した。
これにより、今回の研究では、現在の日本人の健康寿命を取り巻く状況が複雑で、死亡と障害の主な原因は脳卒中と腰痛であること、最大の危険因子が栄養の偏った食事であること、また、若年層での自殺の増加を明らかにした。
本研究成果により、これまで20年の間世界第一位を誇ってきた日本人の健康寿命は、偏った食習慣や心の健康の問題、喫煙、高齢化の課題に取り組まなければ、トップの座を維持できない可能性があること、また日本人は世界で最も長寿だが、長く生きた分だけ病気や障害に苦しむ年数も増大していることを明らかにした。
本研究の内容は、ランセット誌3月5日オンライン版に掲載されました。
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(2013/03/05掲載)
アフリカ睡眠病治療薬の候補化合物と標的タンパク質との複合体構造の解明
アフリカ睡眠病は、中枢神経系を侵され最後は昏睡状態になって死に至る致死性の感染症です。しかし、「顧みられない熱帯病」と呼ばれているように先進諸国の関心が薄く、アフリカの貧困層を中心に蔓延しています。ツェツェバエが媒介する寄生性原虫アフリカトリパノソーマの感染によって起こり、年間約30,000人もの人々が死亡していると報告されていますが、正確な数字は把握されていません。現在使われている治療薬は、強い毒性や副作用があるので、より安全で治療効果の高い薬の開発が求められています。
アフリカトリパノソーマがヒトなどの哺乳類血液内で生息している時、アフリカトリパノソーマの生存に必要なエネルギーを産み出すためにシアン耐性酸化酵素(TAO)が重要な役割を担っています。TAOは哺乳類にないタンパク質なので格好の薬剤標的になり、その働きを阻害する化合物を開発すれば睡眠病治療薬へつながります。
1995年、東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 生物医化学分野の北潔教授らは、日本で糸状菌から発見された抗生物質、アスコフラノンがTAOを強く阻害することを見出しました。アスコフラノンをリード化合物にしてドラッグデザインすればもっと優れた睡眠病治療薬に導くことができるはずです。しかし、ドラッグデザインに不可欠なTAOの立体構造が全く不明でした。そこで京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科 応用生物学部門 構造生物工学研究室の原田繁春教授と共同研究を開始しました。
今回、同研究グループは、TAOやTAOにアスコフラノン誘導体が結合した構造を日本が誇るSPring-8やPFの放射光施設を用いたX線解析で決定し、両者の間に働いている相互作用を明らかにしました。その結果、さらに優れた睡眠病治療薬のドラッグデザインを加速できるようになりました。
本研究の内容は、米国科学誌「米国科学アカデミー紀要;Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」3月4日オンライン版に掲載されました。
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(2013/03/05掲載)
脳脊髄神経系にメッセンジャーRNA(mRNA)送達を可能とする高分子ミセルの開発
脳や脊髄などの中枢神経系疾患は、根治的治療が困難な難治疾患の代表例です。メッセンジャーRNA(mRNA)は神経細胞で効率よく目的とするタンパクを産生させる機能を持ち、新しい核酸医薬として治療への応用が期待されるものですが、mRNAは極めて不安定で生体内では急速に分解されてしまうこと、また自然免疫機構を刺激して、生体内で強い炎症反応を引き起こすことから、これまでmRNAの治療への応用例はほとんどありませんでした。
本研究は、このmRNAによる新しい中枢神経系疾患への治療実現に向けて、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門の片岡一則教授・位髙啓史特任准教授の研究グループにより、高分子ミセル型ドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いた、mRNAの中枢神経系への安全な送達・機能発現に世界で初めて成功したものです。
本研究では、mRNAを内包させた高分子ミセルを脳脊髄組織へ投与することにより、5日間に渡る持続的なタンパク発現を得ました。このmRNAによる長期持続性機能発現における高分子ミセルの働きとして、mRNAを安定に保持することに加え、自然免疫機構に認識されることを防ぎ、炎症反応の発生を抑えることを明らかとしました。本システムによる安全・実用的なmRNA送達の実現により、アルツハイマー病、脊髄損傷といった難治性の中枢神経疾患・外傷に対して、画期的な新規治療法の開発に繋がることが期待されます。
なお、上記の研究成果は、最先端研究開発支援プログラム「ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション」(中心研究者:片岡一則教授 URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/nanobiof/)により得られたものです。本プロジェクトは、平成21年度にスタートし、平成25年度末までに、がん・神経系疾患を始めとする難治性疾患の診断・治療に向けた画期的技術の確立を目指しています。具体的には以下の4つのサブテーマがあり、それぞれの分野において、医工薬・産独学の融合研究が進められています。
I. ナノ診断システムの創成
II. ナノ薬剤送達システム(ナノDDS)の創成
III. ナノ低侵襲治療システムの創成
IV. ナノ再建システムの創成
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リリース文書[PDF: 248KB]
(2013/03/04掲載)
脳内のマリファナ類似物質が‘慣れ’をコントロール
刺激や環境に対する‘慣れ(馴化)’は最も単純な学習であり、統合失調症や自閉症などの様々な精神疾患において障害されることが報告されている。
今回、東京大学大学院医学系研究科の菅谷佑樹助教と狩野方伸教授らは、内因性カンナビノイドと呼ばれる脳内の大麻様物質の一種である2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が匂いや空間に対する馴化を制御するメカニズムを明らかにした。
2-AGの合成が低下するように遺伝子改変されたマウスは匂いや空間に早く馴化し、神経細胞間の情報伝達が増強されやすくなっていた。
さらに、遺伝子改変マウスの馴化と神経細胞間の情報伝達の関係を調べたところ、2-AGが海馬歯状回の興奮性を低下させシナプス伝達の変化を抑えることで馴化を遅延させるというメカニズムが明らかになった。
内因性カンナビノイドは統合失調症や自閉症、依存症との関連が示唆されている。
最も単純な学習である‘慣れ’に関してマウスで見出された本研究の成果は、これらの精神疾患の学習・適応能力の理解につながる可能性があると考えられる。
本研究は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、また科学研究費補助金の助成を受けて行われた。
この研究成果は「The Journal of Neuroscience」2013年2月20日号に掲載されました。
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リリース文書[PDF: 348KB]
(2013/02/21掲載)
脳内で不安を抑える分子モーターKIF13A
レントゲンや内視鏡などによって診断を下せるガンなどの身体的疾患に比べて、不安障害やうつなどといった精神的疾患の原因はまだ十分にわかっていません。
精神疾患の原因解明のためには「安心」「不安」などといった我々の感情に結びつく高次の脳機能がどのような分子の働きでコントロールされているかを知る必要があります。
今回、東京大学大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学講座/分子構造・動態学講座の廣川信隆特任教授らの研究グループは、分子モータータンパク質KIF13Aが脳内でセロトニン受容体を輸送することで不安を抑制することを明らかにしました。
KIF13Aが働かないマウスの脳内ではセロトニン受容体が神経細胞表面まで輸送されません。このマウスでは不安が高まり、エサを探さずに暗いところに隠れようとする「心配性」の異常行動が観察されました。
不安の感じ方には個体差がありますが、KIF13Aの働きが弱いと不安を感じやすい性格になるのかもしれません。
また、セロトニン受容体は精神安定剤や抗うつ剤の重要な標的として知られていますが、KIF13Aもまた創薬標的分子となるかもしれません。
この研究成果は「Cell Reports」2013年2月7日オンライン版に掲載されました。
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(2013/02/12掲載)
神経細胞の突起の“伸び”と“つながりやすさ”は別々に制御される
~細胞骨格制御蛋白質DCLKの新しい機能を発見~
神経細胞は、樹状突起と軸索という二種類の突起をつくり、長く伸びた二種類の突起の間で接着が起こり「シナプス」と呼ばれる構造を形成します。
シナプス間の情報のやりとりにより機能的な神経回路が発達期に形成されます。
突起の伸長とシナプスの形成の両者は共に回路の形成を促進しますが、突起が十分伸びた後でシナプスが形成される必要があり、両者のバランスをきちんと調節することが必要です。
東京大学大学院医学系研究科神経細胞生物学分野 岡部繁男教授らの研究グループでは、脳の発達障害に関連する分子であるDCLKが突起の先端に局在して突起形成を促進することを見出しました。
一方でDCLK分子はシナプス内にも入り込み、突起先端でシナプスの形成が過剰に起こることを抑制することも見出しました。
DCLKはN末端に微小管結合ドメイン、C末端に蛋白質のリン酸化を行うドメインを持つキメラ分子ですが、N末端ドメインが突起を伸ばし、C末端ドメインがシナプス形成を阻害することで相反する作用が生じることもわかりました。
今回の研究により、神経突起の伸長とシナプス形成という神経回路形成に重要な二つの現象のバランスが、一個の分子の二つのドメインで制御されていることを初めて示しました。
本研究成果は、2013年2月5日に科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版(http://www.nature.com/ncomms/index.html)で公開されました。
なお、本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、科学研究費補助金などの助成を受けて行われました。
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リリース文書[PDF: 253KB]
(2013/02/06掲載)
変形性膝関節症の原因となる細胞外分子Notch の発見
変形性膝関節症は膝関節の軟骨が摩耗する病気で、高齢者の生活の質(QOL)を低下させ、健康寿命を短縮させる、いわゆるロコモティブシンドロームの代表的疾患です。しかしながらその根本的治療法は不明のままです。
これまでに、変形性膝関節症の原因分子がいくつか報告されてきましたが、その殆どが細胞の中の分子(細胞内分子)で、治療物質が届きにくく治療の標的には難しい状態でした。
今回、東京大学大学院医学系研究科 整形外科学 大学院生の保坂陽子、同研究科/医学部附属病院 整形外科・脊椎外科 准教授の川口浩らは細胞の表面に存在するNotchという受容体タンパクが変形性膝関節症に大きく関与していることを、マウスの実験によって発見しました。
細胞表面分子や細胞外分子は細胞内の分子に比べて治療の対象になりやすいという利点があります。実際に、Notch の阻害剤である低分子化合物DAPT を膝関節内に注射投与したところ、軟骨細胞に働いて変形性膝関節症を予防することを見出しました。
本成果は、米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci. USA:略称PNAS)電子版にて米国東部標準時間1 月14 日午後3 時に発表されました。
DAPT に代表されるNotch の阻害剤は、変形性膝関節症の根本的治療法の確立に繋がる可能性があります。
※詳細はリリース文書をご覧下さい。
リリース文書[PDF: 1.08MB]
(2013/01/16掲載)
記憶を思い出す源となる神経回路を解明
JST課題達成型基礎研究の一環として、東京大学 大学院医学系研究科の宮下 保司 教授、平林 敏行 助教らは、サルを被験動物とした実験により、記憶を思い出す時の信号の生成と伝播を担う神経回路を発見しました。
大脳の側頭葉は、物体についての記憶を司る脳の領域であり、物事を覚え込んだり、思い出したりする時に活動する神経細胞が多く存在することが知られています。
しかし、これらの神経細胞が、どのような神経回路を形成し、連携することによって記憶を思い出す信号を生成しているのかは分かっていませんでした。
本研究グループは、1つの図形(例えば鉛筆)を手がかりにして、事前に対として記憶している別の図形(消しゴム)を連想する作業を遂行中のサルの側頭葉で、複数の神経細胞群の活動を同時に記録しました。
その結果、手がかり図形(鉛筆)に応答しその情報を保持するニューロン(手がかり図形保持ニューロン)から、別の図形(消しゴム)を思い出す時に活動するニューロン(対図形想起ニューロン)へと特異的に神経信号が伝達し、それがさらに他の対図形想起ニューロンへと伝播していくことによって、記憶想起信号が生成され、増幅されることが分かりました。これにより、私たち霊長類が物体についての記憶を思い出す際に用いられる側頭葉の神経回路とその動作が初めて明らかになりました。
今回用いた複数の神経細胞群の活動を同時に記録し、解析する手法により、記憶想起信号の起源となる局所神経回路の解明が進むとともに、あるタイプの記憶障害に関与する神経回路についての研究の進展や、連想型データベースの高速化・効率化などへのさまざまな応用が期待されます。
本研究成果は、2013 年1月9日(米国東部時間)に米国科学誌「Neuron」のオンライン速報版で公開されました。
※詳細はリリース文書をご覧下さい。
リリース文書[PDF: 759KB]
(2013/01/10掲載)









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